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5500人の文章から見つけた、面白い文章を書く人が自然にやっている2つのこと

ボーッとテレビを見ていると、MCが問いかけていた。
「あなたは、人生の中で、何回引っ越しをしましたか?」

自分の引っ越し経験をふり返っているうちに、ふと思った。
文章を書くのは、引っ越し作業に似ている、と。

それまで心の奥にしまっていた感情や記憶を、少しずつ整理して運び出し、新しい"言葉の部屋"に並べていく――。
書くことは、過去と未来のあいだに、"今の自分のための居場所"をつくる試みなのかもしれない。

そう考えると、記者、コピーライター、文章講師として、これまで5500人の記事や文章と出会ってきた私は、5500通りの引っ越し作業を見てきたことになる。

都会の小さなワンルームから、海の見える地域の戸建て住宅へ。
瓦屋根の日本家屋から、東京郊外のタワマンへ。
引っ越しのスタイルは、人それぞれだ。

10回以上の引っ越しが教えてくれたこと

私自身、人生で何度も引っ越しをしてきた。

幼少期は、父の転勤で福岡から東京へ。幼稚園の年長でまた福岡に戻り、その後も転居を重ねた。
18歳で初めて一人暮らしをしたワンルーム、弟とシェアしたマンション、大家さんがときどき野菜をくれたアットホームな借家――数えてみたら、10回以上の引っ越しを経験している。

新しい住まいを探すとき、私が気にしていたのは、いつもこんなことだった。

「どうせなら、きれいで快適な部屋がいいな」
「新しい環境で、うまくやっていけるかな…」
「どんなレイアウトにして、どんな家具を並べよう?」

そんなふうにふり返って、気づいてしまった。
これって、文章を書くことに悩んでいる人たちの気にしていることと、ほぼ同じじゃない?

文章を書き慣れていない方が抱える悩みの多くは、こんな感じだ。

「洗練された、きれいな文章を書きたいけど、どうすればいい?」
「私の文章なんて、人にうまく伝わるんだろうか…」
「どんな表現や構成を使えば、きちんとした感じになるんだろう?」

これらの悩み、私も新人記者時代にいつも感じていたから、わかりすぎる。編集長やデスクに「はい、書き直し」と何度も原稿を突き返された記憶がよみがえる……。

でもね、今はよくわかる。
引っ越しも、文章の執筆も、じつは多くの人が、いちばん大事なことを見落としているのです。

大切にしてほしい、自分への大切な問いかけ

それは……
見栄えの良い家具(気の利いた表現)や、きれいな部屋(洗練された文章)を追い求める前に、大切にしてほしい、自分への問いかけ。

「新しい住まい(文章)の"主役"である私は、本当は何が好きで、何に心を揺さぶられて、どんな価値観を大切にしているんだろう?」

そう。引っ越しの主役が「家具や荷物」ではなく「住む人」であるように、文章の主役も「言葉やテクニック」ではなく、それを書いている「あなた自身」だ。これを忘れている人が本当に多い。

私が開催する文章講座でも、「どうすれば、面白い文章が書けるようになるのでしょう? 私には、語彙力もテクニックも足りなくて……」という相談をよく受ける。

そんなとき、私はいつもこう答えている。

面白い文章が書ける人は、『自分のことをよく知っている人』
もっと言うなら、『自分がどう感じ、どんなものさしをもっているのか、ちゃんと知っている人』です」

同じ夕焼けを見ても、ある人は「カシスオレンジをこぼしたみたい」と語り、別の人は「明日も晴れるかな」とつぶやく。
同じ雨の日でも、ある人は「雨音がジャズっぽい」と表現し、別の人は「洗濯物が乾かない」とため息をつく。

この違いこそが、その人だけの「ものさし」
生まれや育ち、価値観、経験が違うからこそ生まれる、自分だけのものの見方なのだ。

「でも、自分のものさしなんて、どうやって見つければいいの?」

そう思ったあなたへ、
じつは、誰でも「自分のものさし」が明確になる、2つの方法をお伝えします。

自分のものさしを見つける方法 その1
~自分のことを、たっぷり面白がる

私たちは「五感」というセンサーを通して、生まれた瞬間から今もずっと、世界のさまざまな情報を受け取っている。

あるとき、文章教室で「夏休みについて書いてみましょう」とお題を出すと、最初はこんな言葉が並んでいた。

「プールが好きだった」
「花火を思い出す」
「スイカが食べたくなる」

悪くはない。でも、何か物足りない。
そこで、「五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)で夏休みをイメージしてください」と伝えると、教室の空気が変わった。

