未来への橋
ぐるぐる、ぐるんぐるん。
ふらふら、ふうらふらん。
朝起きると、そんな感じで目眩に襲われ急に不安になった。
持病のパニック障害のせいなのか、疲れや睡眠不足からなのか、それとも梅雨の時期に特有の低気圧が原因なのかはっきりとは分からず、仕事にも行けない一週間を過ごした。
車の運転が厳しいと判断したのでかかりつけの病院にも行けなかった。
ダメ元で息子に連絡をすると、電車とバスを乗り継ぎ、五時間かけて帰って来てくれたので、とてもありがたかった。
息子はまだ免許を取得していないので、自転車でいろいろと買い出しに行ってくれた。しょうが焼きや豚キムチ、しらすご飯やチャーハンなど、私がよく作ってあげていた料理を今度は息子が作ってくれた。
私は月に一度、通院している。
毎日服用する薬に加え、頓服用にも処方してもらっているので、その薬や息子が買って来てくれる栄養ドリンクなどを飲んで体調回復に努めた。
ダウンするのは久しぶりであった。
子供達がまだ小さい頃、過労で倒れ一週間ほど入院した経験がある。
妻を病気で亡くし、まだミルクとオムツの手放せない二人の子を連れ実家に帰ったけれど、育児を主としながら生活を立て直すことが一番であった為、なかなか思うような仕事を探せなかった。
がむしゃらに働きたい気持ちと、たった一人の親として、母親の代わりもしなければという気合いが空回りしてし、仕事中に目眩がして床に倒れ込んでしまった。そして気がつけば病室のベッドの上に横になっていた。
心配そうに覗き込んでいる二人の子供の顔を見て、私はある意味生き返ったような気持ちがした。
自分の体はこの子達の命につながっているんだと改めて思った。回り道や寄り道をしながらゆっくり歩くことが何より大切なんだと強く思った。
どんな点滴や薬より、子供の愛情深い眼差しや笑顔こそが、自分にとっての生きていく為のエンジンであった。
さて、数日間の休養のおかげか、体調もだいぶん回復し、こうやって久しぶりにパソコンを開くことが出来ている。
息子がしばらくそばにいてくれているおかげで、食事や洗濯などの心配もせずに済んだ。
高校生の時、初めて寮生活が始まる時、私は息子のことが心配で心配でたまらず、毎日連絡をしていたことを思い出した。
今では私の方が逆に心配される立場になっているので、とんだ笑い話だ。
夕方、久しぶりに散歩へ出掛けた。
息子もついて来てくれた。
まだ若いであろうお父さんが、二人の小さな子供と手を繋いで歩いているのが見える。
「ほら!ちゃんと手を繋がないと危ないよ!自転車とか車にぶつかってもパパ知らないよ!」
やんちゃ盛りの男の子は逞しい顔でお父さんをチラリと一度見て、それからまだこれくらいは大丈夫というような雰囲気で前に走り出した。
少し進んではお父さんの顔色をうかがい、もうちょっとくらいは怒られないだろうと経験値を計算し、さらに走り出したところでお父さんが大きな声を発した。
「もう知らんからね。パパの言うこともそんなに聞けないのならもうどこへでも行きなさい!この前もそうやって勝手に走り回って膝小僧を怪我して泣いたのは誰ね?パパはもう帰るから!」
その勇敢な勇者もとうとう観念したのか、慌ててお父さんの隣へやって来て、三人仲良く帰って行った。
梅雨の晴れ間の夕日はとても暑く、汗ばむような陽気だ。
息子と二人でコーヒー買い、海岸に座って海風にあたりながらアニメや戦争の話題になった。
なんで人は殺しあうのだろうか。
もしこの地球が明日にでも無くなるのならば、それでも人は目の前の他人を憎むのだろうか。
産まれた時は皆が皆、無垢な天使なのに、いつから人はおぞましい悪魔に変身するのだろうか。
誰も見ていないところで、そっと小さな種を蒔くような人になれたらいいのにな。
そんな話を息子と二人でしていると、海鳥が近くで鳴き、遠くで汽笛が鳴っていた。
こんな幸せな光景が、いつまでもいつまでも続けばいいなと、大きくなった息子の横顔を見て思った。
妻が生きている頃、私たちはどこに行くにも必ず手を繋いでいた。
私は汗かきなのでいつも手のひらがベタベタになり、それが自分の大きなコンプレックスだった。
妻は、それがいいの、といつも言ってくれた。
そんな優しい言葉をかけてくれたのは、妻が初めてであった。
子供達が中学生にあがるころまで、私達もいつも三人手を繋いで歩いていた。
成長した子供と改めて今手を繋いだら、一体どんな気持ちなのだろう。
恥ずかしくもあり、温かくもあり、それが世界一の幸福なのかも知れないなと思う。
人の手は、切り離し、投げ捨て、武器を取る為にあるのではなく、きっと優しく包み込み、握り、繋ぎ、放さない為にあるのだろう。
だから生まれたての赤ん坊はしっかり手を握っているのだと思う。
手を繋ごう。
そこから全てが
始まり、続くと思うから。

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私の記事に立ち止まって下さり、ありがとうございます。素晴らしいご縁に感謝です。