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『ヴァージン・パンク』主人公・神氷羽舞をめぐる過去についての断片的なメモ

『ヴァージン・パンク』第1弾「Clockwork Girl」の劇場公開から、およそ二ヶ月が経過しました。

そろそろネタバレを気にせず内容について言及しても差し支えない頃合いかと思いますが、地方在住や海外在住といった止むに止まれぬ事情によって、まだ鑑賞できていないというオタクもいらっしゃるかもしれません。その場合には、この記事を読み進める前に、ぜひ時間を調整して劇場へ足を運んでください。

https://x.com/virginpunk_pr/status/1964977016182374654

なお、9/26(金)より、新たに上映館が追加されます。これまで鑑賞の機会を得られなかったオタクにとっても、ようやくスクリーンに触れるチャンスが広がったことになりますので、これを機にまだ見ていないオタクはぜひご鑑賞ください!

🥤

というわけで、ここからはリアルにネタバレを怖れずに語りたいと思います。

本作の主人公・神氷羽舞には、二つの姿が存在します。14歳の子どもの姿と、24歳の大人の姿です。

映画冒頭、物語は児童養護施設から始まり、14歳の羽舞が描かれます。彼女は将来、ソーマディア(医療用人工人体技術)のエンジニアになりたいという夢を抱く、利発な少女でした。

しかし、突如として起きた襲撃事件によって児童養護施設は閉鎖され、羽舞の日常は一変します。そして映画は、彼女のその後を描くことなく、一気に10年の時を飛び越えて、24歳の羽舞が生きる世界へと移行するのです。

ここで最初に目を引くのは、この省略された10年間がストーリーのなかで具体的に描かれない、という点です。かつて可憐だった14歳の少女の現在は、ソーマディアのエンジニアではなく、賞金稼ぎとして犯罪者(違法改造ソーマディア)を狩り、その報酬で生計を立てる冷徹な「バウンティハンター」へと変貌を遂げています。羽舞は犯罪者を殺すことに一切の躊躇を見せず、そこに社会正義は無いことを、自認すらしています。

注目すべきは、羽舞の行為が単なる「私刑」ではなく、事実上この世界における「司法」の一部を代行しているかのように描かれている点です。

本作の世界において、国家の制度としてどのような司法システムが存在しているのかは一切明らかにされません。しかし、少なくとも劇中の描写からは、正規の法的手続きを経ることなく、犯罪者の命を即座に刈り取ることが機能してしまっている現実が浮かび上がります。つまり羽舞による狩りは、間接的とはいえ死刑執行の役割を担っています。

しかも重要なのは、その「異常」が異常として強調されない点です。バウンティハンターによる「直接的な処刑」は黙認され、逆に社会を維持するための現実的な装置として制度化されている。

むしろ強調されるのは、警察や治安機構の無力さです。劇中ではその「無能さ」を告発する台詞が、羽舞からも、さらには悪役として登場する違法改造ソーマディアの凶悪犯罪者トミー・Jからも発せられます。逮捕すべき人物を取り逃がす、事件に介入できずにただ傍観する、あるいは組織の腐敗によって機能不全に陥っている姿。これらが示されることで、この世界の空洞が鮮やかに浮き彫りになっているのです。

その上で、もともとは裏稼業にすぎなかったはずの活動が、いまやひとつのビジネスとして整備され、殺しを専用に請け負う〈アルキメDEATH〉という組織まで存在しているということ。さらに、それに加えて、競合する別の組織の存在までが示唆される。つまり、処刑の請負が複数のプレイヤーによって担われる、いわば市場経済のようなかたちで展開されていることが明示されているのです(マギーとガウディが「横取り」と共通の台詞を発するのもポイント)。

ターゲットの生死は不問という話があります

こうした描写は、劇中で説明的な言葉に頼ることなく、淡々と積み重ねられていきます。観客は、細部の描写を拾い集めながら、司法制度が形骸化し、その空白を処刑ビジネスが埋めているという社会の姿を、必然的に読み取らざるを得ないのです。

