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雨に願えば

今日は久しぶりに早朝からメバル釣りにでも出かけようかと考え、昨夜から釣具の手入れをしていたんだけれど、ニュースの速報で豪雨予報が発出され局地的に激しい雨とのこと。
こりゃ釣りどころかウォーキングも出来ない位の土砂降りだ。

予定を変更し、この天候が落ち着くまでは本棚を片付けたり窓を拭いたりして、家で過ごそうと思っている。

きみはもちろん知っていると思うけど、ぼくはね、こうやってnoteに少しずつだけれど文章を書いているんだ。

きみと二人で交互に書き合った日記や、子供達の成長記録なんかを毎日何年間も書き綴った大学ノートが熊本地震で水没してしまい、手元に残ったのはほんの僅かだった。だから何かの形で残したくて、辿々しい不慣れな指と頭をなんとか活用して、こうやってパソコンに向かっている。

きみと初めて出会った日のこと、ぼくが肺気胸で入院したこと、婚約をした日のこと、きみが妊娠したこと、休みの日に駒沢公園までお弁当を持って散歩に出かけたり少し先の馬事公苑へ桜を見に行ったこと、三軒茶屋の古い映画館の話や、桜新町に引っ越してサザエさん通りを初めて歩いた日のことなんかを、ふたりで順番に書いていたね。

きみが亡くなった夜にひとりで紙切れに書いた日記は、その後きちんとふたりの日記帳に挟んでいたけれど、それも流されてしまった。

少しだけ読める箇所を書き写し、記憶を辿って文章にしているよ。

あれはいつだったか、多分梅雨入り前の少し湿気の多い日曜日のお昼だったと思う。
そう、ちょうど今日みたいな大雨の日だった。

せっかく一ヶ月前から念入りに計画していたお出かけの予定が台無しになってしまい、お互いどこにそのモヤモヤした感情をぶつけていいのか分からず、無言できみが作ってくれたパスタを食べていたね。

何かの話が引き金となり、初めてと言っていいくらいの言い合いをしてしまった。そしてそのままでは済まずに大げんかに発展し、きみは大きなカバンを押し入れから出すと荷物を詰め込んでいた。

ぼくもちゃんと謝ればよかったのに、

「ケンカの度に荷物まとめて出て行かれるんじゃ言いたい事も言えない関係になってしまうんじゃない?ずるくない?それって。」

と、火に油を注ぐような発言をしてしまった。

きみは怒ったり泣いたりして、多分疲れていたんだろう。
別の部屋で夕方まで寝ていたからぼくは残りのパスタを全部食べ、音をあまり立てないようにすぐに洗い物に取りかかったよ。
オリーブオイルがなかなか取れなくて、何度もスポンジに洗剤を加えながらなんて言って仲直りをしようか、あれこれ思案していた。

どうした訳か夜にはちゃんと仲直りをして、ふたり手を繋いで近所の居酒屋に行ったんだよね。
今度実家の熊本に帰ったら一緒に魚釣りをしようときみを誘ったら、きみは「エサとか魚を触れないからいやだ」
って言った。だからぼくはふざけて、虫が苦手なきみの目の前で、ニョロニョロと指を使って釣り針に付けるエサの真似をしたら、きみは子供みたいに嫌がったね。
仲直りの大事な夜に、つい悪ふざけをしてしまって、あれはぼくが悪い。

日記はなくなってしまったけれど、不思議とそんな何気ない普通の一日が、かけがえのない珠玉の思い出として、この少し白髪の交じる頭の中に大切にしまってあるよ。

思い出はもちろん尽きないが、ひとつ、きみに伝えたい出来事があるから何よりそれを書こうと思う。

しゅんがこの前帰省した時、晩御飯を食べながら不意にこんな話をし始めたよ。「パパ、おれさ、この前バイト中にお客さんからクレーム言われて、社員の人に報告したあと、裏の倉庫でちょっと落ち込んだ感じで商品の整理してたんだよね。そしたらさ、誰も居ないはずやのに、背中のちょっと先の方になんか人がいるような感じがして振り返ったけど、やっぱり誰も居なかったよ。こわいとかも全く感じなくて、なんかさ、落ち込んでいたのに急に元気が出て、身体が軽くなった感じがしたんよね。おれさ、あれ多分、ママだったかもって思うんだよね。今までも何度かそういう経験あるんだよね」

