【連載小説】君の消えた日-二度の後悔と王朝の光- 0話 プロローグ-覆水盆に返らず-
【目次】
背中を深く斬り裂かれたような、鋭い激痛。
生々しい傷口から、どくどくと熱が流れ出していくのがわかる。
抗えないほどの痛みに視界が明滅し、急激に意識が暗闇へと落ちていった。
――どれほどの時が経っただろうか。
次に意識が浮上したのは、肌を焦がす熱と、むせ返るような煙の匂いによってだった。
重い瞼を開ける。
視界の先で、豪壮な木造の建物が業火に包まれて崩れ落ちていくところだった。
鮮やかな絵が描かれた帳や、竹を編んだ簾が、火の粉を上げて燃え落ちていく。
一面の炎の海。
その容赦ない炎の奥に、一人の人影が力なく倒れているのが見えた。
肌を刺すような熱気の中にいるというのに、揺らめく炎越しに見えたその輪郭に、全身の血の気がサッと引いていく。
まさか。頼むから、違ってくれ。
信じたくない一心で、言うことをきかない体を引きずって近づいた。
しかし――。
見慣れた白く光沢のある着物は真っ赤に染まっており、傍らには、生々しい血に濡れた短い刃が転がっていた。
震える手で頬に触れると、驚くほど冷たい。
すがりつくように口元へ指をかざすが、かすかな息遣いすら感じられなかった。
そして。
見開かれたままのその瞳は、もう何も映していなかった。
『――――!』
守りたかった。
どうしても、守り抜きたかったのに。
胸を激しくえぐるような喪失感と、取り返しのつかない重い後悔だけが、どろりとした鉛のように腹の底に溜まっていく。
守るべき人が死んだのに、なぜ自分は生きているのか。
深い絶望感に苛まれて、その場から動くことができなかった。
【次話はこちら】1話 幼馴染の噂1-火のない所に煙は立たぬ-
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