中小企業診断士のための業界別診断辞典
まえがき
同じ決算書の様式を用いながら、日本の企業の細分類:1,460業種はクセが強い。本書では、その中でも中小企業診断士と接点が多い10業種を業界解説書とは違い、筆者の歪んだ視点から解説している。都合により、大分類、中分類、小分類、細分類が混在する点はご容赦いただきたい。
農業(大分類 A)
(中分類01:農業)
「努力が収益に直結しない典型的な産業」
・この業界の正体
農業といえば、日本で一番一般的なのは稲作だろう、米農家は国民の主食の生産を担う傍らで、米価格の安定のための減反政策等により生産をコントロールされてきた。稲作以外にも、野菜、果樹、花卉など様々な作物があり、それぞれに専業または兼業の農家が従事している。
農業とは他からの新規参入が非常に難しい構造にある。実際の運営は、地域社会単位や作物単位で共同体を構築しているケースが多い。それは、良くも悪くもであり、護送船団方式である。つまり、良い時期は地域全体で良く、悪い時期は地域全体で悪い。それこそが、地域社会の連携を強固なものにしてきた。
組合への依存というよりも、生活の殆どが組合頼みという地域も少なくはないだろう。そのため、独自の販路開拓などを考えたことがない農家の方が圧倒的に多い。作ったものは組合に出荷、それで完了なのだ。組合を一方的に悪とする論調も多いが、少なくとも営農部門は農業者に寄り添っている組合も少なくはない。
収益構造としては、補助金漬けと思われるだろうが、2018年に減反政策が廃止されて以降は、個別農家にあからさまな補助金投入は減っている。ただし、食用以外の用途米への転換や水田の別用途への活用には補助が出るケースがある。
個別にといったのは、農道、共同保管庫、灌漑設備といった投資は当然ながら農林水産省の事業で実施されており、それらを活用するのが実質的に農家だけとなれば、間接の補助はかなりの金額になるだろう。
このように、業界は食料自給率と密接な関係を持つため、国により政策的にコントロールされることが多い。
■ 農業の3分類
稲作:構造誘導型(政策依存)
野菜:価格安定型(条件付き市場)
果樹・花卉:競争型(完全市場)
・なぜ儲からないのか
農業は儲からないとよく聞くし、農家自体も良く口にする言葉だ。本当だろうか。
農業の収益を分解すると、単純に農作物の販売価格が売上となる。それに対する原価としては、土地、ハウス、農業機械といった資本性の高いもの、苗、堆肥、農薬といった原材料性の高いもの、労働力といった労務性の高いものに分類できる。業界としては、かなり資本集約かつ労働集約である。
ここからが、業界の特殊性であるが、天候等に生産性が大きく影響を受ける。これは容易に想像の範囲だろう。一方で、生産性が高すぎることが高収益に直結するとは限らない。
農作物の出口は、一般的に市場による取引価格で卸売価格が決まる。つまり豊作(=生産性が非常に高い年)であれば、作物の売価は低下する。過剰に収穫された農作物を農家が自身で廃棄処分しているニュースをご覧になったことはないだろうか。これは、直接的な豊作対策である。一般の製造業であれば、生産目標を超えた製品を破壊する行為であり、にわかには理解しにくい。
ただ、こう考えれば簡単だ。作物は生物であり、保管には期限がある。つまり、収穫期に市場の需要を遥かに超えて収穫されれば、価格は完全に崩壊し、生産原価を下回る販売単価になったうえで、売れ残るという状態になる。そんな状態に陥るのであれば、市場の需要程度まで出荷量を調整した方が良いわけである。
一方で、天候不順で収穫量が極めて少ない場合は、市場価格は即座に値上がる。特にBtoB仕向はメニューが固定化されており、多少値上げされたからといって、その都度メニューを組み替えるというのは非経済である。よって、少ない生産量であっても取引単価の上昇である程度のカバーが可能となる。ただ、極端な地域的な天候不順は致命傷の危険もある。
このように、頑張っても意味がない作物が多いという構造が、業界が儲からない仕組みである。農業は儲からないが、農業が簡単に破産するかと言えば、それはイコールではない。
■ 農業の収益構造売上:
市場価格(自分で決められない)
生産:天候依存(自分で制御できない)
コスト:固定費高い(逃げられない)
=コントロールできる領域が極端に少ない
・儲けるには
すべての農業者が儲からないかと言えば、それは間違いである。農業者が儲けることができる構造は、販売価格を自身でコントロールできる環境に限られる。
つまり、努力がダイレクトに収益として跳ね返ってくるケースである。ただし、これは組合のファーマーズマーケットや道端の直売所で販売するという意味合いではない。自身の作物を指名買いしてくれる購入者を増やすためには、他者との差別化を図り、それを対外的に明示し、存在を知らしめる必要がある。
これは、冒頭で述べた地域社会の護送船団方式に反する。農業共同体は離反を極めて嫌う。これには深い理由があり、一概に責められるものでもない。古くは、人力で農業をしていた時期は、地域社会で労働力を融通し合っていた。お互いの協力と連帯が生命活動に直結していたと言える。足並みを揃えない者は、足並みを揃える者達にとって、自分たちの生活を脅かす脅威に映るわけである。
具体例を出そう、一時期、農業の後継者不足対策として新規就農を後押しした時代があった。新規就農を希望する者の多くは、無農薬栽培、有機栽培などといった既存の農業者との差別化による付加価値の創生を志す。多くの地域共同体はこれを極めて嫌う。何故ならば、特定の区画が無農薬であれば、その区画には害虫が集まり雑草が増える。雑草や害虫に区画の線引きは関係なく、やがて近隣の田畑へ被害を及ぼすことになる。
儲かっている農業とはどのような形態か。端的に言えば、出口を整えスケールしていくことである。少し先述したが、自社のブランディングを堂々とすることが許される環境を構築することが必須である。組合離反ではなく、関係性を構築することも大切だ。組合は独自経営を嫌う。それは自身のコントロール下から逸脱して管理が不可能になるからだ。苗、肥料、農薬、トラクター、設備、燃料、住宅、貯金、ローン、全てを組合で賄って貰ってこそ最大の利益となる。
ただ、共同であれ単独であれ、地域で一定の力を得ることに加え、組合と一定の距離感を保ちながら活動することで、自社をブランディングし、作物の差別化と直販ルートの開拓は可能となる。直販ルートは様々だ。安易にECへ行きがちだが、地域で有力なこだわりスーパーの棚などを狙ってもいいだろうし、勢いのある地域の飲食店と提携するのも面白い。
そうして次第に力が付けば、今度はスケールが可能になる。高齢化により休耕を望む田畑は多い。それらを借り受けスケールすることで、生産性は大幅に向上する。直販という出口があってこそ、生産性は意味を成すことを忘れてはいけない。
因みに、規格外品についても同様だ。フードロスなどを背景に規格外品の有効活用などというが、ブランド作物に関して言えば、規格外品は得てして規格品とカニバリを起こす。結果、規格品は売れ残り、やがてセール品へと棚落ちしていく。最終的にはブランド価値を棄損すると思われている。これは、アウトレットモールの構造に酷似している。規格外品の方が売れ行きが良いと判断すれば、規格品を規格外として流通させる農家が出現するというわけだ。
規格外品が成立する条件は、我々が思う以上に厳しいものである。規格品の圧倒的なブランド力、常態的な品薄、品質と流通経路の管理が完璧である前提で初めて規格外品が成立する。
加工品についてはいわずもがなであり、農商工等連携や六次産業化といった国の政策や補助金によっても、二次加工品の成功例が極めて少ないのは、これまで述べてきた要因と根本原因は同じである。
・中小企業診断士の姿勢
中小企業診断士が農業者に関与する場合のポイントであるが、まずは余程の会社組織形態になっていない限りは決算書を鵜呑みにしないことだ。決算書に乗らない数字が多数ある。また、赤字であっても補助金で戻す構造が常態化しているケースもある。
次に、これまで述べてきた制約事項を理解したうえで発言をすることを心掛けた方がいい。我々は直ぐに独自性、差別化、生産性向上、二次加工、直販、ブランド化などと言うが、農業においてはそれほど簡単ではない。
独自の生産方式で付加価値の高い農作物の安定生産に成功した農業者は、それまでの過程でかなり辛い過程を経ている。有機や無農薬栽培は組合の売上を下げることになり、組合への出荷は叶わない。地域からも所謂村八分の扱いを受けることが多い。それでも信念を貫いて成功させた者だけが辿り着いた高みが独自の生産方法と言える。
中小企業診断士は、それを十分に理解したうえで、農業者と対峙することが必要になる。
ここに記載したヒントで、真に経営向上を望む農業者に対するソリューションは見えるはずである。ただし、それは農業者にとって茨の道であることも必ず示す必要がある。安易な気持ちで背中を押せば、取り返しのつかない事態を招きかねない。
中小企業診断士としては、自らの価値観ではなく、対峙する農業者がどのような農業を志すかを真摯にヒアリングしたうえで、慎重なアドバイスが求められる。
・地雷と勝ちパターン
■ よくある地雷
組合依存で思考停止
組合無視で地域で孤立
市況を見ない作付規模拡大
=成功と誤認ブランドなき直販
■ 勝ちパターン
出口(販路)を先に作る
ブランド確立
スケールは後から
地域や組合と対立しない独立
・ここだけの話
農業は中小企業診断士として関与するにはハードルの高い業界である。元々農業に明るいなどの経歴があれば、業界の常識から抜け出せないだろうし、全く農業を知らない素人であれば、ソリューションは机上の空論となる。農業者は、地域の同業者が競合である以前に協力者であるという関係性がある。これを牽引できるほどの力量差があったり、メンタルの強さがなければ独立独歩の動きは難しいだろう。
ただ、農業者自体が高齢化しており、その中で若い農業者であればそれだけでも強みとなる可能性はある。本文中でも述べたが、地域や組合と良好な関係を築きながら、力を蓄え、休耕地を借り受けスケールしていく。一定の経営力を身に着けた時点で、独自の経営戦略が可能になるが、それでも地域と組合との関係性は良好に保つことが望ましい。
農業とは自然維持活動の一環を担っている側面もある。休耕地が増えれば地域環境は悪化する。つまり、長年にわたり地域農業が行ってきたやり方は、旧態依然として問題は多いかもしれないが、いきなり全否定するものでもない。
農業のコンサルには時間を要する。中小企業診断士も腰を据えて対峙できるかが肝となる。
「農業は“正しい施策”ではなく、“耐えられる覚悟”が必要な業界である」
建設業(大分類 D)
「多重下請構造の中で、リスクだけが下に落ちる産業」
・この業界の正体
建設業と一口にいっても、約30前後の分野に分けられる。ここでは、総論的な建設業について言及していく。
建設業は、インフラ工事から大規模なビルやマンションの建設、個人住宅の建設まで現場の規模は様々だ。発注者の属性から、「公共事業」と「民間工事」に大別できる。土木、鉄筋、舗装、しゅんせつ(河川・港湾)、 水道などの地面に近い基礎分野は公共比率が高くなる。
公共工事は、予算の出どころにより、国、県、市町村などに分けられ、公共事業の競争入札に応札できるかどうかにより、工事での立ち位置が変わる。入札に参加するためには、それぞれの発注者が定めた基準をクリアしている必要があり、最低限の信用と技術や資格、許可が求められる。
大小に関わらず、公共事業を落札した者が元請となり、以降、中請、下請へと仕事が細分化されて降りていく。極めて小規模な案件(例えば街路樹の選定や歩道のアスファルト部分補修など)であれば、地元の工務店が元請となり自社施工する場合もあるが、一定規模を超える案件は、基本的に外注を依頼することになる。
実際に元請から仕事を受託した下請は、自社の職人(個人事業主)を集め、現場のスケジュールに従い施工を行う。これは、建設業があくまでも現場単位のプロジェクトであることに起因しており、様々な職能の職人を現場単位でアサインする必要性があるためである。一方で、プロジェクトは完了すれば終わりなので、常時雇用には向いていない。
この個人の職人をひとり親方というが、この制度は江戸時代以前から続いており、職人はプロジェクトを求めて現場を点々する柔軟性を持っていた。しかしながら、近代では、特定の工務店に100%依存するひとり親方も非常に多く、実質的に雇用のように仕事をしながら、厚生年金や社会保険、雇用保険に加入していないことが問題視されている。
インフラは国の政策の中核といっても過言ではなく、ひと昔前は景気浮揚策といえば大規模な公共事業への予算投入だった。それにより、ゼネコン、工務店を通じて職人へと仕事が循環し、比較的場当たり的な生活の多い職人が金を浪費することで景気が浮揚するという仕組みだ。
つまり、国の根幹といえるインフラ工事を支えるのは、何の保証もなく働く個人事業主であるという構図が長年維持されてきた。
現在、建設業の人手不足といえば、この職人を指すことが圧倒的に多い。
建設業が求める正社員は、施工管理技士(1級、2級がある)の資格を取得し、現場監督や工事全体の管理ができる人材である。施工管理技士が不在であると、入札や現場に参加できないケースもであり、こちらもひっ迫した人材不足である。
建設業が昔からブルーカラー職種の代表格として、3K(危険、きつい、汚い)を体現してきた。また、言葉を選ばずに言えば、職人の世界は、学校で不良生徒だった者の受け皿的な存在であり、今で言うならパワハラなどは当たり前の上下関係の厳しい世界であった。
人口が減少し、子供に親や教師の目が行き届くようになり、学校から不良が減少し、暴走族などの文化も衰退すると、土木を中心とした建設業の職人に従事する者が圧倒的に減った。時を同じくして、民主党の政策により「コンクリートから人へ」が実施されると、建設現場の単価は著しく低下し、「きついけど高収入」が魅力であった職人業が「ただのきつい仕事」へと変貌した。
下記に建設業の主な分類を示す。これだけの業種が関与してプロジェクトを支えている。
■ 躯体・構造系(いわゆる“骨”)
土木一式工事
建築一式工事
とび・土工・コンクリート工事(足場・掘削・基礎の一部)
石工事
鉄筋工
鉄骨工事
■ 外装・仕上げ系(見える部分)
屋根工事 タイル
れんが
ブロック工事
左官工事
板金工事
塗装工事
防水工事
ガラス工事
■ 内装系(建物の中)
内装仕上工事
建具工事→ クロス、床、軽天、大工(造作)などがここに集約される
■ 設備系(インフラ機能)
電気工事
電気通信工事
管工事(給排水・空調)
消防施設工事
機械器具設置工事
■ インフラ・特殊系
舗装工事
しゅんせつ工事(河川・港湾)
水道施設工事
造園工事
さく井工事(井戸)
解体工事
・なぜ儲からないのか
建設業は儲からないのか?