しゅんはさ、少しずつ言う事が大人っぽくなってるよ。成長してると思う。
甘えん坊でいつもぐずぐず言って、ご飯を口に入れてもすぐに吐き出して、ぼく達夫婦は結構困ってたよね。

けれど今ではね、一人前のことをきちんと言う子になった。

この前、しゅんにこんな相談をした。

「しゅんはさ、幼馴染とか高校の友達とか、大学時代も仕事先でも、ほんと友達が多いよね。うわべとかじゃなくて、本当の親友がたくさんいてすごいなぁって思うよ。パパはさ、どっちかと言えば頼られたり相談を受けることはあっても、自分が心から悩みを打ち明けたり、逆にいじってくれるような友達が少なくて、男子校だった高校時代の友達数人なんだよね。
今ではあんまり連絡もとってないし、しゅんみたいに毎月旅行に行ったり温泉に入ったり誰かの誕生会を開いたり、大人になってそんな関係はなくなった感じなんだよ。周りがパパには少し気を遣うっていうか、頼りにされるのはありがたいんだけど、もっとこう、しゅん達みたいに心からバカ騒ぎしたり笑いあったり、どうやったら人とそういう関係になれるの?」

すると、

「そうね、おれももしパパが親じゃなくてクラスとかにいる人と考えたら、やっぱり少し近寄りにくいかも。パパは自信家の雰囲気があってちょっと人の輪から離れて距離を置いて傍観する感じでしょ?話してみるといい奴なんだろうけど、印象的にあんまりバカなことを言わない感じがするし、ふざけておちょくったら逆にバカにされそう。パパは、そんな自分でもいいかな、しょうがないかなって考えてる?それともそんな自分が嫌いで、出来るなら状況を変えたいって思ってる?もし変わりたいなら、自分が周りを好きになって溶け込む雰囲気を作らないと、相手は距離を作ると思うよ。大袈裟かもだけど、愛さないと、愛されないと思うよ!」

いやいや、無料の電話相談よりきちんとした答えが返って来て、ぼくはびっくりした。YouTubeでアニメを観ながらハイボールを飲み、そんな助言をしている姿を、ぜひきみにも見てもらいたいよ。

今日は雨がひどくて、あの時と同じようにどうやら外出は出来ない感じだ。
だからそのついでという訳ではないが、きみにお願いがある。

しゅんもわかなも、やがて就職活動が始まったり、いつの間にか大人の仲間入りだ。
思っている以上に苦労もするだろうし、知っての通りこんな世の中で何が起こるか分からない。
そんな苦労や壁も、生きて行く中では大切な経験だと思う。
ふたりに必要な試練はそれぞれが自分の力で乗り越えて行くべきだと、父親としては考えている。

だから、たまにふたりの心に、勇気と励ましを与えてあげてほしい。

苦しい時、辛い時、どうかそっと見守り、背中を押してあげてほしい。

「そんなの、当たり前でしょ?いつも見守ってるよ!」

きみはそう言うと思うから、もうひとつ、別のお願いをしよう。

あの大雨の日、ぼくときみが初めてと言っていいくらいの大げんをしてしまった原因は一体なんだったんだろう?

そしてどんな風に、夜仲直りをしたんだっけ?

ぼくはちゃんと謝ったかな。

それがどうしても思い出せなくて気になっているから、いつか気が向いた時にでも夢に現れて、ぼくと話をしてくれないか。
ほんの少しの時間でいいから。
会って、話がしたいよ。

そしてその機会があるのなら、どうしてもきみに尋ねたいと、前々から、きみが天国に旅立った日からずっと胸にしまっていることがある。

それは他の人に知られると少し恥ずかしいから、その時きみにだけ伝えようと思っている。

あ、この今日の雨、あの時ぼくがニョロニョロとエサに使う虫の真似事をしてきみをからかったから、ちょっとした仕返しで、きみが降らせているんじゃないの?

今度そのことも、ふざけずにきちんと謝るよ。

おや? あれ?

お日様が、笑った。






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ぞうさん。 私の記事に立ち止まって下さり、ありがとうございます。素晴らしいご縁に感謝です。