スイスの思い出④ ルガノでの偶然から始まった、小さな縁の物語
30年以上前のことだから、ルガノまでの行程はもう曖昧だ。たぶんスイスエアーでチューリッヒ経由だったと思う。
ただ、その乗り継ぎ便で隣に座った女性のことは、今でもはっきり覚えている。
彼女はスイスエアーのCAで、中東系の落ち着いた雰囲気の女性だった。休暇をルガノで過ごすために乗っていた。
機内で何気なく話すうちに、私が友人の結婚式でルガノに来たこと、翌日に少し自由時間があることを伝えると、「じゃあ一緒に観光しましょう」という流れになった。
当時は携帯電話もなく、連絡手段といえばホテルの電話番号を伝えるくらい。正直、社交辞令だろうと思っていた。それでも、どこかで少しだけ期待していたのかもしれない。
翌朝、ホテルのフロントから電話が入った。本当に彼女が連絡をくれたのだ。驚きと嬉しさが一度に胸に広がった。
彼女はホテルまで迎えに来てくれて、私たちはルガノ湖の周遊クルーズへ向かった。
湖を渡る風、静かな水面、途中で下船して歩いた小さな村の石畳。そのどれもが、初めて会ったばかりの人と共有するには不思議なくらい心地よかった。
散策途中に見かけたケーブルカー乗り場の看板に「funicolare」と書かれているのを見て、「もしかして、あの“フニクリ・フニクラ”と関係ある?」と一人でテンションが上がったのもよく覚えている。(実際、語源は同じだと知ったのはずっと後のことだ。)
クルーズが終わる頃、私たちは住所を交換し、その後も文通が続いた。
どれくらい経った頃だったか、彼女から「夫の仕事の都合で、家族で神戸に数日間滞在する」と知らせが届いた。私は関西在住ではなかったけれど、迷わず会いに行った。
その頃、私はテディーベア作りにはまっていて、ちょうど完成したばかりの手作りのベアを彼女の娘さんにプレゼントした。小さな手でぎゅっと抱きしめて喜んでくれた姿が、今でも心に残っている。
神戸の南京町で一緒にランチをした。旦那さんが選んだ中華レストランで食べた「鶏のから揚げのレモンソース」が驚くほど美味しくて、あれ以来、あの味を求めてレシピを探し続けている。
旅の味の記憶というのは、どうしてこんなにも強く残るのだろう。
ルガノでの偶然の出会いが、国境を越えた文通になり、家族を交えた神戸での再会になり、そして小さな食卓の記憶へとつながっていった。
旅は風景だけでなく、人との縁をそっと連れてきてくれる。あの時の湖の光景とともに、そのことを今でも思い出す。
