海風の先に、新しい居場所はできていく
夕暮れの海から、やわらかな風が吹いていた。
その風を受けながら、セレシアは静かにその場所を見つめている。
まだ完成したわけじゃない。
少し木材は傾いているし、置かれた椅子の高さもばらばらだ。
誰かが途中で置いていった道具も、そのまま隅に転がっている。
でも、不思議とそこには“居場所”の空気があった。
遠くから、楽しそうな声が聞こえる。
「そこ違うって!もっとこう、ドーン!って!」
ギャラルドだった。
大きな声で笑いながら、木材を運んでいる。
その隣でクラッパが、コン、コン、と軽やかに木を叩いた。
「おっ、今の音いいね。」
「だろ?」
また木を打つ音が響く。
規則正しいその音は、まるでこの場所に新しい鼓動を作っているみたいだった。
少し離れた場所では、プクルオが静かに湖を見ている。
「風向き、変わったね。」
ぽつりと呟くその声に、ルリちゃんがゆっくり頷いた。
ルリちゃんは、この場所の昔を知っている。
まだ何も整っていなかったころ。
もっと静かで、もっと不器用だったころ。
楽しいことばかりじゃなかった。
立ち止まる日もあったし、誰も来ない時間もあった。
それでも、少しずつ誰かが集まって、少しずつ笑い声が増えていった。
セレシアはその様子をずっと見てきた。
「昔を知っている人がいるのは素敵。」
海風の中で、セレシアが静かに言う。
「でもね。」
その視線は、にぎやかなみんなへ向けられていた。
「これからを作る人がいるのも、同じくらい素敵よ。」
ルリちゃんは、その言葉を聞いて目を細めた。
守らなきゃいけないと思っていた。
昔の景色を。
昔の気持ちを。
変わらないままでいられるように。
でも、本当に大事なのは、止めておくことじゃなかったのかもしれない。
誰かへ受け渡していくこと。
新しい笑い声の中に、ちゃんと残していくこと。
クラッパの音が響く。
コン、コン、コン。
ギャラルドがその音に合わせて笑う。
「いいじゃん!なんか祭りみたい!」
「ギャラルドはいつも祭りでしょ。」
セレシアが小さく笑った。
するとプクルオが湖の方を見ながら言う。
「でも、こういう場所は長く残るよ。」
「どうして?」
ルリちゃんが尋ねる。
プクルオは少し考えてから答えた。
「誰かが安心して座れる場所には、ちゃんと物語が集まるから。」
風がまた吹く。
海の匂い。
木の香り。
夕暮れの静かな光。
完璧じゃない。
でも、だからこそ優しい。
誰かが失敗して、誰かが笑って、誰かが支えている。
その全部が重なって、“帰ってこられる場所”になっていく。
セレシアは静かに目を閉じた。
過去は、消えるものじゃない。
無理に守り続けるものでもない。
優しく受け渡されていくものだ。
そしてその先で、また新しい景色になっていく。
遠くでクラッパの木を打つ音が響いた。
コン、コン、コン。
まるで、この場所の未来を確かめるみたいに。
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