アイドル詩乃、脱皮物語(後)
流されたまま
私は突如として注目の的になった。
友達が勝手に応募した私の写真が雑誌に掲載され、グランプリを獲得したのだ。
それから頼まれるまま撮影に応じた結果、地元の学校には居られなくなり、そのまま上京して、本格的に芸能界デビューすることになった。
しかし、そこは意志も覚悟もない小娘が通用する世界ではなかった。
グランプリという肩書きも、1年限りの特権に過ぎず、都会には私と同じような顔立ちの女の子がゴロゴロいた。
痛感したのは、田舎で輝いていた自分が、東京ではごく普通の存在に過ぎないという事実だった。
勝負をかけた10代最後の写真集は惨敗し、私に残されたものはヘアヌードという路線だった。
転機
その路線を受け入れたその日、事務所の社長の前で全裸にされたまさにその日、必然のように地元の後輩が訪ねてきた。
落ちぶれた私を、地元で見ていたままの目で見つめ、こう言った。
私の惨敗した写真集が、自分の浪人生活の支えだった、と。
その言葉を聞いて、私はまだ流されるだけで生きている自分に気づいた。
一か月後と言われた撮影は、六か月後になった。
その間に私が脱毛に行きたいと言って事務所に認められたからだ。
これまで脱毛に行っていなかったのは、私の活動がグラビア中心でないことや、事務所の許可が必要だったからだ。
これは建前。
本音を言えば、たとえ施術者が女性だったとしても、他者に性器を晒したくない、と思っていたからだ。
しかし、路線変更でヘアヌードの決定を受け、私は社長とマネージャーの前で、全裸になることを強要され、性器も肛門までも暴かれた。
これは、覚悟を問われた行為だと分かっていた。
分かっていた、分かっていたけど、それまでの扱いと180度違うこんな仕打ちに私は泣いた。
まさにその日に、この後輩に再会したことで、私は開き直った。
改めて社長に対して、自分で開いて性器も肛門も見せた。
ひそかなコンプレックスであったバージンであることも認めた。
絶対隠しておきたかったオナニーも認めた。
清純派にしがみつくのはやめたのだ。
綺麗に仕上げてヘアヌード撮影に挑む。
そう決めて、サロンに通って脱毛も始めた。
足を開くときには勇気がいったが、ヘアヌード撮影ではたくさんのスタッフの前で足を開くことになる。
それに比べれば、どうってことない。そう思って乗り切った。
突き付けられたもの
そして今日はヌード撮影の練習の日。
月に一、二度、元カメラマンの社長に撮られて練習するのが、本番撮影を六か月に延長してもらった時の条件だった。
撮影練習は、スタジオ撮りと思っていたが、指定された場所は貸し切りの古民家だった。
この暗い部屋で撮影するということだ。
ひざまで長さのあるシースルーの下着のようなワンピースを渡された。
衣装は全裸の上にこれだけだが、全裸よりは緊張感がほぐれ、大胆なポーズも表情作りもできた。
撮影に慣れたころ、シースルーを脱ぎ、私は全裸になった。
社長に全裸を見られるのはこれで三度目。
慣れたと思っていても、緊張は走る。
たった一枚のシースルーの衣装の有無が、こんなにもぎこちなさに直結するのかと、私は実感した。
気が付けば足が揃っている。
全裸だからこその癖。
服を着ていたならこんなに、不自然なまでにきっちりと足を閉じるなんて、するはずはない。
それでも、徐々に大胆に、自然に足も開き撮影に応じることができた。
性器が写りこむポーズが何度もあり、それを意識するたびに私はひそかに興奮を覚えた。
撮影が終わるとデータ確認だった。
今までも、撮影データは現場で見せられることはあったが、全部を見ることは初めてだった。
驚いた。
はっきりと見えていないと思っていたシースルーの衣装では、乳首も陰毛も、性器さえも、すべて透けて見えていた。
私は足を開き、性器を見せているのに、満面のアイドル笑顔を見せていた。
逆に全裸で写っている写真には一枚も性器が写っていなかった。
危うい写真ではすべて私の顔は引きつっている。どれだけ意識していたのかがはっきりして恥ずかしかった。
そして、それ以上に驚いたのは、私自身の体だ。
バストこそ年齢相応の張りはあるが、腰からお腹、そしてお尻と締まりがなく、アラサーのような体だった。
はっきり言ってただのデブだった。
それは鏡で見た以上のデブだった。
社長は、これらを意識させるために、今日の撮影を準備したようだ。
さすが元カメラマン。その腕は確かだった。
私はこの撮影を通じて、初めてプロのモデルになれた気がした。
これまでは、『ただ撮られる人』だったのだと否が応でも思い知らされることになった。
本番撮影の打ち合わせも並行して行われた。
当初南の島での撮影と言っていたが、日程がずれたことで場所の確保が難しくなり、国内の私有地のコテージが候補に挙がっていた。
陽菜の目