「ジィーーージリジリジリ……。セミの鳴き声で目が覚める朝」
「祖母の家の蚊取り線香の香りと、素足に触れる畳のやわらかさ」
「プールの塩素がツンと鼻につく。日焼けした肌がヒリヒリする」
「ジュワッと口に広がるスイカのやさしい甘み。縁側を吹き抜ける風が頬をなでる」

……ここには書ききれないほど、みるみる言葉があふれ出す。

同じ「夏休み」なのに、表現する言葉はこんなに異なる。視覚イメージから描写する人、音の記憶が鮮明な人、匂いで過去がよみがえる人。
それぞれの感覚で切り取られた夏休みは、昨日のことのように鮮やかだ。

お互いの文章を読み合いながら、「懐かしい!」 「その感覚、わかる~」と受講生さんたちの声が重なる。子ども時代を思い出して、目を潤ませる人もいる。

五感で世界を感じ、自分が何に心を揺さぶられるのかを知る。
それが、あなたの「ものさし」を浮き彫りにする第一歩だ。

自分のものさしを見つける方法その2
~他者のことも、自分と同じくらい面白がる

先日、某雑誌の取材のため、自然人類学者の長谷川眞理子さんにインタビューを行う機会を得た。 そのときの長谷川さんの言葉が、今も心に残っている。

「自分とは異なる価値観の人と出会ったとき、
この人とはわかりあえないと否定せず、なぜこの人はこう考えるんだろうと、その人の背景を想像する」

自分との違いを理解し、むしろ面白がることで、対話が豊かになる。
「対話がない場では、自分の信念も生まれない」
長谷川さんはそう語った。

これは、文章にも通じる。
自分と異なる他者の視点に興味を持ち、面白がる。
すると、自分では気づかなかった世界が見えてくる。

たとえば、いつもの商店街の八百屋さん。

あなたはいつも5分で買い物を済ませる。
夕食のメニューはあらかじめ決めているので、余計なものには目もくれず、必要なものだけをサッと手に取り、会計を済ませる。
効率的で無駄がない。

一方、よくこの店で見かけるAさんは、あなたとはまったく異なっている。
Aさんは八百屋にやってくると、まず店先に並ぶ野菜をゆっくり眺める。
そして、ニコニコと笑いながら店主に話しかける。
「毎日暑いわねぇ。このナス、つやつやで美味しそう。どんな料理がいいかしら?」

店主との会話を楽しみながら、トマトやピーマン、ズッキーニなどを手に取り、カゴに入れていく。ときどき。ほかのお客さんのカゴも覗きながら、「それ、どうやって食べるの?」と話しかける。

夕食のメニューは決めていないので、その場の会話や野菜のラインナップ、空気感などのインスピレーションで献立のプランを考える。
そうやって、たっぷり30分も回遊したあと、Aさんは「ありがとう」と笑顔で店をあとにした。

あなたは、自分とは真逆の買い物スタイルをもつAさんを見て、
最初は「なんて非効率な…」と思っていた。
でも、何度も目にするうちに、気づいた。

Aさんにとって買い物は
「日常の作業」ではなく「人とつながる時間」なのだ、と。

これは、Aさんに興味を持たなかったら、気づかなかった発見だ。
「なぜこの人はこう感じるのか」
「どんな背景があってこの言葉や行動を選ぶのか」

他者との違いが鮮明になればなるほど、自分の「ものさし」がくっきりと見えてくる。

あなたの引っ越し先は、どこですか?

自分の「ものさし」が見えていないのに面白い文章を書こうとするのは、
自分がどんな暮らしをしたいかわからないまま、新居の家具を買い揃えるようなもの。
いくら素敵な家具を並べても、自分にとって心地よい部屋にはなるとは限らない。

・五感をフィルターにして、自分のことを知り、面白がる。
・他者の気持ちや背景に興味をもち、自分との違いを面白がる。

面白い文章を書く人は、この2つを自然に実践している。
そしてこの2つは、誰でも意識すれば、今日から始められることでもある。

あなたは今、どんな住まいを探しているのだろう。
そこには、どんな街が広がり、どんな音が聴こえ、どんな人たちが暮らしているのか。

文章を書くことは、新しい自分の部屋をつくること。
その部屋の窓から見える景色は、あなただけのものだ。

さあ、引っ越しの準備を始めよう。


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