建設業の業種としてのピークは、土木関係では、田中角栄の日本列島改造論に基づく公共事業への圧倒的な投資が行われた時期で、建築関係では、核家族化の急速な進行時期だろう。つまり、主に1970年代~1990年代まである。
そして、バブル崩壊後は案件や予算が減少し、現場でのダンピングが行われるようになる。ダンピングで下がった受注価格の影響は職人の報酬へと直結する。
2000年代の小泉政権では、明確に公共事業の削減が打ち出され、2009年民主党政権の「コンクリートから人へ」を迎える。
この時期、元請は倒産を回避するために、採算が合わない現場であっても組織を維持するために受注し、そのしわ寄せは末端の職人へと向かった。
ピーク時の建設業には夢があった。田中角栄はそれを体現した人物だ。
学校での成績が芳しくなくても、一定期間の修行を経て独立すれば、自分の力量と器量で稼ぐことができる。そんな業界が建設業であった。当時の小規模建設業の社長連中の多くはベンツを乗り回し、営業と称して毎晩飲み歩いていた。
公共事業の減少に伴い、これまで公共一本だった会社も民間工事へ参入する。すると、民間工事のパイを取り合う構図となり、こちらでもダンピングが発生する。所謂負のスパイラルだ。
これにより、建設業にとっては厳しい時代が続いた。
現在では、企業数も市場の原理で調整され、一定の収益を得られる企業だけが生き残っている。
しかしながら、先述した管理者と職人という二重の人手不足に直面し、仕事はあっても施工ができなくなる時期が近付きつつある。
■ 建設業の人材不足構造
不良の減少による母集団の崩壊
報酬単価の低下による魅力の減少
外国人研修生による現場の代替
=管理者として育成できる人材がいないかつ、現場から管理者へ上がるインセンティブが弱い
・儲けるには
建設業が儲けるための条件はいくつかある。
その一つが見積精度である。現場ごとの見積精度が低いと、施工後に実は赤字であったなどのケースが発生し、収益性を悪化させる。
建設業の見積は、人工(職人の人数×工数)+建材の費用+諸経費+バッファー+利益、となる。バッファーは現場でのトラブル対応や天候不順などによる工期の遅延などだ。つまり、見積の中で変動させられるポイントは、職人の報酬、建材の価格、諸経費、バッファーの算定である。
端的には職人の報酬が安い方が利益に直結するが、ここが品質の肝となることを考えると安易に下げることは難しい。むしろ、ひとり親方の正社員化を図り、長期的に人材確保を行う方が望ましいだろう。次に建材の価格であるが、これはネット時代となりかなり透明化した価格となってきている。単一業種(鉄筋や鉄骨)などであれば、時期により大量仕入れによるコストダウンも考えられるが、基本的に現場によって建材も異なることを考えれば、極力在庫を減らす方向が望ましいだろう。
建設業の倒産でよくあるのは連鎖倒産である。元請が倒産し売掛金が回収できない、しかしながら建材の仕入や職人や外注への支払は止められない、という板挟みに合い倒産するケースは非常に多い。今後の建設業では、どこから、どのような条件で受注するのかを明確化したうえで、一定のリスクヘッジを考えるというのが経営者の重要な仕事になるといえる。
■ 建設業の収益構造
売上:受注単価(入札・相対)
原価:人件費(職人)+資材費
リスク:工期遅延・天候・元請倒産
=利益は“見積精度”と“発注者の質”で決まる
・中小企業診断士の姿勢
中小企業診断士が建設業者に関与する場合のポイントであるが、まず決算については簿外の債務を疑った方がいいケースが多い。上がっていない外注費や未払いは、規模が小さいほど確率が高い。
棚卸資産の計上が大きい場合は、在庫、仕掛、材料に注意が必要である。仕入時に計上したものの都度使用を管理できてお、棚卸もいい加減で、気づいたら棚は空という可能性もある。また、経年劣化や規格変更で使用できなくなったものが、材料として計上されている可能性も疑ったほうがいい。考えたくはないが、職人が横流しをするケースもなくはない。
バブル期を経過している企業については、ゴルフ会員権も要注意だ。評価損を適切に行っていない会員権を多数計上している場合もある。
親族が経理を担っておらず、経営者が数字に疎い場合は、経理担当者による横領も頭の片隅に入れるべきだろう。あまり疑いたくはないが、実際に事件化していないだけでかなり多い。
建設業の経営者は、現場指向、営業指向、経営指向などに分類できる。現場が好きな経営者は経営管理、人材管理、財務管理に疎く、その分野をヒアリングしてもあまり把握できていない。営業が好きな経営者は、元請や下請けとのネットワークを強固にしているが、社内との連携が疎かである場合もある。経営指向の経営者は、積極的に研修や勉強会に参加し、新しい設備などの導入にも前向きだ。ただし、現場がその感覚についてきているかが注意点となる。
経営は、どの業種でもシンプルであり、売上-原価=粗利益-管理費=営業利益となる。つまり、赤字であれば、売上を上げる、原価を下げる、管理費を下げる、ことで改善が可能だ。
だが、建設業の場合は、売上=入札または元請からの受注、民間工事の受注であり、民間に近いほど自由度が高くなるが、公共の場合は予算も工期も限られており、自社でコントロールできる範疇は少ない。
業種にもよるが、半公、半民というバランスを取れると安定感が出やすい。民間は受注までの手間が少なく、景気が良ければ予算が付きやすい。一方で公共事業は不景気でも一定量の仕事がある。これを、組み合わせて自社の受注ポートフォリオを策定することが経営者の戦略となり、中小企業診断士のアドバイスとなる。
経費については、人件費、資材費、燃料費、などすべての経費が値上がりしており、コスト削減は難しい局面であるが、その中でもメリハリが必要となる。人件費については、事業の肝となるのでまず削減は難しく、むしろ予算の逓増率を正確に把握しておく必要がある。資材については、なるべく無駄のない仕入、無駄のない使用を仕組化するしかないだろう。管理費については、ITシステムやAIを用いて、工数の削減を図る。ムダな契約の見直しを図るなどにより一定の削減効果は得られるはずだ。ただ、あくまでもこちらは小手先のコストカットに過ぎない。
中小企業診断士としては、業界を漠然と捉えるのではなく、細分化された業種の特殊性まで理解したうえで、的外れなアドバイスにならないように注意が必要である。
業種が変われば、慣習やサプライチェーンも大きく異なる。ひとくくりに建設業などと捉えるとアドバイスは空転する。事前に業種の実態を予習することをおススメする。
・地雷と勝ちパターン
■ よくある地雷
元請、中請の倒産による売掛債権の焦付き
職人の不正(材料の横流し)
経理の不正(横領)
赤字案件を分かっていて受注する
■ 勝ちパターン
受注ポートフォリオの策定
人材確保の仕組化
見積精度の標準化(属人化排除)
・ここだけの話
昭和の頃には建設業には夢があった。腕っぷしひとつで独立して、仲間を集め、法人化し、一国一城の主を目指すことができた業種だ。ただし、それは奇麗ごとだけで成り立っているわけではない。今はもう根絶されたが、暴対法前は反社との繋がりなしには現場を回すことはできなかった。また、ゼネコンの発注担当者には袖の下を渡すことも当たり前の慣習であった。奇麗ごとでは回らない世界の名残は、令和となり減りつつあるが、その時代を渡り歩いてきた業種であることから目を逸らさないことが重要である。彼らが悪いのではなく、社会の仕組みがそうなっていたという教科書にはない事実を咀嚼する度量が求められる。
「建設業は教科書にない慣習の塊であり、その慣習を理解しない限り、どれほど正しい理論も機能しない」
製造業(大分類 E)
「稼働率で生き、単価で殺される産業」
・この業界の正体
製造業は日本の産業の本丸と言っても過言ではない。
原材料に対して、何かしらの外力を加え、性質を変化させることで付加価値を得る。
製造業は、素材に近い川上から製品に近い川下というサプライチェーンで例えられ、最終製品を出荷するメーカーを頂点にピラミッド構造になっていることが多い。
代表的な分野で言えば、鋳造、機械加工、金型、成型、プレス、ハーネス、電子基板、食品、などが挙げられる。
■ 製造業(中分類)の内訳
食料品製造業
飲料・たばこ・飼料製造業
繊維工業
木材・木製品製造業
パルプ・紙・紙加工品製造業
印刷・同関連業
化学工業
石油製品・石炭製品製造業
プラスチック製品製造業
ゴム製品製造業
窯業・土石製品製造業
鉄鋼業
非鉄金属製造業
金属製品製造業
はん用機械器具製造業
生産用機械器具製造業
業務用機械器具製造業
電子部品・デバイス・電子回路製造業
電気機械器具製造業
情報通信機械器具製造業
輸送用機械器具製造業
その他の製造業
食料品製造業はBtoBtoCであり、消費者にとっては認知度が高い割に売上規模はイメージほど大きくない。また、素材に対する加工度が低く、サプライチェーンも比較的短い。一方で、自動車等のサプライチェーンの長い業種は、その過程によって付加価値が積み重ねられている。
製造業の多くは、工程が細分化されており、緻密な生産管理がシステマティックに動いているイメージを持つ読者も多いだろうが。川上に行くほど、企業規模は小さくなり、管理は現場の状況に合わせた人的管理の側面が強くなる。
所謂下請けと呼ばれる特定のサプライチェーン内に組み込まれた中間製造者は、時間あたりの加工工賃をチャージとして算出して見積を行う。これには、人件費、動力費、減価償却費、管理費などが含まれて、素材は発注者供給か自社仕入かにより異なる。
現場の労働者は会社規模が大きくなるほど単能工化し、規模が小さくなるほど多能工化せざるを得ない。給与水準もほぼ企業規模で決まる傾向が強い。
・なぜ儲からないのか
製造業は労働と資本集約の産業であり、製造業が儲からない場合は、箱(人員と設備キャパ)に対して受注量が少ない。工場稼働率を100%に限りなく近づけることで売上と利益が最大化する。それでも利益が出ない場合は、収益性の算出を間違えている。
売上-製造原価(原材料+労務費+工場管理費)=売上総利益
売上総利益-販管費=営業利益
この収益構造より、稼働率が十分高いにも関わらず売上総利益が赤字体質の場合は、受注金額が低すぎるが、生産性が低すぎるか、管理費にムダが多すぎるかのいずれかを疑うことになる。一方で、営業利益が赤字の場合は、売上総利益率の適正性と販管費の妥当性に絞られる。この際に、売上総利益率に問題がある場合は、前述の工程に戻り再度検証を行う。
大企業による生産管理の行き届いたサプライチェーン内の企業の場合、売上総利益率はギリギリのラインまでコントロールされているケースが多く、設備の故障、不良品の発生などの日常のイレギュラーで簡単に赤字化する。これは、自社努力では如何ともしがたく、自社の製造原価見積を正確に把握したうえで、発注者に受注金額の交渉を行うことが重要だろう。
多くの小規模製造業経営者は、経営よりも現場を優先し、自社の収益構造の把握を怠ることにより、所謂発注者である親会社依存体質から抜け出せなくなり、結果的に生殺与奪権を握られてしまう。こうなれば、潰れはしないが儲かりもしない。
■ 製造業の収益構造
売上:受注単価 × 生産量
原価:材料費+労務費+設備費(減価償却)
利益ドライバー:稼働率・歩留まり・段取り時間
=“時間あたりの付加価値”で全てが決まる
・儲けるには
製造業が儲ける仕組みは理論上は簡単である。
自社の収益性(時間あたりのチャージ金額)を正確に把握したうえで、損益分岐点を超える量の受注を獲得すればよい。
文字で示せば簡単なことであるが、実務は非常に複雑である。それはパラメーター(変数)の多さが要因だ。
大手とは違い、中小の製造業では製造部品の変更に伴う段取り替え時間が多く発生するし、ロット立ち上がり時の製品の不安定により想定ほどの歩留まりが得られない場合も多い。当然ながら老朽化した設備もあり、その工程がボトルネックとなっているケースもある。これら不測の事態を不測ではなく予測し、バッファとして客観的に示せるように算出することが非常に重要である。
これらのパラメーターをできる限り想定値の範囲内にコントロールしたうえで、収益性を得られるチャージに基づいた金額で、損益分岐を超える量の受注をすればよいのである。