それでいて、当の羽舞にとって重要なのは、正義でも制度でもありません。彼女が犯罪者を狩るのは、社会の欠落を埋める代理の司法などという大仰な役割よりも、日々の糧を得るための手段のひとつとして殺しを選んでいます。だからこそ、その姿はより一層不気味であり、同時にリアルでもあります。

🧙

それでは、羽舞をこのような存在へと変えてしまった理由は何でしょうか。14歳から24歳までの「空白の10年」には一体何があったのか。物語はまだ第1弾にすぎず、今後のシリーズで描かれるのか、それとも永遠に謎として残されるのかは分かりません。ただし、現時点でも推測の手がかりとなる断片はいくつも散りばめられています。

そのひとつが、本作のタイトルロゴに添えられた英語の一文です。

Beaten down by repeated misfortunes, she became a mere shadow of herself.

これは「度重なる不運に打ちのめされ、彼女は抜け殻になった」という意味合いですが、このフレーズが指している「彼女」とは、やはり羽舞のことだと考えるのが自然でしょう。もちろん他の人物に重なる可能性も否定できませんが、少なくとも羽舞がその一人であることはほぼ確実です。14歳から24歳へと至る過程で、彼女が背負った運命を端的に言い表す言葉として、この一文はきわめて象徴的に響きます(あるいは、これから待ち受けるひとつの運命を指すものなのかもしれません)。

そして本作の冒頭に差し込まれるオープニング映像も、「空白の10年」を読み解くための重要な手がかりとなっています。

わずか30秒弱ほどの短い映像でありながら、大量のカットが目まぐるしく切り替わるため、初見では何が描かれているのかほとんど把握することが叶わなかった観客も多い気がしますが、自分はいつの間にか10回以上『ヴァージン・パンク』を観るべく劇場に足を運んでおり(前売券を11枚買っていたので必然でもあります)、その積み重ねのなかで少しずつ画面を掴むことができました。

まず、オープニングは破壊され、閉鎖を迎える児童養護施設のカットから始まります(正確には羽舞の手元を映したクロース・アップがファーストカットです)。そこから続くカット群では、羽舞が初めて銃を手に取り、人を殺める、そして孤高に生きる決意の瞬間が、連続的にではなく断続的なイメージとして、主に止め絵で描かれています。

この短いオープニングは、「空白の10年」を凝縮したフラッシュバックのようなものであり、羽舞という人物がどのようにしてバウンティハンターへと変貌していったのかを示唆しているのです。

本作の主題歌の『Breakin' Down』の歌詞には、「行きずりの男たちに蹴りをつけて/満たされないこの街からの "Set me free."」という一節があります。この「Set me free」という言葉は、歌詞のフレーズにとどまらず、実際にオープニング映像の背景に登場するネオン看板のサインとしても描かれていました。

また、6月から8月にかけて舞台挨拶に登壇された梅津監督は、オープニングのなかに「養護施設を出てから羽舞が初めて人殺しをするシーン」が含まれていると明言されていました。このシーンが、どのカットを指しているのかについてここで詳細に触れてしまうのは楽しみを奪うおそれがあるので控えますが、意識して観てみれば、驚くほど明瞭に、これしかないというカットがひとつ浮かび上がってきます。

そのカットを含む一連のシークエンスは、オープニングの最後に収束します。そこでは、目つきが一変した羽舞の表情があり、彼女がもはや以前の「14歳の少女」ではないことを決定的に印象づけるのです。わずか数秒の表情の変化に、10年間の喪失と変貌が凝縮されている、まさにオープニング全体を貫く主題的瞬間だと言えるでしょう。

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さらにここで羽舞の過去を読み解くうえで重大なヒントとなるのが、『ヴァージン・パンク』劇場パンフレット Clockwork Chronicleです。価格は4,000円という強気な設定で販売されましたが、全80ページに及ぶこのブックレットは、本作に関する最も包括的な資料と断言して問題ありません。

