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宙組公演『黒蜥蜴』『Diamond IMPULSE』

東京宝塚劇場公演『黒蜥蜴』『Diamond IMPULSE』を観劇した。

「宝塚で『黒蜥蜴』を上演する」と聞いた時、最初に頭に浮かんだのは故・美輪明宏さんだった。観劇したことも原作を読んだこともないが、美輪さんのグラマラスで妖艶な雰囲気と、きらびやかで「清く 正しく 美しく」をモットーとする宝塚の世界は対極にあるように感じられ、相当のデフォルメを施した、宝塚ナイズドされた公演になるのだろうと予想していた。

しかし違った。上演されたのは、間違いなく「かつて美輪明宏さんも演じたことが納得の、大怪盗・黒蜥蜴」であり、戯曲化に携わった三島由紀夫氏が描いたであろう、耽美で猥雑な戦後の空気をしっかりと宝塚の劇場に再現していた。

特筆すべきは、女傑・黒蜥蜴を演じる春乃さくらさんだ。私の知ってたさーちゃんじゃない、びっくりが止まらなかった。

怪しく退廃的で、どこか人間離れした大怪盗・黒蜥蜴を、宝塚の娘役、しかもトップ娘役がどう演じるのかには観劇前から非常に興味があった。

宝塚とは、どうしたって男役にスポットが当たりがちな世界だ。娘役は日常を生きる女性よりもさらに可憐に、華奢に振る舞うことで、女性が男性を演じる男役トップスターを引き立てる。その美男美女のシルエットに誰もがうっとりし、劇場に足繁く通う。娘役が可憐にすることで男役が美しく見えるという話はかつての大トップスター天海祐希さんもTVでおっしゃっていたので、そういったシステムであるという認識だった。

しかし、黒蜥蜴は違う。これまで『Razzle Dazzle』や『PRINCE OF LEGEND』で見せていたキュートでチャーミングな振る舞いとはまったく異なる、低く深い声とゆったりとした話し方。相手を見つめるだけで籠絡してしまいそうな妖艶な眼差し。
黒蜥蜴が人々を魅了しながらも、「私の中に入ってこないで」と歌う姿は、すみれコードぎりぎりなのではないかと思うほど怪しく、そして哀しい。

簡単に姿を変え、まるでトカゲのようにシュルシュルとあらゆる場所を行き来する彼女。人を操り、宝石を盗み、欲しいものはすべて手に入れる。

終盤では、美しいものへの偏執から、生きた人間を美しいまま剥製にして自分専用の博物館を作り、その剥製に接吻するという、かなり際どい姿まで描かれる。ここの際どさがあまりにも強いので、結末にも納得がいった。

しかし、彼女自身がが本当に恐れているのは、何かを奪われることではなく、自分の本質に入り込まれることなのだと思う。

作品の中で特に好きだった点は、黒蜥蜴の背景が最後まで描かれなかったことだ。戦後の混沌とした社会の中で、黒蜥蜴が生まれるまでには、それ相応の激しい背景があるに違いない。貧しさや、昭和の美女ならではの危険や理不尽にさらされる光景もあり、そこから這い上がった姿が黒蜥蜴なのだろうと推察できる。しかし、そこを描かないことで、彼女の「私の中に入ってこないで」という宣言は、観客に対しても実現される。

蜥蜴のように俊敏で掴みどころがなく、最後まで彼女の内側には触れられない。それが黒蜥蜴という人物の美しさでもあり、哀しさでもあった。

そんな彼女の本質に入り込んできたのが、桜木みなとさん演じる主人公・明智小五郎である。彼のパーソナリティーもまた、作中で描かれる量は少ない。やたらと粋で、少し鼻につく言い回しを使い、警察や、時には依頼人までも煙に巻きながら、最後はしっかりと事件を解決する。

犯罪の匂いを嗅ぎつける独自のセンスと、探偵という仕事への矜持を持ちながらも、必ずしも正義の男というわけではないような振る舞い。まるで罪を愛するがゆえに、犯罪者を捕らえることをやめられないかのような明智の言動に、黒蜥蜴は魅せられていく。そして彼女は徐々に、バランスを崩していく。その揺らぐ表情や振る舞いもまた美しかった。