ただ、そんなことが簡単にできれば誰も苦労はしない。
BtoBであれば発注者や競合により受注金額は制限されるだろうし、BtoBtoCであれば、市場と競合により販売金額が制約を受ける。
だからこそ、製造業は必死に生産性向上を図るのである。
・中小企業診断士の姿勢
製造業においては、決算書の内容はどれほど工程管理ができているかで正確性が分かる。材料倉庫を見ればほぼ分かるといっても過言ではない。
材料、資材、仕掛品、在庫の棚卸の正確性が失われると、売上総利益は完全に信頼性のない数字になる。
また、生産設備の減価償却をどの程度正確に扱えるかも重要だ。中小企業の場合、決算書は一般的に税務申告用に作成するが、その際は、定率法で減価償却することが多く、実際の償却タイミングとは大きくズレる。また、法定耐用年数は当然実際の耐用年数よりも短くなっているため、決算書だけを根拠資料に収益性の判定をすると見誤る。
正確な数値を把握するためには、棚卸資産の正確な把握(数量、金額、実価値)と生産設備の正確な償却算入が必要であり、これは税務申告の決算書とは別であると考えるべきだ。
中小企業診断士がアドバイスしがちなのは、受注先拡充によるリスク分散、川下への進出による付加価値向上、工程改善による生産性向上、が代表例であるが、これは現実としては非常に難しい側面があることを理解する必要がある。
受注先拡充は良いが、最大の発注者の発注量の振れ幅が最大値でも自社の生産キャパの100%を超えていないことが条件であり、100%に限りなく近づく場合は、販路拡大でよほど在庫を積み上げても良い先か、バックオーダーを気長に待ってくれる先となり、現実的には存在しない。
川下への進出は、川下工程を統合することで、工程間の繋部分のムダを省いた分付加価値が増加するというイメージであるが、例えば、鋳造後に機械加工を施すとすれば、両工程の稼働率が均等になることはまずなく、前工程はキャパギリギリに対して、後工程は稼働率20%などということも実際には起きえる。その場合に、どのようにして生産性の向上を図るのかが、単一工程と比較してかなり難しくなる。それも見込んで本当に付加価値が増加するのかは甚だ疑問である。
最後に工程改善であるが、これは大手製造系の系列であれば、メーカー系の監査が半期ないし毎期入っており、中小企業診断士が教科書に照らし合わせて、「ここはムダだ」などという箇所はほぼない。逆に、この生産工程はムダしかないという場合は、そもそも生産管理を行っていないに等しく、その場合に工程管理を導入するには、かなりの覚悟と専門知識が必要になる。中途半端に手を出せば、従前よりも効率が落ちる可能性すらある。
製造業にアドバイスやコンサルに入る場合は、川であるサプライチェーンとして全体を把握したうえで、当該企業がどの位置で何を担っているのかを把握しておくことが肝要である。
・地雷と勝ちパターン
■ よくある地雷
原価計算が曖昧(チャージ不明)
赤字案件の継続受注
特定取引先依存(生殺与奪)
設備過剰投資(遊休化)
=稼働率を上げるための無理な受注
■ 勝ちパターン
時間あたり付加価値の把握
見積精度の標準化
ボトルネック工程の最適化
取引先の選別
= “断る力”の確保
・ここだけの話
製造業は外しの少ない業種であった。つまり、リターンが小さい代わりにギャンブル性は低く、堅実に商売をしているという印象である。それもそのはずで、設備投資に莫大な費用を掛けて、非常に安い単価の部品を24時間加工し続けることで利益を回収するというモデルが多いからだ。
同業者の経験者が独立して小さな工場を設け、受注を拡大しているケースも多く、その辺は業種は違えど建設業に通じるものもある。
メーカーを頂点としたピラミッドは、1次下請けティアワン、2次下請けティアツー、3次下請ティアスリーの下にさらに数レイヤーの下請けがぶら下がっているイメージであり、そのピラミッドをひっくり返すと上が川上、下が川下になる。
このような大きな流れの一員として生産工程を担うことにより、比較的安定した売上を確保することができてきた業種でもある。
ただ、近年流れは大きく変わってきており、ピラミッドの頂点であるメーカー自体がグローバルの競争の中で負け戦となるケースも多く、白物家電、電子機器、通信機器、など本来の得意分野で大敗している。メーカーの大敗はその下に連なるサプライチェーンの屍を積み上げる結果となり、直接的に報じられるメーカーの従業員整理のニュースの裏では、零細の町工場が右往左往している姿を想像してほしい。
製造業は「数字」ではなく「現場」で判断する業種である
「かつては日本のお家芸、今では世界各所で負け戦」
情報通信業(大分類 G)
「人月で売り、単価と稼働率で利益が決まる産業」
・この業界の正体
情報サービス業で最も主要な業種は、ソフトウェア業であり所謂ITベンダーである。
ITベンダーは受託ソフトウエア開発がメインとなる。案件は予算規模で決定され、インテグレーターから末端のフリーランスSEまで多層な構造でプロジェクトに関与する。これは、建設業の現場に非常に似た構造である。
大手ベンダーが受注した案件は、中請、下請へと業務が細分化して降りることになる。ITベンダーと聞くと、誰もが知っているようなアプリなどを開発しているようにイメージするかもしれないが、多くは表に出ない(一般人の人目に触れることのない裏方の)システムである。例えば、金融機関のATMの中のシステムのように。
中小のITベンダーは、実際は客先へのSE派遣業のような業態となっている。開発、保守・運営、改修など年間を通じてSEを外に派遣していることが多い。あるいは、情報システム部門へ常住SEを派遣しているケースもある。
建設業の場合は、個人では所有することが難しい建設機械を工務店が持つことで、フリーランスの一人親方では難しい規模の現場を受託できるが、ITベンダーは、基本一定スペックのPCがあれば成立することが多く、SEの手配業に近くなっている。
SE手配業としてのITベンダーは、SEの単価×人工数×期間でプロジェクトの売上が決まる。ただし、建設業以上に想定外も多く、そのしわ寄せはSEの負荷となるため、長時間労働が常態化していることも多い。
一方で、独自システムを開発を行い販売を行ったり、小規模なシステム開発の受注を行い、自社でプロジェクトをコントロールする企業もある。この場合、BtoBであれ、BtoCであれ、自社で価格を決定することができるが、売れるかどうかは市場ニーズと商品価値で決まる。
一時期、SEのフリーランス化ムーブが話題になったが、元請から見れば、ITベンダーがマージンを抜く分を排除すればSEの単価が下がり、SEから見れば手取りが増えるという、大昔に流行った問屋不要論的な感覚である。ただし、受注の不確実性をITベンダーが吸収していた側面もあり、完全にフリーランスとなったSEが有利とは限らない。
このように、業界は開発・改修プロジェクトや、保守・運営といった業務単位で動く、デジタルの建設業をイメージしておくと近いだろう。
・なぜ儲からないのか
中小のITベンダーの場合、元請のプロジェクトに参画し、契約した人数のSEを送り込んでいるに過ぎない。つまり、プロジェクトと切れ目なく受注できれば効率は良いが、そうでない場合は自社で抱えたSEを遊ばせることになる。
そのため、業界ではフリーランスのSEを仕事の有無に応じて使うという形態が最も低リスクとなるが、建設業の一人親方が流動性が低いのに比べ、フリーランスのSEは流動性が高いため、ある程度抱えておかないといざプロジェクトを受注する際の計算が立たない。
受託ベンダーの場合は、比較的シンプルな収益構造であり、派遣業に近いものがある。
受託金額ーSE工賃ー販管費=営業利益
この式から分かるように、どれだけのSEを抱えて、無駄なく稼働させるかが受託ベンダーの勝負どころとなるため、利益が出ないのであれば、受託数や受託金額が不足しているか、自社が固定費として抱えるSEが多過ぎるという結論になる。
一方で、自社で開発・販売を行うベンダーの場合は、開発したシステムの売上が開発費用との損益分岐を超えてくるかが勝負となる。ただし、常にアップデートが必要な業界であり、常時改修を行いシステム価値を下げない努力を行うことで、ユーザーの乗換えを防ぐという攻防戦となる。
近年では、開発費の一発回収よりも、ユーザーの乗換えを難しくするためにサブスクに特化した商品提供を行うことが増えている。
■ 情報サービス業の収益構造
売上:単価 × 人数 × 期間(人月)
原価:SE工賃+外注費
利益ドライバー:稼働率・単価・アサインの連続性
=“人の時間”がそのまま売上になる
・儲けるには
ITベンダーが儲けるためには、単にSE外注費と自社管理費を超える売上を確保すればよい。言葉で書けば簡単であるが、実践するのは困難だ。努力は稼働率には効くが、単価には効きにくい構造にある
プロジェクトが大きくなるほど、切れ目なく受注していくことが難しくなる。さらに、SEに求める能力がそれほど高度でないのであれば、あとは単価勝負という厳しい競争に突入する。また、AIのコーディング能力の進化は甚だしく、素人でも一定のAIスキルがあればコーディングが可能になっている。そうなると、専門のSEを抱えるベンダーは、より高度な設計よりの業務を受託できる体制へと変遷するしかないだろう。
BtoBであれ、BtoCであれ、パッケージソフトで一発当てるのは非常に難しい。それは競合が非常に多くなってきており、開発スパンも短くなっている。加えて、SaaSによるサブスク化でユーザーが囲い込まれたり、そもそもAIの進化によって機能自体が不要になる場合もある。
これまでのように、プロジェクトに対して求められた人数のSEを手配して派遣し、そのマージンを抜くという商売の形態は厳しくなる。
そうなれば、より高度な上流工程へ行くか、AIを用いた低単価化を図るしかないが、いずれにしてもレッドオーシャンである。
ただ、市場にはAIどころかIT化の遅れた中小企業が多数存在しており、その市場をターゲットとしたビジネスには可能性はあるだろう。
いずれにしても、人を売るビジネスから脱却できるかどうかがカギとなる。
・中小企業診断士の姿勢
情報システム業の中でも、ITベンダーと呼ばれる受託ソフト開発業は、前述したようにSEを派遣してその人工代を受け取るという非常にシンプルなビジネスである。そのため、参入障壁は低く、競合がひしめき合う状態だ。
受託ITベンダーであれば決算書はシンプルなはずであるが、通常であればないはずの科目が計上されていれば、以前に他業種だった、多角化を模索した、あるいは現在もしているなどが考えられる。基本は、在庫も仕掛もなく、固定資産もほとんどなく運営できる。
注意すべきは売上確定時期と入金時期、外注費支払の時期が決算書としてちゃんと調整されているかである。売上計上と外注費等の支払がズレていると、見掛け上は黒字、赤字などが生じる可能性がある。ただ、SE派遣型では月額で請求するケースが多い。
受託中心の企業の場合、利益が出ていないのであれば、受注金額が低すぎるか、SEへの支払単価が高すぎるか、管理費が不適切かである。ただし、受注金額は競合との兼ね合いにより、ある程度フィックスであると考えるべきであり、そうなると収益性を上げる余地は少ない。
本気で中間の受託で生き残りたいと考えるのであれば、強固な営業基盤を構築し、案件を絶え間なく確保していくことが求められる。これは文字面だけみても苦難の道だ。
そこで、自社システムの開発や中小企業との共同開発によるSaaSのサブスク化などを図っていくことをアドバイスする中小企業診断士も多いが、これは、ネジを製造しているメーカーに最終製品を企画して販売しろと言っているようなもので、かなり荒唐無稽なアドバイスである。
・地雷と勝ちパターン
■ よくある地雷
低単価案件の継続受注
多重下請けの深層に固定化
人材の回転前提(育成放棄)
=待機人員を恐れて無理な受注
■ 勝ちパターン
単価交渉力の確保
直請比率の向上
特定領域での専門性確立
=人月以外の収益源の確保(SaaS・保守契約など)
・ここだけの話
ITベンダーは立上時の資本が小さいこともあり、非常に独立がしやすい業態である。また、長期のプロジェクトに客先開発のSEを何名か派遣すれば、売上は比較的安定する。ただし、情報サービス業は“技術”ではなく“契約構造”で収益が決まる業種である
