sunny day sunday
それは暗闇から落ちてくる。ゆっくりと回転しながら、ゆるやかに弧を描くようにして落ち続ける。それは最後まで見つからなかったパズルのピースのひとつでもあり、誰かのなくした指輪の断面でもあり、悪夢の一幕のかけらでもある。ついぞ見つけられなかった誰かの爪の先かもしれない。そんなことはどうだっていい。俺の目も頭も回っている。身体がいつまでも得体の知れない空間で浮いているようで、手足の先だけがまさにどこからか落ちているように風を感じている。どこからか聞こえる音楽だってずっと回転している。旋律が螺旋を描くように部屋の中を、俺の頭の中を落ち続けている。同じ曲。同じ響き。同じ歌声。俺の歯が浮き始めたくてうずうずしている。俺はすこし不安になる。これは、俺は飛んでいるのか? だがすぐにそれは砂糖のように消えて無くなる。俺の血は正直だった。何も問題ない。俺の目はしっかりと見開かれている。何も問題はない。俺は暗がりにいる。落ち続けるそれを見続けている。それはひとつだった。きらきらしている。雨のしずくとはちがう。低音が下降する。歌手が黙り込む。差し込まれるせりふ。ダーリン、カードをシャッフルしよう。それでみんなフェアになる。歌い手は口を開く。それは虚栄を愛するということ……俺の頭の中は映像と音声で入り乱れている。さながら酔っ払いどもの音楽祭。あるいは宴会。やつらは好き放題にしゃべって歌う。なたを振るい、散弾銃をぶっぱなす。そして合唱する。おまえは悪くない。誰だって誰かの足を踏む。誰かの肩にぶつかる。うっかりしてしまう。完全な人間などいやしない。愛するということ……歌い手が囁く。俺は満足して安心する。安心して落下する。落ち続けるそれを見つめている。いってごらんなさい。吐息が耳にはりつく。フリルのついたスカートが視界のすみにに入る。あなたをだれも責めやしないわ。気分が良くなる。優しい声に俺はまどろむ。そうだな。いってやろうか。俺は唇を湿らせる。うれしいわ。ないしょの話ね。声はもっと湿っていた。俺はまぶたを下ろしかけてやめた。旋回し続けるそれが一瞬だけ鈍く光ったからだ。輪郭がぼやけている。ははは。俺は笑った。そしていってやった。一回だけのつもりだった。だけどさ、ものすごくうまくいった。だから、もっとできると思ったのさ……もっとうまく、もっといい子を手に入れられるってね。でも、人間には失敗がつきものだろう……あなたなら挽回できるわ。かぶさる声は濡れていた。きっとできるわ。俺はまばたきをした。旋回していたはずのそれは星のように動きをとめていた。音楽だけが俺の周りをまわっている。ダンスしている。きっとできるわ……びしょ濡れの声が近づいて、遠ざかった。だから、教えて欲しいの……わたしのサンデーはどこにいるのか……歪んだ声に俺は笑った。なあんだ、そんなことかよ。サンデーといったら、なんだと思う? そんなこともわからないのか? 水辺で駆け回る子供のような喚き声がした。俺は見つめていた。暗闇の中の一点の空白。まっくらな世界に浮かぶひとつきりの目玉。あるいはサンデーの真っ白い歯。おまえは最高の女だったなあ。あの日が日曜であったら、もっと最高だったのに。やばいよな。最高の最高だ。鼻をすする音がして、俺は目を閉じた。指先が心地よく冷たく感じた。