梅津泰臣 インタビュー
横田晋一&船隠雄貴&Niθ 対談
阿部厳一朗&本庄雄志&会津孝幸 対談
観動真歩&勝冶果歩&渡辺康子 対談
高橋しんや&江上怜 対談
高橋悠也 インタビュー
松原理恵 インタビュー
出羽良彰 インタビュー
はたしょう二 インタビュー
久保田光俊&鈴木隆介 対談
宮下早紀 インタビュー
加隈亜衣 インタビュー
小西克幸 インタビュー
八代拓 インタビュー

劇場パンフレットに収録されているインタビュー

監督・スタッフのロングインタビューをはじめ、美術ボード、プロップ設定、さらには作画・演出マニュアルに至るまで、制作の細部を具体的に伝える多彩な資料が収録されています。これは間違いなくマストバイの一冊です。

このなかのインタビューで語られていることについても触れたいところなのですが、とはいえ、ここでいったん取り上げたいのは、収録内容そのものではありません。注目したいのは、むしろその「外側」にあたる部分です。意外にも知られていない事実として、このブックレットには表紙裏と裏表紙裏に、それぞれ英文が印刷されているのです。

ぱっと見では単なるデザイン要素の一部のように思えるかもしれません。けれども実際には、映画本編やタイトルロゴと深く響き合う意味深な言葉がそこに刻まれているのです。製本の構造上、中央付近の文字はわずかに見切れて判読しづらくなっていますが、文脈を補えば、おそらく次のように復元できるでしょう。

RED SPRAYS UPON BUTTERFLY'S WINGS.
THE BUTTERFLY'S PRAYER GOES UNANSWERED.

SHE SET OUT INTO A WORLD OF ICE.
AT FIFTEEN, SHE KILLED HER FIRST PERSON.
AT SIXTEEN, HER TEARS DRIED UP.
AT SEVENTEEN, SHE NO LONGER SMELLS THE IRON OF BLOOD.

AS AN ADULT, RED IS THE ONLY COLOR REFLECTING IN HER EYES.
THE GIRL FROM THAT SPRING EXISTS HERE NO MORE.

このテキストは、まるで羽舞の失われた人生を断片的に刻んだ詩のようであり、彼女の成長と変化を描き出しています。機械的に和訳すれば、おおよそ次のようになります。

蝶の翼に赤が飛び散る。
蝶の祈りは、届かない。

氷の世界へ歩き出した少女。
十五歳、初めて人を殺した。
十六歳、涙は枯れ果てた。
十七歳、血の鉄臭さを感じなくなった。

大人となった彼女の瞳に映るのは、赤だけ。
あの春の少女は、もうどこにも存在しない。

ここで記されている「あの春」とは、かつての羽舞自身を指しているのでしょう。彼女の名前に含まれる「氷」のモチーフと呼応するように「氷の世界」という言葉が置かれ、さらに「蝶」の意匠が添えられることで、羽舞の存在は脆さと変容を象徴するイメージへと重ねられています。

十五歳で人を殺め、十六歳で涙を失い、十七歳で血の匂いすら感じなくなったという記述は、羽舞がどのようにして「少女」から「バウンティハンター」へと変貌していったかを、詩的な凝縮のかたちで表現しているのです。

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これまで羽舞に関するいくつかの情報を見てきました。とはいえ、その輪郭はいまだ断片的にしか示されていません。そもそもなぜ彼女が児童養護施設にいたのか、異国の地で日本人として(あるいは少なくとも日本人の名をもつ者として)どのように過ごしてきたのか、さらには乃愛・アンドリエットとの抜き差しならない関係性など、依然として気になる点は数多く残されています。

まだ『ヴァージン・パンク』は第1弾ですので、ストーリー的には序盤で、羽舞についてはこれからさらに語られていくのでしょう。どのような過去が明かされ、どのような関係が紐解かれるのか。次の展開を楽しみに待ちたいところです。

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以下、関係あるような関係ないようなナイショの話(まったく内緒ではありません)。もうひとりの登場人物、ヴェスパについて。

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