時代の流れもあり、SEが増加し過ぎた結果、ITベンダー数も増え、市場では少し飽和が起きている。ITベンダーはデジタル建設業であり、本家の建設業とくらべ、3K(危険、汚い、きつい)が少なく見える。実際は長時間労働の常態化などもあり、それほど楽な仕事ではないのだが、世間のイメージとして、真夏の作業現場で汗を流す建設業と、エアコンの効いた部屋でPCを前にするSEでは、やはりSEにクリーンなイメージを持ちやすい。
現在は、副業からの独立ムーブでフリーランス市場に溢れかえったSEが、仕事の不足によりベンダーへ回帰する現象もみられ始めた。しばらくは、淘汰をかけた生存競争となるが、いずれ絶対数は落ち着いてくるだろう。
「イメージはクリーンでも実態は建設業」
運輸業(大分類 H)
(中分類 44 道路貨物運送業)
「規制とリスクで手足を縛られてもなお運ぶ」
・この業界の正体
運輸業では、道路貨物運送業の話をする。人を運ぶか、物を運ぶかの違いで業種が変わるが、後者の話だ。
簡単に言えば、トラックで荷主の依頼に応じて荷物を運び運賃を得るというビジネスになる。
一般的に思い浮かべるのは大手の運送会社の名前だが、実際には他業界と同様に多層構造になっている。統計によっても異なるが、道路貨物運送業の事業所数は約60,000〜65,000とされている。
道路貨物運送業は国交省地方運輸局の許認可事業である。軽自動車以外の道路貨物運送業を営むためには、最低5台以上の普通貨物車両を保有し、運営資金の保有を証明する必要がある。
これは、社会インフラとしての物流を担う企業に対して、物流停止リスクを回避するためだ。つまり、簡単に倒産などして逃げてもらっては物流が滞るので困るということだ。
4トントラックの新車価格は通常の架装(冷凍車等の特別用途でないもの)で約1000万であり、それを5台かつ従業員や拠点などを考えると、最低でも1億円の資本がないと参入は難しい。
因みにご存じの読者も多いと思うが、運輸局の認可を受けた車両は緑のナンバープレートを付けている。なので、トラック等で白いナンバープレートを付けている車両は「自家用」と呼ばれ、自社製品や資材を運搬することにのみ使用ができる。
本当か? 実はそれは建前で、昭和の時代は無許可の運送屋が相当数存在した。自分でトラックを購入してスポットのような高額配送を請け負う業態である。菅原文太主演のトラック野郎もこの無許可業態である。無許可トラックの問題は貨物保険に加入できないため、事故の際に荷物の保証が一切されない。また、運転手は個人であるため、数千万円の荷物を保証することなど不可だ。
さすがに、令和の時代に無許可貨物はいないだろうと思われるかもしれないが、今度道路でダンプカーを見かけたらナンバープレートの色を確認してみるといい。緑と白が混在している。
白ナンバーは建設業者等が自社の土砂を運搬する目的で使用するものであるが、社名などが何も書かれていない白ナンバーのダンプカーが相当数存在し、それらが個人で営業するダンプカーである。どのような仕組みになっているかといえば、工事現場や採石場で一旦運転手が積荷を買い取り、それを運搬した先で販売するという建前になっている。その差額が実質の運賃ということになる。
この形態がOKであれば、運送業許可は実質的にザルになるが、土木以外の一般貨物は締め付けが厳しくなったことで、無許可トラックはかなり少なくなっている。
この業界は、トラックという資産と、運転手という人件費に加え、燃料費を投じて顧客の荷物を有償で運搬する。仕事は、大手運送会社の下請業態が多い。つまり、大手が看板で受注した仕事を、マージンを抜かれた価格で受注するという構造だ。なので、よく燃料費高騰による荷主との値上げ交渉などという言葉を聞くだろうが、末端の運送会社が荷主と交渉できる窓口はない。
一方で、中堅に近づくほど、直接受注の比率が高まる。荷主の物流を担うために、荷主の拠点内に自社拠点を設けて専属のように配送しているケースも多い。
業界が苦しいのは、資本集約的な側面も大きく、とにかくトラックを回転させなければ利益は生まれない。その他方で、燃料費等の高騰や2024年問題による人材不足、人件費の高騰に見舞われている。トラックは回転させたいが、回転させればさせるほど費用負担が大きくなるという状態だ。
つまり、運送費用が適正ではない、ということになるだろう。適正でなければ、受けなければいいというかも知れないが、客先に拠点まで設けて張り付いている状態で、仕事を受けないとなると、自社の存続はかなり危うい。
これは、大手運送の下請けであっても同様で、価格交渉をする相手は荷主ではなく元請である。元請は多くの下請けの選択肢を持っており、値下げ圧が強くなればスイッチすればよい。実際にスイッチすることは言うほど簡単ではないが、そのパワーバランスが値下げ交渉を弱くしているのは間違いない。
つまり、単価は外部で決まりコストは内部で増え続ける。貨物運送業は、低単価に固定され、高コストを稼働で吸収する産業といえる。
・なぜ儲からないのか
貨物運送業が儲からない理由は、運賃に対して費用が過大という1点だ。
人件費、トラック本体、メンテナンス費用、消耗品費(タイヤやオイルなど)、燃料費、通行料などを価格が上がっていない費目はない。しかしながら、それに伴った運賃が設定できないため、収入に対して支出が多くなる。
これに加えて、慢性的な人手不足も指摘される。トラックドライバーは、運転だけが仕事ではなく、荷の積み下ろしまで担うことが多い。リフトで簡単に下せる荷はよいが、手積み手降しはかなりの重労働だ。それに加え、ジャストインタイムの流行で、現着しても通門可能時間まで待機する必要がある。当然遅れるわけにはいかないので、かなりの余裕を持って現着し、時間を調整する。これにより、労働時間は長期化する。
また、2024年の法改正では休憩を義務付けられているが、その場所がない。高速SAの出入口付近には、中に入り切れない大型トラックが列を成している。高速や国道にペットボトルが多数落ちており、お茶のような液体が入っているが、あれは全てトラックドライバーの尿だ。彼らは自由にトイレに行く時間も無ければ、そんな場所もなく、社内でペットボトルに処理した尿を怒りに任せて窓から放り投げるのだ。まあ、不法投棄はどんな理由だろうと正当化はされないが。ただ、そんな職場に好き好んで入りたいという若者は少ないことだけは事実であり、業界の高齢化は建設業同様に深刻だ。
長距離バスのように、交代要員と2名で運行していれば、これほど過酷な職場にはならないが、これは「人」を運ぶバスと、「物」を運ぶトラックの残酷な違いだろう。国交省がそこまで手を入れたら運賃の上昇による物価高騰のダメージは計り知れない。
つまり、価格決定権がないままコスト上昇だけを受け続ける構造にある。貨物運送業は儲からないことを約束されたような業種であると言える。
■ 貨物運送業の収益構造
売上:運賃
原価:運転手給与、トラックの減価償却、メンテナンス、消耗品、燃料費、通行料、管理費
利益ドライバー:トラックの稼働時間
=稼働を100%に近づける
・儲けるには
儲からないことを約束された業種でも、儲ける方法がなくはない。
例えば、他社がやりたがらない特殊な荷を運搬する、特殊なルートを運搬する、などが挙げられる。
ただし、ブルーオーシャンは存在せず、どんなニッチにも物流は入り込んでいる。つまりダンピングが発生する。
本気で儲けるためには、ビジネスにおけるイニシアティブを握る必要がある。例えば、在庫(倉庫)から宅配までのロジスティックスを請け負うなどだ。ここを握ると相手とはかなり対等の交渉ができるだろう。
つまり、前後の付加価値で勝負するといわけだ。
一般的にメーカーや卸は自社倉庫に在庫を置き、受注ごとに仕分け配送を行っている。これを丸ごと受託すれば付加価値は高まる。一旦在庫を握ってしまえば、よほどの契約不履行がない限りはスイッチが難しくなる。
つまり、運ぶだけの会社から脱却して、顧客の物流という視点でサービス提供ができるかがカギである。
・中小企業診断士の姿勢
貨物運送業は許認可ビジネスであるため、思うよりも制限がある。例えば、稼働率が悪いからといってトラックの台数を減らそうと思っても下限以下にはできない。
つまり、ルールの中で可能なソリューションの提案でなければ意味がない。
主な資産は、トラック、拠点施設になるが、流用性が高いとも言えず、決算書上の資産価値は怪しい。
規模が小さくなるほど、中古のトラックを使用したり、実際の償却期間が長くなったりする。これは、同時に効率低下やコストの増加を招いている可能性も高い。
ただし、元請や荷主に生殺与奪権を奪われているような場合は、もはや手の打ちようは少なく、命乞いをしながら逃げるチャンスを伺うことも作戦になる。
ただし、関連法規の運用強化(独占禁止法)により、荷主が、一方的な値下げ、燃料費未転嫁、無償の荷待ち・荷役、契約外作業の押し付け、などを行うこと強く規制するガイドラインが出された。これにより、元請が社会的地位のある企業であれば、このガイドラインを楯に交渉の余地は増えた。
動ける手立ては、燃油の変動によるサーチャージの導入、人件費増加の毎年の反映、通行料アップの反映、消耗品値上げの反映、トラック車体値上げの反映であるが、これらは数値的な根拠に落とし込まなければ感情論や推論となり、相手も稟議に上げられない。そこで中小企業診断士としては、元請担当者が社内稟議に掛けられるような資料の作成が一つのコンサル的な要素になる。
もうひとつは、受注経路の見直しである。先ほど、倉庫からの一括受託について触れたが、それは相当な資本力を有する。それほどの資本が無い場合、案件毎の損益を正確に把握して、受注経路の拡大を図ることも基本ではあるが大切である。
その際に、自社の原価を正確に把握していなければ、新規案件の見積すらできない。ここでも、中小企業診断士による精密な原価計算が役に立つ。
運送業は“運行”ではなく“契約構造”を改善しなければ変わらない。
・地雷と勝ちパターン
■ よくある地雷
低単価の元請固定
稼働率維持のための無理な受注
ドライバー依存(属人化)
車両過剰投資
契約が曖昧
=低報酬確定×リスク要因多数
■ 勝ちパターン
荷主に近いポジション
ニッチ特化
定期便化(ルート固定)
倉庫・物流一体化
車両と人の最適化
=運送から物流への視点
・ここだけの話
貨物運送も建設と同じく、以前は反社の関与する余地が大きな産業であった。港湾荷役を取り仕切ったのは、今の指定暴力団の前身となった組織だったりする場合が多い。大きな港のある町に反社の本拠地が多いのはそのためだ。
トラック運転手も、菅原文太の映画にあるように、昔はやんちゃな兄ちゃんの受け皿だった。グレーが許された時代には、建設と同じく働けば働くほど儲かった業種である。
それが、平成、令和となり、急激にクリーンになったことで、時代に対応しきれていないというのが実情だろう。時代、法律、コンプライアンスが求める運行をしたら、運賃が跳ね上がり物価に上乗せされるか、物が配送されなくなる。
これまでは、社会リスクをドライバー個人に負わせるかわりに、相応の報酬で黙らせてきた。ここで、クリーンな物流を構築できるかが業界の分かれ道になる。
「ドライバーが個人でリスクを負うことで成立してきた業界」
卸売業(大分類 I)
「中抜きと言われ続けた業界」
・この業界の正体
卸売業、平たく言えば問屋である。製造者から小売業者への帳合を行うのが仕事である。帳合とは、誰を通して物を流すかを固定する仕組みである。つまり、AメーカーのBエリアの商品はC問屋を通じて購入しろという流通経路の縄張りを帳合という。
この仕組みは、多数の末端小売業者が直接製造者から仕入を行うと、製造者の管理が煩雑になり過ぎるため、地域や業界、製品ごとに問屋を置き、そこが小売業者に向けた取引口座を開設して、製造者への仕入を管理する仕組みである。
製造者が大規模になれば、問屋は単一ではなく複数のレイヤーとなっていく、所謂1次問屋、2次問屋という具合だ。地域でいえば、地域ブロック問屋、県単位の問屋という具合だ。
一方で物流や在庫に関して言えば、問屋が末端物流を担うケースもあれば、単に伝票だけ(受発注と金銭)を管理する場合もある。
では、なぜ問屋不要論が噴出したのか?
