《魔女のハーブは、あんまり甘くない》 セーラと星の黒猫 Episode1ー2
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<2>
きらめく星空のした。
わたしとアリスは 、ハミングしながら夜道を歩いていた。
アリスは、黒猫を腕にだいて、ずっと、にこにこだった。
「おねーちゃん、この子、すっごいカワイイよ」
アリスが、黒猫をだきながら、ほほえむ。
わたしは、うなずいて、アリスに笑みをかえす。
「でも、この子のことは、まだ、だれにもいっちゃ、だめだよ」
わたしがいうと、アリスは「もちろん」といって黒猫にキスをした。
家の庭のまえにくると、明かりは、消えたままだった。
「あ、まだ、クリスは、帰ってないみたいね」
わたしはそういったあと、はっとして、うえを見ると、庭のにれの木のえだに、ふくろうがとまっていた。
「え、ふくろう⋯⋯?」
まっ白なからだをした、小さなふくろう。
赤い目を、じっと、わたしたちにむけていた。
「⋯⋯?」
星が、きらりと光った。
すると、ふくろうは、翼をひろげ、星空に飛び立っていった。
「⋯え?」
わたしは、しばらく、星空をながめていた。
「おねーちゃん、なにしてるの。ぽかんとして?」
アリスが、ふしぎな顔で、きいてくる。
「う、ううん、なんでもないよ。はいろ」
わたしとアリスは、家にはいると、ソファの上に黒猫をそっとおいた。
「ああ、そうだ。ミルクを、飲ませようよ」
わたしは、ひとさし指を暖炉にむけた。
ぼっ、と小さな音をたてて、暖炉の薪に火がともる。
パチパチと、薪がもえる心地よい音が、部屋にひびいた。
「おお、さすが。もう、その魔法は使えるんだね」
アリスがいうと、わたしは笑って、ミルクの瓶がはいった小さい鍋を、火のなかにいれた。
「そりゃあ、魔女になるんなら、これくらいは当然よ」
ミルクの瓶が、あったまりはじめた。
「ね、この子は、星からの贈り物だよ」
アリスが、黒猫のからだを、そっとなでながら、幸せそうにつぶやく。
「あ、もう、あったまったみたいね」
わたしがいうと、アリスはミルクの瓶をとって、黒猫の口に、さきをつけた。
黒猫が、こくこくと、愛らしい動きでミルクを飲む。
「ふふ、そうとう、お腹すいてたんだね」
わたしがいいおわると、瓶のなかのミルクが、ほぼなくなっていた。
「でも、お父さんたちには、ゼッタイないしょね。黒猫は、ダメっていってたから」
わたしがいうと、瓶のなかのミルクがなくなった。
「うん、わかってるよ。でも、そんな迷信なんて⋯」
黒猫が、アリスの手のなかで、眠りはじめた。
「こんなカワイイ子がダメなんて、なに考えてるんだろうね、ほんとに」
アリスは、黒猫の顔を見ながら、つぶやく。
「でも、お父さん、いまスラムエリアに行ってるんでしょ?」
「うん。ほら、いま世界のはてのほうから、黒い大地がひろがってるからって」
わたしは、いいながら、空になった瓶をうけとる。
「スラムエリアが、いま、危ないんだよね? だから、クリスは、お医者さんになって、困ってる人を助けたいっていってた」
アリスが黒猫に、もう一度、キスする。
「人を助ける、か。そういえば、この本にも書いてあるね」
わたしは、魔女のきまりを、ペラペラとめくった。
<すべての魔法は、人を助けるためにある>
と最初と最後のページに明記されていた。
「ただいまー」
クリスが、かえってきた。
わたしは、玄関に顔をだし、愛しい弟をみた。
「ああ、クリス、おかえりなさい」
わたしがいうと、クリスは、にこりとわらい、医学の本が入ったバックを床におく。
「つかれたでしょ。いま、ハーブティーをいれるから座ってて」
「おお、姉さん、ありがとう。じゃ、そうさせてもらうね」
クリスは、ソファのアリスのよこに、すわる。
「こんな時間まで、おつかれさま」とアリス。
アリスとならぶと、髪型いがい、ほんとにそっくりだ。
女の子みたいな、きれいな顔立ちと、長い足。
もちろん、女子からは、とても、もてる。
ブラコンの私は、むしょうに抱きしめたくなるときがあるが、クリスは、それを恥ずかしがる年ごろみたいで、最近は、なかなかスキをみせない。
ーこれが、思春期というものか。
「あれ、どうしたの、その黒猫?」
クリスが、アリスの手のなかの黒猫を見て、おどろきの表情になる。
「今日から、あたらしい家族になったから」
アリスは、にこりと、こたえる。
「え、ええ? で、でも、父さんと母さんは?」
クリスが、アリスの顔を見る。
「だいじょうぶよ。あたしが、なんとかしてみせるから」
アリスが、平然とこたえる。
「そ、そうなのかい⋯?」
わたしは、クリスのまえに、ハーブティーをおく。
「だって、この子は、星の子だから」
クリスが、不思議な顔をしていると、コンコン、とドアをたたく音がした。
ーだれだろう。
もう、夜なのに。
わたしは、ドアをあけると、小柄なスーツ姿の女性が立っていた。
メガネをかけているが、顔立ちは、すごい美人だ。
「ブライトさまの、ご家族のかたでしょうか?」
女性が、ととのった声をだす。
お父さんの名前だ。
「はい、そうですが。なんでしょうか?」
わたしは、女性を玄関のなかに、まねきいれた。
「私は、街の広報担当の者ですが、これを、ご覧ください」