あの日、スタバで詩乃先輩からLINEを教えてもらいました。
私から連絡するなんて、おこがましくて出来ませんでしたが、先輩からは時折、励ましのメッセージが届くようになりました。
その言葉を支えに、ラストスパートに成功した私は無事大学に合格しました。
先輩の事務所と私の下宿が近いことから、先輩からお茶や食事などのお誘いを受ける機会も増えていきました。
そしてある日、私は先輩からある「役目」をお願いされたのです。 それは、彼女の撮影練習に立ち会い、その姿を見て感想をコメントすること。
「……じゃあ、始めるね」 そう短く告げると、詩乃先輩は何の衒いもなく、男性カメラマンを前にしているのに、あっさりと服を脱ぎ捨てていきました。
私は、息を呑んでその身体を注視しました。
かつて誌面で見ていたあの頃よりも、今の彼女の身体には、言葉にできないほどの存在感を私が感じました。
腰回りや太ももの付け根には、柔らかな肉の厚みが宿っています。
けれど、それは決して「だらしなさ」などではなく、むしろそのわずかな贅肉こそが、彼女の白く滑らかな肌の質感をいっそう際立たせているように見えました。
かつての鋭いまでのスタイルよりも、今の彼女の身体の方が、ずっと素晴らしいものとして私の目に飛び込んできました。
少女から大人の女性へと先輩は進化したのだ、と思いました。
特に、動くたびにしなやかに形を変えるウエストの曲線。 その柔らかな肉の厚みは、見る者の目を捉えて離さない、圧倒的な説得力を放っています。
私は、ただ立ち尽くしていました。 今まさに目の前にいる、この素晴らしい身体。
(なんて綺麗なんだろう)
という素直な感動だけが、胸の中に広がっていました。
陽菜の芽生え
「そうだ! 陽菜も記念に撮ってあげて、いいでしょ、社長?」
「大丈夫!撮ってあげるよ」
遠くでそんな話をしているのを、私は知りませんでした。
撮影はいったん休憩になって、詩乃先輩はガウンを羽織って、私のところに来ました。
ただ、締めるのはNGということで、前は合わせていなくて、バストも陰毛も見えるままなので、私は目のやり場に困りました。
「言ったっけ? 私、陽菜に再会したころが肥満のピークだったって」
はだけたガウンから肉体を覗かせたまま、先輩は事も無げに言いました。
あの日、私は「成熟」だと思い込んでいたのに、先輩にとってはそれが人生で一番太っていた時だったなんて。
「あの頃は最低だった。でも陽菜に会ったのをきっかけに、必死に作り直したんだよ」
ウエストに添えられた手。
私が素晴らしいと感じていたその曲線は、先輩が努力の末、手に入れた「今」の姿だったのでした。
今はまだ指が沈むほどの厚みは残っていますが、これもきっと解消されるのだろうと、私は思っていました。
「陽菜ちゃん……。陽菜ちゃんも記念に撮ってもらいなよ。社長もOKしているから」
「私、……無理です。そんなこと」
「お願い。私、陽菜ちゃんが撮られるところを見て、勉強したいの。誰かが撮られるのを客観的に見たら、自分のポージングのヒントが見つかる気がするから」
先輩は、今の自分を少しでも良くするために、後輩の私に頭を下げることすら厭わない。その切実な瞳に見つめられると、私はもう拒むことなんてできませんでした。
「大丈夫! 撮ってあげるよ。データも全部あげるから、気楽に」
遠くで社長が応じる声が聞こえます。 ガウンの隙間から、重たげなバストと股間を晒したまま、先輩は期待に満ちた顔でじっと私を見つめています。
私は、先輩の役に立ちたいという想いと、逃げ出したいほどの羞恥心の間で激しく揺れながら、うなずいてしまいました。
「じゃあ、あっちで始めよう」
そう短く告げると、詩乃先輩は私の手を取って、カメラの前に立ちました。
そしてガウンを投げ捨てるようにして、まず先輩が全裸になりました。
「私が脱がせるから、任せてね」
先輩の指が、私のデニムのボタンに掛けられました。
されるがままにジッパーが下ろされ、硬い生地が足元に脱ぎ捨てられます。
その間シャッター音が響いています。
「……脚、すごく細いね」
先輩は私のスリムな下半身を、どこか羨むような、あるいは観察するような目で見つめました。
「眼鏡外すね」
先輩は両手で私の眼鏡を取ると、テーブルの上に置いた。
「眼鏡とっても、かわいいね」
社長の言葉はお世辞だと私でもわかります。
戻ってきた先輩は、私のトレーナーの裾を捲り上げます。
腕を上げさせられ、視界が塞がれた瞬間、カシャ、カシャと乾いたシャッター音がまた響きました。
「……あ」
トレーナーが脱がされ、その下に着ていたタンクトップ一枚になったとき、先輩の動きが止まりました。 生地越しに浮き出る乳首の形を見て、先輩が小さく息を呑むのが分かりました。
「陽菜ちゃん、……ノーブラだったんだ」
「はい、あまり必要ないので...…」
「それにTバックの紐パンって意外すぎ」
