伏見桃山城キャッスルランドと『ひよしまる』
絵本ではない本を初めて買ってもらったのは、小学校へ上がるか上がらないかの頃だったと思う。
自分のための本を選ぶのは初めてだった。
本屋で「好きな本を選んでいい」と言われ、棚の前でずいぶん迷った。
そして、ようやく手に取ったのが『ひよしまる』という本だった。
百姓の子として生まれた“ひよしまる”が、努力を重ねて、やがて豊臣秀吉となって天下人になる。
そして年老いた母親を城へ迎える 、そんな物語だった。
選び終えて母に渡すと、「これでいいの?」と、意外そうな顔で念を押された。
6歳の女の子にしては、ちょっと渋い選択だったな、と思う。
なぜその本を選んだのか…今となってはよく思い出せない。
私が育った町には、伏見桃山城キャッスルランドという遊園地があった。
秀吉が晩年を過ごした伏見城を模して、大天守と小天守の模擬城、伏見桃山城が造られた。
模擬城といっても、立派なお城だ。
その隣の広い敷地には、ジェットコースターやメリーゴーランドなどの遊具が並んでいた。
夏はプールがあり、冬はスケート場となった。
よく連れて行かれたので、行き先を聞いて「また桃山城かぁ」と思ったりしたくらいだ。
それでも、行けば遊園地もプールもスケートも、みんな楽しかった。
そして、天守閣には必ず登った。
本物の城ではないことは知っていたし、お城そのものに興味があったわけでもない。
ただ、高いところから見渡す景色が好きだった。
『ひよしまる』は何度も繰り返し読んだ。
信長の草履を懐で温める場面や、年老いた母親を城に迎える場面の挿絵は、今でも不思議なくらいによく覚えている。
もしかすると、私がその本を選んだ理由は、伏見桃山城だったのかもしれない。
遊園地として何度も訪れたあの桃山城が、秀吉ゆかりの城だということを知っていて『ひよしまる』を選んだ、とも思える。
本当のところは分からないけれど。
作品は読み物として、創作された部分もかなりあるだろう。
けれど大河ドラマに秀吉が登場すると、私の頭に浮かぶのは、伏見桃山城の天守閣と、『ひよしまる』に描かれた母親思いの秀吉なのだ。