女性が、ちらしを、わたしのまえにひろげた。
「え⋯?」
わたしは、声をあげそうになった。
<黒猫を、街に、いれないようにしましょう>
と大きなタイトルがデザインされた、ちらしだった。
「こ、これって?」
わたしは、どきっ、とした。
わたしが目で合図すると、アリスが、いそいで、黒猫を奥の部屋にだいていく。
「あわわ⋯」
クリスが、あたふたする。
「近年、おかしな病気が、ひろがっているのは、ご存じでしょう?」
女性が、まよいのない声をだす。
「はい。まさか、それが⋯」
わたしは、ちらしを見る。
「ええ、黒猫が、原因かもしれません」
女性が、大きな声をだす。
わたしは、目をひらく。
「そんなの、ただの迷信じゃ⋯」
「いいえ、気をつけるべきです」
女性は、わたしの声をさえぎるようにいう。
わたしは、言葉が、つづかなかった。
「わたしも、ネピアという娘がいますが、自分の家族の安全は、いつも気にかけていますの」
女性のメガネのふちが、きらりと光る。
「⋯そ、そうですか。わかりました。わたしたちも、気をつけます」
わたしは、ちらしをうけとった。
「それなら、だいじょうぶですね。ただ⋯」
女性の言葉に、わたしは、どきりとして顔をあげた。
「さきほど、ご家族のかたが、なにかを抱いていたように見えたのですが、あれは、まさか⋯」
女性が、じっと、わたしを見る。
「い、いえいえ。妹は、よく、ぬいぐるみを抱いてるんです、はは⋯」
わたしは、人生で、最高の笑顔をつくった。
「そうですか。まあ、そういう年ごろですものね。わかりました」
女性が、背をむけて、立ちさろうとする。
ーわたしは、ほっ、と心の汗をふいた。
だが、女性は、ぴたっととまると、ふりかえる。
ーえ?
わたしは、いそいで、笑顔をつくりなおした。
「あと、これは?」
女性が、床をみる。
「?」
「なにか床に、黒い毛が、落ちているみたいなのですが⋯」
小さな黒い毛が、床に、ちらばっていた。
「え⋯⋯?」
女性が、毛をひろって、まじまじと見る。
「あ、はい。これは、妹と編み物をしていたので、それが、ちらかったんです。あたしたち、不器用だから⋯⋯」
わたしがいうと、女性は、わたしと目をあわせる。
ーいけない、ここで、目をそらしては。
と、わたしは、自分にいいきかせた。
「そうですか。わかりました。では、失礼します」
女性は、笑みをうかべると、玄関をでて街のほうへと歩いていった。
わたしは、はあっと、大きく息をはいた。
「よかった、ひとまず、セーフかな⋯⋯」
わたしは、そのばに、ぺたっとすわった。
「おねーちゃん、ナイスだったよ」
アリスとクリスが、奥から顔をだす。
「うー、心臓にわるい⋯⋯」
わたしは、胸に手をあてていった。
「いま、いってたけど、まさか、その子が?」
クリスが、黒猫を見る。
「ば、ばかなこといわないで。こんなの、たまたまよ」
アリスが、ぎゅっと黒猫をだきしめる。
すると、かべにかけたホウキが、小さくうごいた。
「あれ、ホウキが⋯?」
黒猫が、「ミャ」と小さくないた。
「⋯?」
「ねえ、おねーちゃん、この子なんだけど」
アリスが、わたしを見る。
「え?」
「この子の名前、ココっていうのは、どう?」
アリスが、嬉しそうにいう。
「あれ、その名前って、たしか⋯」
わたしは、黒猫を見る。
「うん、まえに、うちのにれの木にのぼってた、あの子猫」
しばらくして、わたしは、ああと、思い出す。
「とつぜん、いなくなったよね。うん、その名前にしよ」
クリスも、楽しそうに、うなずく。
ココが、うれしそうに、うごきだした。
ーあれ、そういえば、からだが、大きくなった ような⋯?
わたしは、時計を見た。
「あ、もう、こんな時間。2人とも、はやく寝なさい。明日も早いんでしょ?」
「うん、そうだね。おやすみ、ココ」
アリスが、ココの顔にキスをすると、ココを、わたしにあずける。
「姉さん、おやすみ」
クリスが、手をふって、自分の寝室にいく。
ーそうだ。
お父さんたちがいない間は、わたしが、こ の子たちの面倒をみなくては⋯。
「あ、星が、きらめいている」
わたしは、窓のそとの星空に、ほほえむ。
すると、ココが「ニャ」と、小さくないてくる。
「え⋯?」
わたしが見ると、ココは、じっとわたしを見つめていた。
ーこれって、つまり⋯。
「まさか⋯、空へ?」
わたしが、ホウキを手にして外にでると、ココは、ホウキのさきに、ちょこんとのる。
「⋯こう?」
わたしは、ホウキにまたがると、ホウキが、ふわっと、空にういた。
「え、ええ?」
わたしは、おどろいて、ココを見た。
ココは、「ミャオ」と楽しそうになく。
「ココ、あなたって、やっぱり⋯」
わたしは、そうつぶやくと、ホウキは高くうきあがりはじめた。
「これが、魔女のきまりの最初に書いてあった⋯」
やがて、ホウキが2階のまどの高さまでくると、アリスとクリスが見えた。
2人とも、すやすやと眠っていた。
「ちょっと、お父さんのとこに、行ってくるね」
わたしは、2人に、つぶやいた。
「ようし、じゃ、ココ、行くよ」
ココが「ニャ」となく。
ゆっくりと、わたしとココをのせたホウキは、星空のなかを飛びはじめた。
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<Vol.3に、つづく>
