森に、新しい鼓動が鳴り始めた日
最初にその音を聞いたのは、ルリちゃんだった。
コン。
少し間を空けて、また。
コン、コン。
静かな森の奥に、規則正しい音が響いている。
「……あ、クラッパだ。」
ルリちゃんが小さく笑う。
その頃にはもう、ギャラルドが勢いよく走り出していた。
「おっ、なんか始まってるじゃん!」
草を踏み分けながらたどり着いた先で、クラッパは大きな木の前に立っていた。
カンムリキツツキの彼は、新しくできたその場所をぐるりと見回し、満足そうに頷く。
そして迷いなく、木を叩き始めた。
コン、コン、コン。
乾いた音が森へ広がっていく。
それはただの音じゃなかった。
まるで、この場所に新しい心臓を作っているみたいだった。
「うわ、なんかいい!」
ギャラルドはすぐに乗った。
木箱を叩き始め、勝手にリズムへ参加する。
「オレもやる!」
「ギャラルド、それ絶対違う音になってるよぉ……」
ルリちゃんが笑う。
その隣では、ドゥルンが木にもたれながらのんびり揺れていた。
「ん〜……でも楽しい音〜……」
眠そうなのに、ちゃんと笑っている。
クラッパはまた木を叩いた。
コン、コン。
すると風が揺れる。
葉っぱが揺れる。
空気まで少し軽くなる。
昔、この場所は静かだった。
忘れられたみたいに、誰も近づかなくなっていた。
けれど今は違う。
誰かが笑っていて、誰かが音を鳴らしている。
ルリちゃんは、その変化を静かに見つめていた。
「なんか、不思議だね。」
「なにが?」
クラッパが振り返る。
ルリちゃんは少し考えてから言った。
「昔と今が、ちゃんと繋がってる感じ。」
クラッパは嬉しそうに羽を揺らした。
「音って、そういうの得意なんだよ。」
コン、コン、コン。
また音が響く。
その音は森を歩いて、水辺まで届いていた。
湖の近くでは、プクルオが静かに耳を澄ませている。
「いい音。」
その隣で、イルディオもゆっくり頷いた。
水面には小さな波紋が広がっている。
まるで音が、水まで揺らしているみたいだった。
「新しい場所なのに、懐かしい感じするね。」
プクルオがそう呟くと、イルディオは穏やかに目を細めた。
森の音。
誰かの笑い声。
木を叩くリズム。
それらは全部、この場所に新しい物語を作っていく。
ギャラルドはいつの間にか踊り始めていた。
「よーし!森フェス開幕ー!」
「絶対違う方向行ってるってぇ!」
ルリちゃんが笑う。
ドゥルンは相変わらず木にもたれたまま。
「でも〜……にぎやかなの、いいねぇ……」
クラッパは木を見上げた。
最初はただ、音を探していただけだった。
でも今はわかる。
音には、場所を変える力がある。
静かだった場所に鼓動を与えて、誰かを集めて、笑い声を増やしていく。
忘れられていた気配の場所は、もう“誰もいない場所”じゃなかった。
コン、コン、コン。
森には、次の物語を待つ音が響いている。
そしてその音はきっと、これからも誰かをここへ連れてくるのだろう。
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