2026年初以降、物価が2%以下に低下する中で、名目賃金が3%以上で推移しているため、実質賃金の前年比は6か月連続のプラスです。日本銀行の政策金利の決定に影響する実質賃金とは何でしょうか。



2026年8月5日、厚生労働省が毎月勤労統計調査の結果を公表しました。この統計は、名目賃金と実質賃金の推移を示しています。一人当たりの現金給与総額のことを名目賃金といいます。2026年6月の従業員5人以上の企業の平均では、名目賃金が531,677円でした。
一番上の図表をみてください。オレンジのラインが名目賃金の前年比を示しています。一番右が2026年6月の計数です。前年比+3.4%増加となっています。ここから2026年6月の消費者物価変動の影響を除いたのがブルーのラインで示した実質賃金です。前年比+1.6%増加しています。
実質賃金の前年比は、2025年は▲1.3%でしたが、2026年1月以降、マイナスからプラスに転化し、6カ月連続のプラスになっています。これは、物価の上昇以上に名目賃金が上昇していることを示しています。2026年初から、物価の前年比が2%以下に低下し、一方で、名目賃金の前年比が3%以上で推移しているためです。
実感として、「物価の上昇率が+2%程度?、もっとずっと上がっているように感じるけど」という声が多いと思います。それは、こうした統計が1年前との比較に対して、消費者の皆さんが実感として3~4年前の物価が落ち着いていた頃と比べているためです。
実質賃金が前年比でプラスかマイナスかは、景気判断の上でも、非常に重要です。三番目の図表をみてください。日本銀行の政策金利の推移です。2026年6月に政策金利を+0.25%引上げて1.0%としましたが、その背景には、物価の上昇以上に名目賃金が上昇、つまり実質賃金の前年比がプラスの水準で定着しつつあることが背景にあります。
さて、やや専門的ですが、名目賃金の前年比から実質賃金の前年比を計算するには、消費者物価変動の影響を除く(デフレ―ト)必要があります。
実は、このやり方には、2つの方式があります。従来からの方式は、精緻な方式なのですが、計算に使っているのが、消費者物価指数の「総合」ではなく、「持家の帰属家賃を除く総合」で、デフレ―トしています。一番上の図表のグレーのラインです。「持家の帰属家賃」とは、持ち家を借家とみなした場合に支払うはずの家賃を仮に計算したものです。しかし、これは現実の家計支出としては存在しない仮想的な支出です。
実質賃金は「賃金でどれだけのモノ・サービスを買えるか」を測る指標なので、実際に支払う物価だけを使う方が、給与収入を得ている労働者の生活実感に近い購買力を把握するのに適しています。毎月勤労統計の名目賃金は現金給与総額です。当然ながら、ここから持家の帰属家賃のような仮想的な支出が支払われることはありません。したがって、名目賃金と比較する物価側にも仮想項目を入れない方が整合的と考えて、「持家の帰属家賃を除く総合」が使われています。
ただ、アメリカ、ドイツなど主要国は、単なる消費者物価指数「総合」でデフレートして、実質賃金を算出しています。日本だけが精緻な指標を求めて「帰属家賃を除く総合」を使うと、国際比較がしにくくなります。
二番目の図表をみてください。このため、厚生労働省では、2025年3月分から、新方式として、「総合」でデフレ―トした実質賃金も併せて公表しています。新方式での実質賃金の前年比は、2025年12月からプラスに転化していて、2026年6月は+1.7%増加となっています。
実質賃金の前年比を2026年6月でみると、従来からの方式では+1.6%、新方式では+1.7%とほぼ同じになります。しかし、2025年でみると、従来からの方式では▲1.3%、新方式では▲0.8%と、+0.5%の開きがあります。これだけの開きが出るのは、消費者物価指数(全国)の2025年基準では、持家の帰属家賃が、消費者物価全体の14.56%のウエイトがあるからです。
厚生労働省は、利用者のニーズに応えるため2つの方式で公表しています。両方を使えるようにすることで利便性を高めています。生活実感を重視する人は従来からの方式、国際比較を重視する人は新方式を利用するのが良いでしょう。
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