それにしたって、黒蜥蜴はそんなに明智を好きなら、変装姿も見破っておやりよ!とは思う。二度も変装姿に気づかず、自らを危機にさらし、時に本音まで漏らしているのだから、どこか荒唐無稽である。ここもまた、戯曲らしくて私には好きなツッコミどころだった。

また、物語の終盤、期せずして明智の身代わりとなり、海に投げ込まれて命を落とす松吉は哀れだった。そんな松吉の死に対して、現代の作品であれば命を失ってはいけない、と危機を防ごうと尽力するであろう明智だが、本作では特に動揺する様子もなく、「事件解決のためなら仕方なかった、可哀想でしたね」とでもいうように流してしまうところが、196X年という時代設定に合っていて、私としてはここも好きだった。

また、黒蜥蜴の横にぴたりと付き、彼女に心酔する水美舞斗さん演じる雨宮の危うさも魅力的だった。
雨宮は黒蜥蜴を一途に愛している。しかし、愛するようになったきっかけは、無一文で、ただひたすら死を願い、そうかといって自死する度胸もなかった青年・雨宮の前に現れた黒蜥蜴が、口づけをし、クロロホルムを嗅がせたことだった。詳細は語られていないが、おそらく誘拐の上、奴隷のように付き従わせたという経緯であり、だいぶ歪んでいる。

クロロホルムの香りが忘れられないと銀橋で雨宮が歌うナンバーも、「こんなものを宝塚で見ていいのか」と戸惑いながら、実にワクワクした。

宝塚らしくない危うさだったといえど、ヨーロッパやアメリカなど、海外を舞台にした作品では、不貞から拳銃、刀、毒まで、物騒なものはしょっちゅう宝塚の舞台上に登場する。今作だけが特別に過激というわけではない。それでも、昭和の東京を舞台にしている肌触りの近さが、見る側を余計にスリリングな感覚へいざなったのだと思う。

雨宮は黒蜥蜴を愛するがゆえに、彼女の愛が明智へ向かうことを、ほかの手下以上に恐れている。もとより歪んでいた愛が、さらなる執着へと変貌していく。黒蜥蜴の心を、憎しみや嫉妬であってもよいから、一筋だけでも自分に向けさせたい。その思いから、彼女を裏切る。そして終幕では、別の女性と結ばれたかのように描かれる。
しかし、ともに歩く女性とのことを周囲に話す「僕たち、愛し合ってるんです」という言葉はあまりにも力なく、空虚で、とても真実には見えなかった。一方であの虚しい台詞をもう一度聞きたいと楽しみに待っている自分がいる。まるで現実から切り離されてしまったかのような哀しい男を、水美さんが見事に表現していた。踊りもお美しくて惚れ惚れした。

どことなくレビュー『Diamond IMPULSE』との繋がりを感じられるところも宝塚らしくて楽しかった。
序盤の宝石パーティー会場で、黒蜥蜴が全身に宝飾をまとって登場する姿は、まるでプリンセス天功のようだった。二幕の『Diamond IMPULSE』では、ミュージカル『ムーラン・ルージュ!』でヒロインが全身にダイヤモンドをまといながら歌っていた楽曲も使われていた。今回の怪演とも言える大芝居を見て、春乃さくらさんはサティーンだってできるのでは!?と思った。宝塚で上演するには版権も設定も難しそうでだけど、レビューでオマージュしたシーンをやるだけでもいいので見てみたい。欲を言えばElephant Love Medleyがみたい。

私個人としては、演劇は暗い作品より明るい作品が好きだ。明るい作品の中にある悲哀や葛藤を見出すことが好きで、どことなくハッピーミュージカルが浅いものとして否定される風潮があることに寂しさも感じている。
だからといって、必ずしも暗い作品が嫌いなわけではない。
癖の強いロマンと愛にあふれる本作は、ここ数年の宙組作品の中で最も好きだった。繰り返し観られる予定があることが、今からとても楽しみである。

まぁ、東京タワーと薔薇の花、そしてダイヤモンドが出てくる作品を、好みとして嫌いなはずはないのだが。

危うく退廃的な東京を舞台にした本作は、冒頭と終幕がほぼ同じ群舞で構成されている。明智は危険な美女・黒蜥蜴と束の間惹かれ合うロマンスを体感しながら、また猥雑な日常へと戻っていく。その余韻まで含めて美しい作品だった。

2回目の感想はこちら。
https://note.com/aoioa88/n/n1d4c3106e405


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