それは、IT化が受発注管理から在庫管理、倉庫管理までをカバーできるようになり、小売業者と製造者との間に人間が関与する余地が減ったことが要因である。1万個単位で卸売りをしていた製造者が5個単位で卸売りを行うことの実質的なハードルが下がった。
また、価格面もある。製造者は一般的に定価の25~50%程度の仕切り価格で1次問屋に卸す、1次問屋は10%~20%のマージンを乗せて2次問屋へ、2次問屋も同じく10%~20%のマージンを乗せて小売へ卸す。小売のマージンは20~30%程度となる。この際に、各問屋にマージン分の役割と責任があれば良いのだが、単に昔からの帳合の既得権で商売をしており、物流や在庫も担っていない場合は、中抜きだけしているのではないかという疑義が生じる。それが問屋不要論だ。
一方で、問屋は物だけでなく、支払リスクも負担してきた側面がある。BtoBでは基本的に掛売が主体であり、都度決済は少ない。そのため、取引口座を開設するためには支払能力について一定の審査が必要となる。製造者が末端の小売全てを審査するというのは現実的ではない。そこで、問屋がその機能を担ったわけである。当然ながら、伝票が問屋を通過するということは、小売が支払不能に陥った場合の売掛の焦付きは伝票を通した問屋が負担することになる。このように、売掛リスクを細分化し最小化することが、もうひとつの問屋の役割であった。
それすらも、現在ではBtoB向けのECによるクレジット決済などの手法が確立されてきており、問屋の「俺のリスクで立替える」という伝家の宝刀も効かなくなってきた。
・なぜ儲からないのか
儲からない理由は、当然ながらマージンの低下とリスク管理の失敗に起因する。
問屋不要論は論だけでなく、業界の構造改革に深く影響していった。日本の通信環境が電話とFAXからインターネットへと、物流が拠点間から宅配に、棚卸が人海戦術から電子タグへ、営業が人間からWebサイトへ、金融審査が経験と勘からデータへ、と変遷するなかで、「あれ、問屋って要らなくない?」という疑問が同時多発的に発生した。
製造者は少し川下へ歩み寄るだけで、マージンが30~40%も増えるのであれば、それほど美味しい話はないことに気が付いてしまった。
問屋は生き残るために、レイヤーを削り、3レイヤー構造を1レイヤーに統合し、マージンも薄くなった。その中で従来通りの在庫リスク、物流リスク、金融リスクを負担するのは不可能になってきたわけだ。
製造者にとって、問屋は都合の良い側面もあった。市場評価の悪い製品を無理やり押し付けることができるという点だ。新製品とのバーター取引でもいいし、ある地域の帳合とのバーターでもいいが、売り手の権限を行使すれば、売れ残りを丸ごと問屋に引き取らせることは容易だ。
問屋側から見れば、完全なる不良在庫を負担させられるわけだ。ただし、将来の取引継続が人質になっているのであれば、受けざるを得ない。
このような不良在庫は、問屋の倉庫で寝かすか、海外へまとめて処分するかが多い。倉庫で寝かす場合は仕入価格を維持したまま在庫計上をして、見せかけの資産価値を保つ。一方で、製造者は自社ブランドの棄損を嫌うので、国内での廉価処分を嫌うため、それらの制限を設けるケースが非常に多い。そこで、海外にまとめて二束三文で販売して換金するということになる。
つまり、このような、不良在庫の処分、在庫、物流、販売先の倒産などのリスクに対して、自社のマージンが不十分であれば当然赤字になる。これは、構造的な問題であり、売上を拡大したところでリスクも拡大するだけなので根本的解決には至らない。
■ 卸売業の収益構造
売上:小売等への販売益
原価:製造者からの仕入価格、運搬費用、倉庫費用、金融リスク費用
利益要素:粗利益 − 在庫・物流・金融リスク
=発生リスクが粗利を下回ることが肝
・儲けるには
これは、市場で様々な事例があり、失敗事例も成功事例も出てきている。
多くの場合は、卸売業は川上か川下を目指す。他の川を目指すことはあまりない。
川上進出の場合、自社リスクで自社のオリジナル製品の製造へと踏み出し、他社に対する独自性を確保するとともに、価格決定権を確保する。ただ、これは小売を巻き込んだケースも非常に多く、消費者の目線からは小売がPB商品を開発したようにしか見えない場合もあるが、実は卸売が仕掛けているケースも多い。
川下進出の場合、自社で小売へと進出するわけだ。保有するSKU数やロット数を活かし、ECを展開するなどのケースが非常に多い。これはBtoB向けであれば、これまでの既存の地域性を壊すものであるし、BtoC向けであればテリトリーを壊すものである。
つまり、いずれの場合にしても、問屋は問屋同士で仁義なき戦いをして、生残るような方向性で展開している。
それでも金融リスクを担う方向性に舵を切る問屋は少ない。
資金や信用はないが品物を仕入れたいという小売は存在する。それに対して、どの程度の確実性があるか、回収の蓋然性があるかを審査して、掛売で販売するのも問屋の仕事である。こちらの方向性を強めると、リスクの大きい小売顧客ばかりが増えることになり、実務ではリスク負担が閾値を超えてしまう。
儲けるためには、仕入価格よりも高い価格で再販すればよい。文字面だけを見ると転売ヤーのようだが。つまり、再販を確実にするためには、顧客を掴むことが必須となる。
なので、BtoCへの進出か提携は避けて通れない。一方で、同業との差別化も同時に必要となる。同じ製品を扱っているのであれば、価格や条件の勝負となり、ダンピングから逃れられない。つまり、こちらは川上へのアプローチである。
川上へのアプローチと言っても、市場で競争力のある製品を完全な自社リスクで製造依頼できなければ、価格交渉力は発生しない。つまり、市場寄りの自社企画・開発部門やブランディング部門を持つ必要性がある。そこまで仕立てた状態、つまり、ECだろうが、どこの小売だろうが、店頭に置けば販売できるような価値を持って初めて交渉の優位に立てる。一方で、逆もしかりである、製造に対してスイッチできるだけのノウハウを自社に有していなければ交渉はできない。
まとめれば、川下や川上に進出するのではなく、川下や川上の機能の一部を自社に装備するという考え方が近いだろう。製造が作っているように見えて、企画・デザイン・開発は自社が、小売が売っているように見えて、ブランディング・PR・宣伝・VMDは自社が、という状態を構築することが確実な道だと言える。
・中小企業診断士の姿勢
卸売業は様々な業態に存在しており、出会う機会も多い。しかしながら、総じて前述したような課題に直面している。BtoC側に片足を突っ込んでいる企業も多いが、会社の建物を見れば業態は明確だ。従来の問屋はとにかく空間が多い、倉庫を基調とした構造になっている。
卸売業の決算書では、売上に対してマージンが薄いケースが多く、製造業と比較すると売上規模の割に従業員数や営業利益が少ない。製造業で20億、30億規模と聞くとそこそこの中堅企業を想像するが、卸売業であると10名規模の場合も多い。
つまり流れる物量(商流)の割に利益率が低いので、とにかく多くを流さなければ維持できない構造になっている。なので、何かのトラブルで商流が止まると、一瞬にして資金ショートのリスクに直面する。
また、前述したが古い問屋の場合は、不良在庫の中でもう商品価値を失ってしまったような物も平然と決算書の在庫に計上され、それが資産カウントされている可能性がある。これは、会社の財務状態を見るうえで非常に重要な点であり、月商に対しての在庫量が適正でない場合、どの程度死に在庫なのかを把握した方が良いだろう。
卸売業界では、川上や川下などへの進出などを試みているケースや、横の買収などのより規模を増しているケースなども多く、既に様々な形で問屋不要論への抵抗を行ってきている筈である。それでも、利益が出ていないのであれば、その戦略すらも一度見直す時期に来ていると言える。
・地雷と勝ちパターン
■ よくある地雷
不良在庫の多量形状
バーターによる不人気商品の受け入れ契約
リスク管理不足による売掛の焦付き
=低利益×リスク要因多数
■ 勝ちパターン
価格決定権の取得
自社内への川上・川下機能の取り込み
優良販売先の囲い込み
金融リスクの管理精度の向上
=問屋から企画・開発屋への進出
・ここだけの話
中小企業診断士試験の勉強の中で、問屋不要論を知った読者も多いのではないだろうか。
筆者もその口で、実際に中小企業診断士として活動するまでは問屋という業態との繋がりは一切なかった。一方で、中小企業診断士としては様々な業界の問屋と出会ってきて、やはり総じて問屋不要論の現実と戦っている事実を現場で見てきた。
問屋の起源は江戸時代、つまりその時期に地域を跨いだ商流が発生し、倉庫、商社、金融、物流、営業を担う商売の花形として問屋は栄えた。
時代の流れとはいえ、自身の業界が「要らなくね?」みたいに言われるのは心が痛むだろう。それは、漫然経営のつけかも知れないし、急激に環境が変化したことによる影響かも知れない。ただ、不要論が出たとしても、全ての問屋が不要という訳ではないだろう。時代の花形から不要まで落ちた業界だからこそ、新しい時代に適応する経営資源を持っていると感じる。逆に社内にその風を感じられない問屋は要注意だろう。
「ビジネスの花形から不要論の的に」
小売業(大分類 I)
「来店理由を解明できなければ未来はない」
・この業界の正体
この記事では、小売業の中でも実店舗の小売業について記載する。
小売業は、卸売業等から仕入れた商品を店頭に並べて、最終消費者に販売するという業態だ。我々にとっては一番身近な業態かもしれない。
小売業は規模によって、取り扱うSKU数が大幅に異なり、コンビニで約3000SKU、スーパーマーケットで1万~3万SKU、GMSで5~10万SKU規模だと言われている。
小売業の売上は、自店で顧客誘引ができない場合、「年間通行量×入店率×購入率×客単価=売上」という簡単な図式で表現できる。つまり、差別化が極めて難しいコンビニ業態などは、単純にこの式のようになる。この中で、自店で制御できるパラメーターは入店率、購入率、客単価の3つであり、入店率は店頭のノボリやネオン、看板、購入率はPOP、声掛け、客単価はグレードアップ、ついで買い、などで向上を図ることが多い。
逆にいえば、年間通行量は自店で制御できないパラメーターとなるため、事前の出店調査で全てが決まる。大手チェーンなどは、入店率等の平均値を正確に把握しているため、通行量が把握できればある程度採算ラインが導けることになる。
コンビニの棚ではいつも同じようなNB(ナショナルブランド)と、チェーン独自のPB(プライベートブランド)が並んでいるように見えるが、月に10%~20%のSKUを入れ替えている。かなり精緻なPOPシステムにより、販売効率が把握されているため、NBの完全な定番商品でないと安定的に棚のフェイスを確保することは難しい。そのためにNBは莫大な広告宣伝費を投じて単純接触効果の向上に努めている。これにより、無意識に消費者はアサヒスーパードライを手に取る。
商品側からの目線で見れば、いかに小売店等のフェイスを確保することができるかが成否を分ける。どんなに商品力が優れていたとしても、店頭のフェイスが一つも取れなければ売上は0円である。
実績がない商品の採用を決めるのは、そのチェーンや店舗のバイヤーになる。そこそこのチェーンであればメーカーや問屋の担当者が、毎日のようにバイヤーとの商談を行っている。
百貨店が小売りの頂点であった時代、百貨店のバイヤーはメーカーや問屋から受け取る賄賂だけで家が建ったという逸話もある。それが、GMSに移っても同じことだ。もう数十年も前の話なので、コンプライアンスの厳しい現代では不可能かも知れないが、棚のフェイスを握られているというのは、その商品や扱う問屋、メーカーにとって生殺与奪権を握られているに近い。それが全国チェーンの統括バイヤーともなればなおさらである。
もしコンビニで、見たこともない中小ブランドの新商品を見たら、そこに並ぶだけでも相当熾烈な戦いを生き残った商品であるという目で見て貰いたい。そして、それが定番化することはまずない厳しい世界でもある。逆に言えば、常に棚のレギュラーを取っているポテトチップス、コカ・コーラ、スーパードライなどは、レジェンドクラスの商品であると言える。
一般消費財の場合、小売の競合は近隣の小売やECである。NBの場合は、需要の緊急性×価格で消費動向が変わる。刺身をECで頼む人は少ない一方で、ペットボトル飲料の箱買いでのEC利用は多い。つまり、見込み需要の中で価格勝負をしている訳であるが、単一SKUで競争するわけではなく、総合力を問われることも多いだろう。
一般消費財は継続消費財であるケースが多く、価格感応度は高いといえる。そうなると、規模の経済性にが働き、チェーン一括で契約する大手に軍配が上がる。これでは、小規模の店舗は一掃されそうだが、スーパーマーケットで言えば生鮮3品(鮮魚、精肉、野菜)は規格がないため、品質の出る幕がある。この辺が地方スーパーの勝負所となる。
鮮度、品質、独自性、緊急性が落ちるほどECとの競合が厳しくなり、家電量販店はECのサンプル展示場と呼ばれる有様だ。
・なぜ儲からないのか
小売のマージンは商材によって大きく異なり10%~70%である。この中からセールの割引を行う。20%OFFと言っても、実は意外に利益が確保されているケースも多い。、また、モデルチェンジなどもあるため、あまりに店頭在庫を長くすることもできないので、ある程度利益を見切って50%OFFなどで仕入原価のみを確保することもある。
つまり、販売価格ー仕入価格ー割引ー廃棄在庫ー販売管理=営業利益、という分かり易い収益式となるが、これに個人店でも数百、数千のSKUが絡み、在庫、廃棄などが加わると、非常に複雑な計算となる。
小売店で儲からない場合は、①客数(年間通行量×入店率)×客単価=売上、②仕入価格+割引価格+廃棄在庫=原価、③家賃+人件費+広告宣伝費+光熱費+他=販管費、のうち①が少なすぎる、②が多すぎる、③が多すぎるの何れかとなる。①ー②ー③=営業利益である。
ちなみに、因数分解しておくと、①ー②<③の場合は、売上過小(客数が少なすぎる、客単価が低すぎる)または、原価過多(商品選定、仕入価格、不良率、廃棄率、割引率)である。①ー②>③の場合は、①②が適正であることが前提になるが、③の中の各費用が適正であるかの見直しが必要となる。多くの場合は、①②③のバランスで成り立つケースが多い。
儲からない小売は、顧客を誘引する魅力(店舗力や商品構成力が低い)に欠け、さらに商品力(価格、独自性)が低く、それをカバーするために過度な割引を行っているケースが多い。
小売は、「なぜ客が来ないか?」と考えるケースが多いが、逆に「なぜこの店に来なければいけないのか?」という視点で考えた方が良い。
■ 小売業の収益構造
売上:客数×客単価
原価:仕入+割引+不良在庫廃棄
利益要素:客数と客単価の適正化+仕入の見直し
=なぜ自店に来る必要性があるのか?
