映画感想|哀れなるものたち
月が変わってWOWOWで「哀れなるものたち」の告知が流れた時には小躍りした。劇場では観られなかったが、ずっと気になっていた映画だ。
さっそくお気に入り登録しようとしたが配信は月末だという。楽しみはお預けとなった。
そして昨夜、ついに観た。
2時間21分。没頭したあとはため息が漏れる。
好みだった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
映画を観終わった直後、私は自分自身に感想を問う。新鮮な第一印象を素直に言葉にするのが毎度楽しみである。
この映画に関してはこれだ。
「青色が美しい……!」
強烈な印象を残すファーストシーンからして青い。というか、この青を引きずりながら全編を観る。
青いドレス、青い橋、青い海。
青い瞳の女性は、切ない表情を浮かべて橋の欄干に立ち、海を見下ろして、そして。
───DIVE TO BLUE。
衝撃的な始まりだ。
その時の鮮烈な青が網膜に張り付いてしまう。少なくとも、普段から日常の中に青を探している私はそうだった。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
AIに「哀れなるものたち」の概要を聞くとこう答えてくれる。
天才外科医に蘇らされたベラが、成人女性の体で新生児のような心と体で世界を旅し、自由と平等を知り成長していく物語です。
実際、この説明どおりの映画である。
とても真っ直ぐな「成長物語」だった。
身投げし命を落とした女性が、天才外科医ゴッドによって「ベラ」として生まれ変わる。
とある理由から、彼女はそれはそれは無垢な状態で復活し、〝赤ちゃん〟のような驚異的スピードで様々知識を得ていく。

そうなるとゴッドの屋敷に匿われているだけでは物足りなくなり、ベラは自分の感性が求めるままに外の世界に出て行くことを選択する。
冒険が始まるのである。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
この映画では、一見「愛」など求めるように見えない登場人物たちが熱烈に愛を求める。たとえばマッドサイエンティストであるゴッド、放蕩者の弁護士ダンカン、常に銃を携帯する将軍アルフィー。
それぞれが自分勝手にベラを求める。そこに滑稽さを感じ、人間らしさを見る。その中でベラは唯一、冷静さを貫いている人物に見えた。
通常の人間と成長速度が違うから、彼女が新しい一歩を踏み出すときには混乱や激情が伴うのだけれど、反面、冷ややかとも言える視点がある。それは、ベラが貪欲に学ぼうとしているからではないだろうか。
何かを初めて体験する時には感情が一時的に昂るものの、「学ぶ」姿勢に入った時、人は案外冷静である。
そして私自身もこの映画を冷静に観ていた。その理由の一つに、演出が関係している気がする。この映画は、物語が進むにつれて、「リスボン」「船旅」といった、次に舞台となる場所や、その章のテーマを示すようなテロップが画面に挿入される。
たまに映画で見かける演出であり、私はこれが好きだ。挿絵のように時々テロップが入ることで、映画特有の没入感から一歩距離をおけてほっとする。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
この映画は、「自由とはなにか」というテーマの一部として「性」についても大きく扱っている。
内容を知らずに観た私は少々驚いたけれど、性に関してもとても冷静な描写であってわかりやすい。
たとえば、ベラが「自分を幸せにする方法がわかった」と言って自慰行為に目覚めるシーンがある。その時の、新しい世界を発見した晴れやかな表情は「おめでとう」と言いたくなるような幸福感に満ちている。
「性」に関するポジティブな面が最初に描かれたことは良かった。
その後、旅の途中で無一文になったベラはパリで娼婦になる。
生きるため、お金を得る目的で体を売るベラは、娼館の女性からこんな言葉で諭される。
大事なのはすべて経験すること。
いい面だけではなく 堕落 恐怖 悲しみも。
それでこそ優れた人格の思慮深い大人になれる。
浮ついた子どもから脱して ついに世界を知る。
ベラの冒険はこの言葉どおりに進んでいく。幸せの隣に不幸があること、世界から取り去ることの出来ない不平等さがあることに気づき、向き合っていく。
知ろうとしなければ知ることができないことの多くは悲しいことだったりする。そういったことに目を向ける。

学び、成長したベラはゴッドの家に戻る。
運命に抗い、世界を見て、生きていく場所を自ら選んだ。
かつては動物の命を奪うことに鈍感だったベラが、冒険を経たあとには、トラブルのあった相手の命を奪わず、生かす方法を考え、ともに暮らすようになる。
かなり特殊ではあるけれど、多様な愛のカタチを見せつけるラストは面白い。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
ベラが世の中を知っていく中で見せる彼女の表情を追うのは楽しい。これがこの映画の最大の魅力だと思う。
ラ・ラ・ランドでハマれなかったベラ役のエマ・ストーンに今回は魅了された。こんなに沢山の表情を見せてくれて、尚且つ自然で、それでいて程よく誇張されているからシーンが盛り上がる。エマ、最高。
特に好きなのはエッグタルトを頬張るシーンとダンスシーン。圧巻である。

だいぶ笑えたけど、感動した。
そしてこの映画、なんと言っても衣装やセットが豪華でたまらない。
数々のコスチュームはベラの純粋さを引き出しつつおしゃれで、シーンが変わるごとに魅せられた。

〝知ること〟にわくわくする映画だった。
最期にゴッドが、
「実に興味深いよ。死というものは」という言葉を遺すところもいい。どこまでも探究心を忘れない彼の人間性が尊い。そして、彼の傍らでその言葉を真剣に聞いているベラの表情が良かった。
「哀れなるものたち」を観て一日経った。
真っ直ぐな成長物語だと感じたと先に書いたが、わかりやすくそう感じさせられたことに徐々に違和感を感じ始めた。
これだけビジュアルが凝った作りで、設定も普通ではないのに、メッセージがまっすぐっておかしくないだろうか。寓話的な表現をアートに昇華したという単純な説明で補えることなのか。
そこでもう少し考えてみると、ベラの「成長」は「ベラとして成熟した」という意味であって、社会的な道徳を身につけたわけではなく、なにかに迎合したわけでもなく、独自の道を行きながら「個」を獲得しつつあることだと気づく。そういう意味で、一般的な成長物語ではないのだった。
まとまりの悪い感想文になった。
もう一度観よう。
まだまだ新たな発見がありそうな映画である。