「はい、ブラで凝れない分、下で凝ってます」
驚きを含んだ声に、私は羞恥心で顔が熱くなりました。 けれど先輩は、その驚きすらも自身の表現の糧にするかのように、すぐにタンクトップの肩紐に指をかけました。 薄い布地が滑り落ち、私の平坦で白い胸が露わになります。また、シャッター音が重なりました。
「先っぽ、大きいね」
先輩はそう呟くと、私の胸を支えるように手を添え、吸い寄せられるように顔を近づけました。
周囲の白い肌とは対照的な、鮮やかなピンク色をした突起。 先輩の唇が、迷いなくそこを食みました。
「っ……!」
熱い感触に、私は思わず背中を丸めました。 先輩は私の反応を観察するように、その一点を舌先で弄り、じっくりと吸い上げます。
カシャ、カシャ、と激しいシャッター音が響きました。
ぼやけた視界の中で、全裸の先輩が私の胸に顔を埋めている。その異様な光景と、乳首から伝わる刺激に、私はただ震えることしかできませんでした。
「……すごく、綺麗」
濡れて光る唇でそう言うと、先輩は私の腰に手を回しました。
ブラは着けないけれど、下着にはこだわりがあるという私の言葉を確かめるように、指先がTバックの細い紐をなぞります。
そのまま、迷いのない手つきでサイドの紐を解かれました。
するりと布地が足元に落ち、私の股間が露わになります。
私のそこには、一本の毛も生えていません。
私はもともと、全く生えないタイプです。
「……本当、陽菜ちゃんは面白いね。ここも、つるつるなんだ」
先輩は、自分自身の重たげに生い茂った場所とは対照的な、私のまっさらな肌を指先で軽く撫でました。 全裸の先輩に直接触れられ、私は羞恥心で震えが止まりません。
カシャ、カシャと、その無防備な部分を記録するかのように、再びシャッター音が響き渡りました。
「じゃあ、次は私が教える通りに動いてみて。……勉強させてね、陽菜ちゃん」
先輩の熱を持った肌が、私の全裸の身体にぴたりと密着しました。
それからは緊張と興奮で記憶が定かではありません。
しかし撮影が終わり、データを見返すと、私ではない私が大胆なポーズで映っていました。
プロの手にかかると、私の少年のような体もこんなに綺麗に記録に残るんだ、と感動しかなかったです。
「ありがとう。勉強になった」
そういう詩乃先輩に、
「私こそです。たのしかった」
と正直な感想を返した私でした。
嗚咽
本番撮影の三か月前には、撮影場所は長野のコテージと決まっていて、 その撮影には、陽菜もついてくることが決まっていた。
あれ以来、何度か陽菜はモデルをやり、撮る方にも興味がでてきているらしく、本番撮影についていきたいという声に、社長も反対はしなかった。
撮影一か月前、事務所では詩乃の肉体の最終チェックが行われた。
ガウンを脱ぎ捨てて全裸になった詩乃は、前回のチェックとは別人のように体を絞り込んできていた。
かつては指が沈むほどの厚みがあったウエストは鋭くくびれ、太ももや腰回りの贅肉も完璧に削ぎ落とされている。
スリムになった身体に対し、重たげなバストのボリュームだけが圧倒的な存在感を放っていた。
「……前屈してみて」
マネージャーの亜紀の指示に、詩乃は無言で応じた。
全裸のまま深く上体を倒し、指先を床につける。
真っ直ぐに伸びた細い両脚の間から、完全に絞り込まれた腹部と、重力に従って垂れ下がる豊かなバストが覗いた。
かつては指が沈むほどの厚みがあったウエストは、前屈しても肉が余ることなく、研ぎ澄まされた皮膚の張りを保っている。
背中側には、絞りきった者だけに現れる美しいラインが浮き出ていた。
そして、その姿勢によって股間の奥までもが露わになった。
完璧に手入れされ、一点の隙もなく整えられたその場所には、以前のような重たげな茂みは一切ない。
お尻を手で開かなくても、詩乃の肛門も性器もはっきりと見えている。
社長は一切口を開かず、ただ黙ったまま、その完成された肉体の隅々までを鋭い眼光で見届け続けていた。
五か月をかけて作り直された詩乃の身体。
そこにはもはや「肥満のピーク」だった頃の面影はなく、長野での本番を待つばかりの、完璧な「素材」が完成していた。
社長と亜紀は目を合わせて、満足げにうなずいた。
「よく頑張ったな」
「よく頑張ったね」
二人は同じ言葉を口にした。
「ありがとうございます」
詩乃は上体を起こし、続く二人の言葉を待った。
「これなら、大丈夫。今回はセミヌードでいくぞ」
「え?」
詩乃は意外な言葉に、思わず聞き返した。
「そう、バストトップも陰毛さえも晒さない」
「え……?」
乳首も、そして完璧に整えてきた陰毛さえも、出すしかないと覚悟していた。
だからこそ、プロとして「見せられる状態」にまで仕上げてきたのだ。しかし、この社長の言葉は、詩乃にとって救いのような宣言だった。
(本当は乳首なんて見せたくない!)