・儲けるには
これは、前項の逆であり、自店に来る理由を簡単に説明できれば良い。
このあたりのソリューションは中小企業診断士の運営管理でも詳しく習ううえに、身近に観察できる対象なので、多くの読者が想像に易いだろう。
まずは、ポイントカード、始まりは紙台紙にスタンプ付与という原始的なシステムであるが、意外に最近まで使われていた。これは、消費者の財布を会員カードでパンパンにした。次に、これが感熱式の数値ポイントに変化し、現在はスマホアプリとなっている。
これは、自店網でしか使えない得点付与により、他店へのスイッチを防ぐ目的と、来店頻度や購買履歴を把握する目的がある。しかしながら、これがどこまで有効に機能しているのかは甚だ怪しい。なぜならEDLPを謳う現金決済オンリーのチェーンもそこそこ集客しているからだ。
NBの日用品を取り扱う小売について言えば、他店との差別化を図り、自店へ来る理由を付与することは不可能の近いだろう。どんなに理想論を言っても、理念を掲げても、結局JANコードの同一のSKUは価格で比較される運命にある。
難しいのは、ハイクラスの顧客をターゲッティングしているからといって、のべつ幕無しにハイプライスを付けて良いわけではない、そういう時代になってしまった。
では、何の特徴もないNB日用品のみを扱う店舗の場合、どのように来店理由を構築するかといえば、今の時代で言えば、『都度構築』がもっとも正解に近いと考える。
常に、情報発信を行い顧客と繋がることで、少なくとも機会損失は防ぐことができる。そこで、流す情報は当然ながらセールや新商品になるわけだが、ここで頭を使うわけだ、別にAIでも構わないが。
具体的には、単一SKUの特売など消費者は飽き飽きしている。それを消費者が使うシーンを本当に小売は考えてセールを組んでいるのかと思うくらいだ。パスタの麺を買う顧客は、ソース、チーズ、トマト、バジル、ニンニク、オリーブオイル、ベーコンを買う可能性が高い。少なくともこれらのグループSKUで特売を掛けることは最低限必要だ。いつまで経ってもメーカーや卸の協賛セールなどに頼っているからそういう考えに至らないわけだ。セールは広告宣伝費でもある。有効に使わなければ損をするだけである。
衣料業界では比較的この考えに沿ってVMDに力を入れてきたのだろうが、まだまだ余地はいくらでもあるだろう。家電量販であっても同じだ。ECの展示場などと揶揄されているが、それに甘んじている節すらある。
小売の強みは売場である。それはECが逆立ちしても現在は追従できない(近い将来はVR技術でそれすら危ういが)。であれば、売場を最大限に強みにするしかない。買う物が決まっている客は、店を選定するが、買うものが決まっていない客も多く存在する。例えば機能は決まっているが、具体的な商品まで落とし込んでいないなど。
そして、小売の武器は圧倒的なタイパである。欲しいと思ってECでJAN検索や画像検索を掛けるのは当然だ。そして、その価格に及ばないのであれば、『今日使える』以外に売りはない。だったら、『今日使える』を売りにする売場やVMDを組めばいわけだ。
SNSによる双方向性、グループセール、提案型、想起型、タイパ訴求など、苦しいながらやれることはゼロではない。もっと勇気があればできることもあるが、それはリスクも増加する。
モノと店は溢れかえっており、消費者がなぜ自店を選ばなければいけないのかを言語化できなければ、ただ漠然と店を開いているのと相違ないと思った方がいいだろう。本当に頭を抱えるほど思いつかないなら、いっそ客に直接聞いてみればいい。
・中小企業診断士の姿勢
中小企業診断士として小売店を診断するのであれば、まずはファクトベースとなる情報を集めることが大切だ。内部関係者のヒアリングは当然ながら行うのだが、主張は鵜呑みにしない方が無難である。最大商圏、実質商圏に対する来店頻度、時間や曜日別の顧客の購買動向などは重要である。SKUが多い店舗では当然ながらABC分析なども併せて実施することになる。
ただ、一番知りたい部分は、「普段」この店の常連と呼べる客が、「何故」この店を選んでいるかである。その時に、積極的な理由をピックアップしがちだが、意外に消極的な理由にも大きな価値がある。ネガティブな理由とは、「近いから」「他よりましだから」「他に行く店がないから」「他店は嫌いだから」「悪くないから」などだ。内部関係者はこういった消極理由よりも積極理由を好むが、実は顧客はそれほどポジティブに選んでいない場合も多い。なぜ顧客が来店しているのかというのは小売店にとって根幹と言える部分であり、それが解明できれば、その要素を分解して各戦略へと落とし込むことが可能となる。
決算書に関して注意があるとすれば、利益率が圧迫されている場合である。他店との競合でロスリーダーを作り過ぎて、全体的に利益が取れなくなっている場合は決算書から解明していく必要があるだろう。
・地雷と勝ちパターン
■ よくある地雷
目的のない品揃え
安売り依存
PB乱発による差別化喪失
VMD軽
ECとの価格競争への突入
販促が単品特売のみ
顧客分析不足
「良い商品なら売れる」という思考
=来店理由を作れない
■ 勝ちパターン
来店動機の明確化
VMDによる提案型売場
SPA・PBによる独自性
SNSによる常時接点
タイパ訴求
グループSKU提案
=「買う理由」ではなく「来る理由」を作る
・ここだけの話
中小企業診断士にとって、小売は一番身近な業態で、運営管理の試験勉強で習った対象がすぐ目の前に展開されている。ただ、年々実店舗を取り巻く環境は厳しさを増しており、独自性を背景にPBやSPAが業界を席捲しつつある。ただ、PBと言ったって、他社も漏れなく着手すれば、それすらもコモン化するだろうし、SPAだって、自社工場じゃない以上、同じような品質や規格のものは開発可能だ。
某高付加価値デザイン性家電メーカーのように、ただ高ければ喜ぶほど消費者は馬鹿ではないし、富裕層はムダに金を使いたい訳ではない。販売力のあるメーカーは直販まで川を下ってきているケースも多く、今後は購買人口のシュリンクに合わせて、小売店舗も整理されていくだろう。
その中で、独自性をどこに見出すのかは極めて難しいが不可能ではないだろう。ただ、それだけも経営資源を投入できる体力のある小売がどの程度存在するかは疑問だが。
「ECの展示場に甘んじる側とECを従える側に分かれる」
飲食サービス業(大分類 M)
(中分類76:飲食店)
「平面競争ではなく時間軸と戦う商売」
・この業界の正体
飲食店は小売業と同じくらい身近な存在である。また、個人経営から全国チェーンまで規模の開きがあるのも似ている。
飲食店では、食材を仕入れ、それを調理して提供することで対価を得る。つまり、立地+食材+加工=提供価値となる。サービス業の特性として、需要をコントロールできない非貯蔵性というものがある。簡単に言えば一日の中でも、昼食や夕食の数時間に需要が集中してしまうというものだ。営業形態によっては作り置きなどもできるだろうが、一般的な飲食店では仕込みまでが限界となる。
需要が極度に集中するということは、必要労働力もその時間にピークを迎える。主に、接客を行うホール業務と調理等を行う厨房業務に分類することが多い。ただし、繁忙のピークはほぼ同時である。
人材確保が困難な現在においては、なるべく業務を削減するために食券、タブレットオーダー、セルフレジなどの導入が進んでいるほか、ドリンクバー、サラダバー、スープバーなども導入が多い。また、「おススメ」や「日替わり定食」などにより、ある程度需要を集中させ効率を高めることや、大手チェーンでは工程の90%をセントラルキッチンで行うことで、厨房業務のスキルと作業時間を削減している。
実際に大手レストランチェーンでは、厨房で一切包丁を使わないで調理が可能な体制となっている。つまり、温めて盛り付けているだけだ。
最大売上はキャパ(席数)×座席稼働率×回転率×客単価で決まる。
一般的にではあるが、昼のランチ営業などは回転数の勝負になる。一方で夜がメインの場合は利益率の高い酒やソフトドリンクを注文させて客単価の向上を図る方向へ行く。
飲食業の弱みは、小売業の食品が生活必需品なのに対して、外食は嗜好品として扱われることだ。消費税率もそのように区分されている。したがって、コロナ禍のような非常時には来客がストップするし、景気の影響を大きく受ける。
また原材料に関して一般的な食材がメインとなるため、こちらも物価の影響は受けやすい。加えて、人材に関しての一部の高級店を除いては、店頭1名+アルバイトスタッフでの対応となることが常態化しており、一部のチェーン店や小規模店ではワンオペの場合もある。
飲食店の店長は、店舗に係るあらゆる責任を負っているため、実質的な休みは殆どない場合が多く、定休日を設けないチェーン店の店長は自身も年中無休になる場合が多い。さらに、誰よりも早く出勤して仕込みを行い、誰よりも遅くまで店に残り掃除やレジ締めを行った後で、バイトのシフト繰りに頭を悩ませる。
若年世代がこのような仕事環境を好むはずもなく、建設業や物流と肩を並べる不人気職種である。
・なぜ儲からないのか
飲食店の一番の問題点は、需要と供給のバランスが非常に読みにくい点にある。ある程度の営業経験により、ピークタイム、曜日変動などは把握できるものの、1店舗の需要などは市場のほんの誤差で崩れてしまう。
例えば、ランチタイムを想定して日替わりランチを仕込んだのはいいが、その日はたまたま隣の大企業のオフィスが休日であり、客数が想定の30%などということもあれば。悪天候が予想されたので、バイトを最小限にしておいたら、通りすがりの団体客に遭遇することもある。
つまり、限りなく待ちの姿勢しか取れない割りに、待っていた客が想定と違うと柔軟に対応することが難しいということだ。
それにより、バイトの時給、ムダになった食材、家賃、水道光熱費などの負担に加え、予約サイト等のサブスク費用なども重なり、かなり厳しい経営になる。
食材、人件費、家賃、水道光熱費は全て値上がっている中で、飲食店の値上げ率は大きくはない。それは、彼らが平面競争で成り立っているからに他ならない。隣が同じ価格を維持すれば、品質が同等であれば追従する以外に手段はない。
一方で、品質を上げようと思えば食材、人件費、設備費などが増し、変動リスクはより大きな波となって返ってくる。逆に価格を下げて品質を下げれば、不味いだの、少ないだの、遅いだの、といった容赦ない口コミにより再起不能となる。
繁盛店ほど顧客の期待値は高く、その期待値を維持するだけでも厳しい状況において、少しくらいならという甘えから、何か一つでも品質を落とせば、期待値が高い反動で顧客は烈火のごとく怒り、離れていく。
客に選ばれている理由を正確に把握することも非常に重要である。まさか、サイゼリアを最上級イタリアンと思って来店する客はいないだろう。つまり、来店の決め手になる要素が何または何×何であるのかをはき違えると転落一直線だ。
■ 飲食業の収益構造
売上:座席数×座席稼働率×回転率×客単価
原価:仕入+廃棄損+歩留まり損
利益要素:回転率または客単価の変動
=客はなぜ当店を選んでいるのか?
