セブンの葛藤
私の人生は、14歳で全て奪われた。
「バイバーイ」
「また明日ねー」
遠くで聞こえる子どもたちの声を聞きながら、私もかつては、無邪気に「また明日」と言っていたことを思い出す。
そう。
あの頃は何も知らず、ただ毎日が楽しかった。
かけっこ、なわとび、かくれんぼ。
近所の野山を駆け回っては、ただただ笑っていた。
そんな日常が一変したのは、なんの変哲もない1日の、放課後のことだった。
突然告げられた、自身の出生の秘密。そして、死期。
まだまだ遊びたい盛り。勉強も、恋愛も、全てこれから、というときに、私の未来は呆気なく閉ざされた。
そして今、再び、私の運命が変わる合図の音が鳴っている。
「それで、私にどうしろと言うんですか?」
普段はあまり立ち入らないような、古風な喫茶店で、私は1人の男と向かい合っていた。
周りに他の客は誰もいない。
店のマスターさえ、いつの間にか席を外していた。
目の前に座る、この怪しさしかない男と2人きりという事実に、早く話を終わらせて帰った方が良さそうだ、と判断する。
こちらが警戒を隠さずに男を見つめると、金髪に黒縁の丸メガネ、黒のスーツの男は、ニヤリと笑うと、1枚のカードを差し出してきた。
「このカードが、お前の運命を握っている」
「はぁ……」
おかしなことを言うものだ。
私の寿命は、あと2年で尽きる。
それは、14歳のあの日に告げられた私の運命で、国が関わっている以上、誰にも覆すことのできないものだ。
その事実を知っている人間が、まさかこんな突飛なことを言ってくるなんて……私は揶揄(から)われているんだろうか。
「揶揄ってはいない」
「ーーーっ」
「そういう決まりになったのだ」
私の考えを見透かしたのか、どこまでいっても不気味だ。
一体何を考えているのかわからない。
目の前のこの男は、不敵な笑みを浮かべながら、私の言葉を待っていた。
「はぁ……。それで、私にどうしろと言うんですか?」
なんだか腹が立ってきて、先ほどと同じ問いを投げつける。
男は、さらにその笑みを深めると、この度の決定事項を朗々と語り出した。
「つまり、私の遺伝子を後世に継ぎ、私自身が生きた証を残すことができる。そのためには……」
「他のナンバーズを殺せばいい」
恐ろしいことを、さも当然のように、笑みを浮かべたまま言う男に、私は小さく嫌悪感を抱いた。
しかし、それ以上に、私は戦慄してしまった。
「私が、生きた証……」
子どもの頃から、自分を取り巻く身近な環境が、ぼんやりとした違和感に包まれていることに気づいていた。
それでも、楽しく過ごせていたのは、他の子たちと同様に、私にも未来があると思っていたから。
その未来さえ奪われたあの日、私は、生きる意味を失ってしまったのだ。
それからは、できるだけ希望を抱かないように、未来なんて想像しないようにと生きてきた。
そうすることでしか、自分を守れなかった。
努力することも、認められることも、何もかもが時が来れば、強制的に終わりにされてしまう。
そんな無意味なことに期待を膨らませて、絶望を大きくしたくなかった。
それが……
「生きて、いいの?」
声が震えた。
あの日、奪われた私の未来に、一筋の光が見えた気がしたのだ。
「最後の1人に残れば、な」
男の声がどこか遠くに聞こえる。
ずっと暗闇の中を生き続け、死ぬ時も真っ暗なまま逝くのだと思っていた。
でも、そうじゃなくてもいい。
私は生きててもいいし、未来を描いたっていい存在なんだ。
これからは、好きなことをしよう。
大好きなことを見つけて、美味しいものを食べて、明日を夢見て安心して眠ろう。
「私、やります!」
男の不気味さなんて、もう気にもならなかった。
むしろ、哀れな私を助けに来てくれた救世主だと思った。
だから気づかなかった。
メガネの奥で光る瞳が、狙った獲物を狩り取った、捕食者の目をしていたことに。