ずっとそう思っていたけれど、仕事である以上、言葉にすることなんてできなかった。
詩乃の目から、堰を切ったように大粒の涙が零れ落ちた。
「その代わりと言っちゃなんだが、基本は全裸だ。……何も纏わず、光と影だけでその肉体の質感を描き出す。隠すことで、逆に今の君の美しさが際立つはずだ」
社長の意図を汲み取った詩乃は、心の底からほっとしていた。
半年前のあの身体を晒すのは、公開処刑に他ならない。
たとえ身体を絞った今でさえ、乳首を晒し、陰毛を晒せば、やはりそれは彼女にとっての公開処刑だった。
その処刑から、今、何とか免れたのだ。
全裸のままその場に座り込んだ詩乃の涙は、激しい嗚咽へと変わっていた。
完成
そして迎えた長野での本番。
コテージで行われた撮影は、カメラマンである社長を除いて、全スタッフが女性で構成されていた。
「見せたくない」
という詩乃の本音を汲み取った社長の配慮だった。
だからこそ、カメラの前以外でも終始全裸で過ごす詩乃も、かつてないほどリラックスした様子を見せていた。
撮影の準備が整うと、詩乃がバスローブを脱ぎ捨てる前に他のスタッフたちはその場を離れる。
残されるのは、カメラを構える社長と、アシスタントとして寄り添う陽菜だけ。
静寂に包まれたコテージの中で、詩乃は誰に遠慮することもなく、自身の完成された肉体を解放した。
その絶対的な信頼関係とプライベートな環境が、詩乃のモデルとしてのパフォーマンスを飛躍的に向上させた。
大胆に見せ、それでいて決定的な部分は光の陰影やポージングによって繊細に隠された写真たち。 レンズ越しに映し出されるのは、ただの露出ではない。
陽菜が憧れた、あのしなやかで力強い女性の曲線美そのものだった。
その写真は、後に発売された写真集において、見る者の想像力を激しく掻き立てる芸術的な「セミヌード」として結実した。
その写真集は、詩乃と陽菜の地元では爆発的に売れた。
かつての「地元のスター」が、これほどまでに美しく、そして覚悟を持って脱いだという事実は、詩乃を知る人々の心を強く揺さぶったのだ。
専門家からの評価も最高のものだった。無駄な肉を削ぎ落とし、光と影だけで構成された肉体美は、エロティシズムを超えた芸術品だと称賛された。
しかし、全国的な部数は伸びなかった……。
方向転換
あの長野の夏から、少し時間が流れました。
社長はあの写真集を境にカメラマン業を復活させ、今は社長業よりも忙しく各地を飛び回りながら、事務所の売り上げに大きく貢献しています。
代わりに詩乃先輩のマネージャだった亜紀さんが社長業をしているようです。
詩乃先輩は、あの撮影で一つの到達点に至ったことを悟り、アイドルとしては表舞台から引くことを決めました。
現在は舞台を中心にバイプレイヤーを目指しとして活動し、時折テレビにも出演する一方、事務所の裏方やマネージャー業にも取り組んでいます。
そして、私。
私は今も大学に通いながら、社長の傍らでシャッターを切り続けています。 あの日、コテージの静寂の中で目にした、美しくも壮絶な覚悟の記録。それが私の視点の原点になりました。
私、陽菜が「学生カメラマン」という肩書きを卒業し、一人の「女流カメラマン」として有名になるのは……それは、まだ少しだけ先のお話です。