・儲けるには
飲食店は生活密着サービスであるだけに出店ハードルが非常に低い。その一方で、生存し続けることは極めて難しい。大手チェーンを除く、個人や中小の飲食店の生存率は下記のように言われることが多い。
開業1年後:約70~80%
開業3年後:約50~60%
開業5年後:約40~50%
開業10年後:約20~30%
つまり、花々しくオープンした店も3年で半数が閉店し、10年後には2~3割しか残っていないのだ。実はこちらが真の競争であり、隣の店と平面競争をしているようで、実は時間軸の中での生存競争をしているという方が真実に近い。
ところが、今でも現金商売の残り香がある飲食業では、日銭感覚が抜けておらず、日々売上を上げること、利益を上げること、損をしないことに意識が集中してしまい過ぎる。
売上が達成できないと思えば、変なキャンペーンを打ったり、少し高価なメニューやもう一品をおススメしたりする。利益が取れていないと思えば、量を少しだけ減らしてみたり、食材のグレードを少し落としたりする。客数が少ないと思えば、シフト時間を無視してバイトを早めに切り上げさせたりもする。
これらの行動が長期的な目でみて、果たして生存率の向上に繋がっていると思えるだろうか。
10年生存を目標とするならば、10年生存していて欲しいと客に思わせる店である必要がある。10年以上生存しているチェーンを除く飲食店とはどんなイメージ像かと言えば、「普通」である。
必要以上に期待を煽らず、必要以上に尖った味でもなく、平均水準の接客をする店ではないだろうか。つまり、「またここでもいいか」という妥協の境地に到達できる店だと言える。これは一般的な戦略とは異なる方向性だろう。珍しい食材を使い、地域にないメニューを提供し、一段上のサービスを提供して差別化を図ろうとして倒れていった屍から見下ろせば、なんと「普通」であることが「生存競争の肝」であったわけだ。
繁盛店は一部の才能や運であらたなジャンルを作り出す。ただそれは極々一握りのスター店に過ぎない。一方で多く長寿店は普通であり、普通とは、期待値の安定供給に他ならない。食材に対してそれなりのマージンを確保するから、「極めて美味しい」とはならない。だが、原材料価格が高騰したとしても、短期間であれば持ちこたえることは可能である。つまり、いつでも客が想像する範囲の「普通」を提供できるわけだ。
よくLTVと表現されるが、「一推し」でなくても、「推し」でなくても、「イツメン」にさえ入っていれば潰れないのだ。
・中小企業診断士の姿勢
中小企業診断士が飲食店をコンサルするケースは非常に多い。それは、単に飲食店の数が多いからでもある。飲食店を診断するうえで、まず決算書だが、規模が小さい場合はほぼ参考程度に考えた方がいい。現金決済比率の高い店の場合は特にだ。これで、異常に原価率が高かったりすれば、売上の未計上や食材の仕入などが疑われる。
実際に、オーナーが不在の店では店長が、店長が不在の店ではバイトリーダーが安易に手を染めているケースに何度も遭遇してきており、これはもはや悪事がある前提で見た方がいいだろう。
中小企業診断士としては、目に見える部分が非常に気になると思う。例えば、古い店構え、べとついた椅子やカウンター、手に触れるのを躊躇うような調味料、汚い白衣、昭和初期かと思うようなトイレなど、次に気になるのは料理の味や見た目、提供時間、そして店員の態度やサービス内容といったところだろうか。
ただ、これらは、別に中小企業診断士でなくても誰にでも分かることであり、何なら客すらも知っている事実でしかない。そんなことをこれ見よがしに指摘すると恥ずかしい思いをすることになる。
中小企業診断士が観察すべきは、何故この店に客が来ているのかその理由である。それがたった数名であってもだ。そして、前述の「普通」とこの店の差異は何かである。
SNSで集客しようが、YouTubeで動画を流そうが、それこそ雑誌やTVに取材されようが、大した意味などない。それよりも、「誰」がこの店を「普通」だと思って「通っている」かこそが最大の論点になる。ここすら解き明かせば、ジグソーパズルの角は抑えたようなものだ。
あとは、繁盛店を築き上げる才能がないのであれば、普通さを極め、10年間安定した土台に乗り続けるための方法を考えればいい。
・地雷と勝ちパターン
■ よくある地雷
SNSバズ依存
原価率の高すぎる看板商品
店主の自己満足メニュー
値上げできない価格設定
人手依存運営
常連依存
過剰な差別化
=「客が求める店」ではなく「店主がやりたい店」
■ 勝ちパターン
期待値の安定供給
適正な原価率
常連の自然な積み上げ
無理のない価格改定
オペレーションの標準化
固定客の生活導線への定着
=「また来てもいいか」を積み上げる
・ここだけの話
中小企業診断士にとって、飲食店は接点が多い。恐らく小売よりも接点が多いのではないだろうか。公的支援などにおいても診断や助言をする機会が多く、創業支援などにも必ず入ってくる業種だ。
それだけに、前述した生存率が極めて低い。しかも、自分の店を普通にしようとして創業者は少ない、というか見たことがない。ただ、10年以上の生存には普通であることが求められる。このギャップを言語化し、体現し、説明しきれるかが我々の肝である。
創業者は、最高の食材を使い、自らの技術とアイディアでメニューを工夫し、どこにもないオリジナルの味を追求するが、日々求められるのはそこではない。
万人に受け、万人がまあまあだと思い、万人がまた来てもいいかもしれない、と思う店を作ることが何よりも大切なのだ。
「飲食とは期待値の安定供給」
生活関連サービス業(大分類 N)
(中分類 78 洗濯・理容・美容・浴場業)(7892:エステティック業)
「規顧客獲得の渦に巻き込まれたら最期」
・この業界の正体
エステティック業は大手脱毛サロンから個人経営店まで規模は様々であるが、大きな特徴として前金で契約を取るという商慣習にある。近い業種として美容医療が挙げられるが、メスを入れられるか、注射を打てるか、薬を処方できるか、医療機器を使えるかになる。
つまり、美容医療でもエステティックでも脱毛は存在するが、美容医療の方が出力が高いレーザーを用いるし、痩身にしても、美容医療が外科的手術や糖尿病患者向けのインスリン注射の類似薬を用いるのに対して、エステティックは手技やEMSといった超音波振動などによる施術となる。
提供するサービスは似ていても、開業のハードルは大きく異なる。美容医療は医療行為であり医師免許が必要である一方、エステティックは美容であり特に公的資格は必要ない。
前金で複数回の施術を契約することで、他店へのスイッチを防止するとともに、定期的な施術を行い効果を引き出す狙いがあるが、大手脱毛サロンの相次ぐ倒産は、このような前金による大型の契約モデルの危うさを現している。
脱毛6カ月間無制限の施術プランを契約したとしても、施設・設備・人員に限りがある以上、提供できるサービス回数は上限が定まる。加えて、サービス業の宿命であもある非貯蔵性が存分に発揮され、客が施術を希望する曜日と時間帯は概ね重複する。
一方で、顧客獲得には膨大な宣伝コストを投じており、契約が停滞するとそれは即資金繰りに影響を及ぼすため、どれだけ施設や人員に空きがなかろうが、新規契約は取り続けなければならない。
一般的な感覚で考えれば、客との契約によって得た対価は、サービスが提供される瞬間までは前受け金として、別途保管する必要があるのだが、そんな奇特な例はなく、皆総じて運転資金、特に新規顧客獲得のための宣伝資金に回してしまう。
これにより、自転車操業状態となり、いよいよ施設や人員が限界を遥かに突破し、サービス提供に滞りが出始め、口コミで契約したもののサービスが受けられないことが明らかになると、新規契約が取れなくなり、あえなく倒産するという仕組みだ。
こんないとも簡単な仕組みを、何度も何度も繰り返している。
一方で、個人店の中には地域に根差した美容を提供し、熱烈なリピート顧客を抱える店舗も多い。
とはいえ、個人店であっても業界最大手の集客プラットフォームに依存した集客を行う場合が多く、常に新規顧客とロングの契約を行っていかなければならないという事情は変わらない。
これが整体やマッサージと異なる点であり、脱毛や痩身の設備を導入する以上、一定以上の稼働率を確保して設備投資を回収する必要があるためである。
・なぜ儲からないのか
儲からない原因の多くは、キャパに対する不十分な集客か、集客のための行き過ぎた低単価戦略によるところが大きいだろう。
オーナーエステティシャン1名で設備もなく手技で運営していれば、家賃以外の大きな費用負担はなく、利益率自体は非常高い商売である。
ところが、それで満足しないオーナーは多く、脱毛、痩身EMS、美顔、しわ取り、シミ取りなどの設備を導入していく。当然ながら、設備の中には半自動のものもあり、その間に他の顧客を施術することで、生産性を向上できる可能性は高まるが、結局は設備に見合った集客を行えば、ピークタイムの混雑が増すことになり、人員を増員するはめになる。
人員が増えれば、人件費という固定費が重くのしかかり、新規顧客の集客合戦は後に引くことはできない。一方で、事情は他店舗も概ね同様で、結局は集客プラットフォームでのダンピングへと繋がっていく。
なので、儲からないというよりも、前受け金とサービス提供のバランスが崩れ、一体どのような状況になっているのかが分からなくなった時には自転車操業の真っただ中というケースが多い。よって、儲かっていないという認識すら直前まで持っていいないケースもある。
■エステティック業の収益構造
売上:客数×契約金額
原価:家賃+人件費+設備減価償却+消耗品
コスト:広告宣伝費+紹介料
利益要素:LTV > 顧客獲得コスト
=新規顧客を黒字で獲得できるか
・儲けるには
儲けるためには、収益を正確に把握することが必要である。そのためには少なくとも、契約時に一括して入金した金を売上とするのではなく、前受け金として仮勘定で処理し、サービス提供とともに売上処理することが重要である。
それにより、提供残も一目で分かるようになり、自店の提供キャパを見失うことも少なくなる。
次に、正確な利益率の把握である。様々なコースを設けることが多いが、契約欲しさに脱毛の無制限プランなどの極めて負荷の高いプランを提供すると、顧客別に見て収益化できているのかが怪しくなる。また多いのは、兎に角新規顧客を確保するために、集客プラットフォームの高額コースを契約し、そのプラットフォーム内での広告を出し、その他のWeb媒体へも広告を出すなど、かなり広告負担が重たい場合も存在する。
既存顧客に対する顧客紹介料なども見逃せないコストの一部である。元々が利益率が極めて高いため、この辺のコスト意識が緩いケースが多くみられる。
1人の新規顧客獲得に、もっと言えば、10万円を稼ぐためにどれほどの広告および類似費用を使っているかの構造を正確に把握することが大切である。
また、メーカーの営業攻勢に乗せられて次から次に新型の設備を導入するケースも多いが、これも冷静に設備あたりの収益性を計算することが必要である。
顧客獲得コスト、顧客維持コスト、設備コスト、人件費などと、リアルタイムでの売上状況を把握できれば、そのような対策やサービスを強化すれば収益性が向上するかが明確化される。
・中小企業診断士の姿勢
中小企業診断士がエステティック業を診断する場合の最大の注意点は、前述しているとおり現状の利益が正確に把握できていない店舗が殆どである点に終始する。大手の脱毛サロンですら次々と倒産する有様であり、小規模店舗は尚更収益状況を把握できていない。
決算書上は黒字化していても、本来は前受け金であるものを売上計上しているケースが多く、そうなると、提供していないサービスを売り上げているのだから利益率は極めて高く見えてしまう。加えて、税務上も課税対象となるので、本来はサービス原価や管理費などを差し引いて計算されるはずの課税ベースよりも、高い金額で課税されていることになる。
それだけならばまだいいが、税理士などが節税のために車や新規設備の導入をすすめるケースも多く、実は儲かっていないにも関わらず、儲かっていると思って費用を過剰に使っている場合すらある。
こうなると、絡まった糸を丁寧に解いていくしかなく、顧客別に前受け金と売上の計算をし直すことになるのだが、これは現実的に考えて気が遠くなるような話である。ただ、少なくとも、そのような管理ができなければ、闇雲な自転車操業の末、ある日突然のキャッシュショートの可能性すらあり得る。
次に、儲かっていると勘違いしているからこそのコスト感覚を修正していく。集客プラットフォームのプランは適正が、Web広告は費用対効果が上がっているか、無償でできるPRを疎かにしていないか、紹介圧が強く顧客が逃げていないか、など数え上げればきりがないが、これらを丁寧に潰していくことが大切である。
あとは、BtoCでは共通するが、既存の顧客が、どのような経路でこの店にたどりつき、何が決めてになり契約をしたのかを徹底して因数分解していくことだろう。それに基づいて戦略を策定していけば、確度はかなり高まる。
・地雷と勝ちパターン
■ よくある地雷
前受金を売上と勘違い
集客プラットフォーム依存
無制限プラン乱発
過剰な設備投資
お試し値引き依存
オーナー不在で管理崩壊
=契約獲得が目的化している
■ 勝ちパターン
前受金と売上の分離管理
紹介中心の集客
高LTV顧客の育成
設備投資の厳格管理
適正な提供キャパ維持
地域密着によるリピート化
=契約数ではなく顧客生涯価値で考える
・ここだけの話
エステティック業は、美容師、ネイリストなどと同じく女性の起業が殆どである。中でも、免許や資格、許認可が不要なエステティック業は開業率が高い。しかも、設備投資などを抑えれば、原価率も低くよほどヘタを打たない限りは倒産しない。
ところが、個人店からの脱却を図った瞬間に環境は激変する。そこからは、本文中でも再三述べた新規顧客獲得による自転車操業のスタートとなる。これは一旦漕ぎ始めたらやめ時はない。まさしく自転車と同じで止まれば転ぶ。
その状況から逃れる方法としては、店長を雇い自分が現場から離れて俯瞰することである。自身がオーナーエステティシャンとして現場に出ている限り、儲かっていそうな雰囲気でありながら、一向に資産形成ができていないというケースは多い。
「新規契約を追い続ける限り、自転車は止まれない」
医療(大分類 P)
(中分類83:医療業)(8331:歯科診療所)
「コンビニすら凌駕する過当競争」
・この業界の正体
犬も歩けば歯科医院に当たる。全国のコンビニの件数が約5.6万店に対して、歯科医院は約6.6万件。
面白いことに両者ともにとっくに飽和を通り越して壮絶な生き残りの戦いを経て微減している。人口当たりで表すとコンビニは1件/約2200人、歯科医院は1件/1800人である。
1800人全員が年間2回必ず検査と歯周病対策歯垢除去(保険適用)に訪れるとして、年間のべ3600人、250日営業で14.4人/日となる。診療報酬が5000円(保険金額も含む)程度なので、売上は1800万円となる。この売上で、医療事務員、歯科衛生士、医療機器、家賃を賄うのはなかなか難しいのは想像に難くない。
つまり、他院から客を奪うか、もっと付加価値の高いサービスを提供するかのどちらかしか生存する方法はない。
都心部の歯科医院は一気に自由診療の領域に舵をきり、矯正、審美、総インプラントなどへ進出した。その市場は他医院も当然見逃さない、すぐにレッドオーシャンと化す。
一方で、専門治療、保険適用の高度治療、小児歯科など専門性を高め商圏を広げる道もあるが、専門性を高めるほど、医療機器の高度化(医療用のCAD/CAMや口腔CT、自動切削装置など)が不可欠となってくる。
ふた昔前の歯科医院は高価な開業資金を投じても、自分の親族が後を継ぎ継続経営していくことで回収可能であるという認識があった。しかしながら、厚生労働省の政策転換により歯科医師は爆増した。これにより、血を血で洗うような戦いに放り込まれたわけだ。
タイミングよく新規改装できた歯科医院は、新しさというアドバンテージにより商圏の顧客を獲得できる。だが、近隣の医院が改装すればアドバンテージはなくなり、簡単にスイッチされるという無益な競争である。
・なぜ儲からないのか
儲からない歯科と儲かる歯科との差はかなり大きくなっている。儲からない歯科医院は、皮肉にも真面目な医師である場合が多い。院長が自ら時間をかけて検査と診察を行い、保険適用を厳格に管理する。客の負担を考慮し、必要以上に高価な治療を勧めない。これは、昔ながらの信頼される地域の歯科医院である。だが、残念ながら儲からない歯科医院のテンプレートともいえる。
これらの負け組歯科医院の主な顧客は子供であった。しかしながら、予防歯科の啓蒙活動が効果が上がり過ぎたのと、子供自体の数が減少して親の目が届きやすくなったことで、特に子供の虫歯は激減している。例えば12歳児の永久歯の虫歯本数(DMFT指数)は、1980年代:4~5本、2000年頃:2本前後、現在:1本未満である。
歯科医院とて、指をくわえて傍観していたわけではない。当然ながら、子供が減れば1人当たりへの投資額は増える。そこで、歯列矯正が必須の世の中であるかのような雰囲気を醸成し、保険外適用で100万円を超えるサービスを主戦場へと移していった医院も多い。
待合には絵本、マンガ、おもちゃ、ガチャガチャ、そこに歯科医院の面影はない。子供に選ばれなければ未来はない。だが、残念ながら、子供自体の数も減少しているのだから目も当てられない。過剰な歯科医院に対して、十分な市場が確保できないのは火を見るよりも明らかだ。
■歯科医院の収益構造
売上:客数×治療単価
原価:家賃+人件費(事務員、歯科衛生士、歯科医師)+設備減価償却+消耗品
コスト:広告宣伝費
利益要素:顧客単価×のべ患者>総コスト
=経営的意識で運営を戦略的に行っているか
・儲けるには
儲けるためには、客単価×のべ客数=売上なので、客単価かのべ客数を増加させるしかない。3カ月毎の歯垢除去DMはどこでもやっている。その程度でのべ客数が増えるほど甘くはない。一方で、1本10万円以上のインプラント治療を執拗に進めれば、当然口コミが悪くなる。
儲かる歯科医院はどのような仕組みになっているかを簡単に表現すれば、これまでの病院として奢っていた部分を徹底して排除していくことにある。歯科医院は完全に選ばれるサービス業の中でも熾烈な競争の業界と言える。待って当然、何度も通わせ当然、痛くて当然、という当然が、いったいいつの昭和時代なのだという状況になっている。
つまり、待たせない、通わせない、痛くない、むしろ気分が上がる、楽しい、行きたい、くらいに変革しないと勝ち目はない。
一般歯科医のボトルネックは歯科医師だ、歯科医師にしかできない治療をすれば、歯科医師の人工が最大のボトルネックとなる。つまり、歯科医師のチャージを高めること、非歯科医師の工程を増加することがポイントだ。歯科医師のチャージを高めるためには、高齢の似非富裕層を狙ったインプラント治療、美容分野に特化した審美治療などが挙げられる。一方で、非歯科医師の場合は、歯科衛生士が行う歯垢除去、衛生指導などだろう。
あれもこれもではなく、ある程度のターゲットを絞り込んでアプローチする必要がある。そのうえで、利益率を追求するのか、回転率を高めるのかを明確にし、施設、設備、人員もそれに合わせて設計する。何を捨てるかが重要となる。
また、新規顧客の獲得にもっと費用を投じることも必要だ。バカみたいに顔写真が乗った看板を立てている暇があったら、Googleビジネスを整え口コミを獲得する、LINE公式アカウントで顧客とのつながりを作る、スマホで簡単に操作できる予約システムを入れる、SNSで治療例を挙げるなど、これまで他の業種が当たり前にやってきたことを当たり前にやる努力をしなければ、間違いなく負け組一直線だろう。
・中小企業診断士の姿勢
医療機関だからとって特段構える必要はない。歯科医院は医療機関の中でもとっつきやすく、商売っ気の多い医院長も多い。基本は商圏はある程度固定されるので、決算書の売上を見れば勝ち組なのか負け組なのかは直ぐに判別できる。
ただ、ここからがプロの出番である。医療コンサルにはない中小企業診断士として経営の腕を披露していこう。医院長は比較的横柄で権威欲の強い傾向を持つ院長も少なくない、出入り業者は恐ろしくてものも言えない状況だ。また、医院内でも当然ながら、医師と非医師という身分差は絶大で、医院長に意見できる者は存在しない。医療コンサルの多くが、そんな独裁国家の元首のご機嫌を取ることを仕事にしている。
一方で、こちらは国家資格者である。全く臆することはない、相手がどれだけ論文を書いていようが、学会で表彰されていようが知ったことではない。経営的に不足があるのであれば、真っ向から意見して問題ない。それで、聞く耳を持たないのであれば見込みはない。
聞く耳を持つセンスのある院長であれば、まともな経営戦略に対して、業界にまだない知識や戦略を求めてくることが多い。
・地雷と勝ちパターン
■ よくある地雷
保険診療依存
高額設備の過剰投資
院長依存経営
自費診療への安易な参入
スタッフ定着率の低さ
ネット口コミ軽視
=医療だけ見て経営を見ていない
■ 勝ちパターン
予防歯科による継続来院
明確な専門分野の確立
スタッフ主導の運営
自費と保険の適切なバランス
デジタル活用による利便性向上
地域での信頼獲得
=治療ではなく通院体験を設計する
・ここだけの話
歯科医院には歯科技工所がセットになっているケースが多い。それは自社経営か特定の提携先である。補綴物や矯正器具の製作は必ず必要であり、昔は石膏で肩を取っていたが、現在は口腔内CTも随分と普及している。歯科技工所は所謂川上の下請け業者であり、設備の進化により院内技工が流行っているが、今のところ技工所は絶滅はしない。
歯科医師の本性は技工士に対する態度でほぼ分かる。これは元請の下請けに対する態度に近く、かなり本性が出る。自社経営でない技工所の場合は、技工士は多くの歯科医師との取引があり、多くの成功事例、失敗事例を見てきているが、前述のとおり意見できる身分ではないのだ。
一方で、歯科医師は他の歯科医師との付き合いはあまりない場合が多く、まさに独裁国家の元首状態なのだ。これこそが、過当競争の中で、未だにそんこともできていないのかというレベルの低い経営を行っている原因の正体だ。
「歯科医院は医療ではなくサービス業として競争している」
あとがき
日本の事業所は、日本標準産業分類(2023年改定版)において、大分類:20、中分類:99、小分類:530、細分類:1,460に業種が分類されている。それぞれに独特の商慣習や業界言語、業界常識を持っており、所謂一般的な経営知識からすれば戸惑うケースが多い。しかし、中小企業診断士を名乗る以上、それぞれの業種との出会いを拒むようなことはできない。そこで、筆者が経験してきた業種ごとのクセや、業界の特殊性を少しでも共有できないと考えたのが本書のきっかけである。駆出しだろうが、ベテランだろうが、中小企業診断士を名乗るからには、相手からすれば経営コンサルタントのプロである。「この業種の商慣習には明るくありません」と素直に言える正直さと謙虚さは大切な姿勢であるが、一方で、彼らが簡単には教えてくれない部分に課題の本質が潜む場合も多い。本書は、一般にある業界解説書ではなく、あくまで筆者の目線という歪んだフィルターと皮肉という歪んだペンを用いて執筆したものであり、各業界を業界外から斜めに見上げるようなイメージで読んでいただければ幸いである。初版では、中小企業診断士との接点が多い業種を中心に10業種をピックアップして収録してある。今後も時間と体力と気力が続き、なおかつ需要があるのであれば、業種をアップデートしていければと思っている。本書が中小企業診断士の活動の一助になれば、筆者にとってこれ以上の幸福はない。
改定履歴
2026年6月16日 校了 公開
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