《魔女のハーブは、あんまり甘くない》 アリスと星の翼 Vol.1
<1>
「え、アリス。もう、おきたの?」
リビングのクリスが、おどろく。
テーブルにおかれたコーヒーの香りが、気持ちのよい朝をおしえてくれる。
「そりゃあね。あたしだって、たまには、早起きするわよ」
わたしは、かべの時計を見ていう。
まだ、朝の5時。
「それより、クリスは、飛び級のクラスだから、今日休みでしょ。なんでこんなに、はやいの?」
クリスが、キッチンから、トーストをはこんできた。
「ぼくは、レポートを、まとめなきゃいけないのさ。それに、朝のほうが、頭のきれもいいし」
クリスは、コーヒーを飲み、トーストをつまむ。
かんぜんに、大人の雰囲気をまとっている。
あれ、いま、何歳だっけ・・・・。
「あ、あたしも食べたいな。カンタンでいいから」
わたしがいうと、クリスは、「うん」と一言。
わたしは、バスルームにいくと、髪をあらい、ブラシをいれる。
「お、すこし、背がのびたかな?」
わたしは、鏡の自分を見てつぶやくと、リップにのばした手をぴたりと、とめた。
おっと、メイクはまだ、学校でダメなんだよね。
でも、この髪形、けっこうメロいかも・・・。
わたしは、鏡にわらうと、バスルームをでた。
「さ、おいしいコーヒーを・・・・、え?」
わたしは、リビングにもどると、目を丸くした。
テーブルには、スクランブルエッグ、パンケーキ、サラダ、スープ、グレープフルーツジュース、さいごにデザートのプリンとデーツがならんでいた。
「これって、かんたんなの?」
わたしが、おどろいて、クリスを見る。
「朝は、しっかり栄養を、とらないとね」
クリスは、余裕に、ほほえむ。
そうだ、栄養士の資格も、もってるんだっけ。
「バランスの取れた朝食は、若いからだに、とってもいいのさ。むろん、美容にも・・・・」
クリスが、前髪をさわりながら話しはじめると、長い。
「わ、わかったわ。いただきます」
わたしは、ささっと、フォークで、スクランブルエッグを口にはこんだ。
「ん?」
ーすっごい、おいしい。
でも、ちょっと、おおいかな・・・・。
「じゃ、つぎは、サラダを・・・、あれ?」
わたしは、サラダを、ぱくぱくと口にはこんだ。
ーあれれ。
とまらない。
これは、クリスの計算したうごきなのだろうか?
わかっていても、手と口が、とまらない。
わが弟、おそるべし・・・・。
5分後、お皿のうえは、なにもなくなっていた。
「ほら、おいしかったろ?」
クリスが、満足のえみをうかべる。
「うん、いっぱい食べちゃった。クリス、料理の才能あるでしょ?」
わたしは、おなかを、ぱんぱんと、たたいた。
クリスが、小さくわらう。
「さ、森のほうへ、いこっと」
わたしは、窓のそとを見る。
「でも、どうして、森に?」
クリスが、お皿を、かたづけながらいう。
「いま、森が、すごく楽しそうなの」
わたしがいうと、クリスは苦笑いをする。
「楽しそうね。まあ、論理的ではないけど、わかりやすい表現だよ」
クリスが、キッチンで、お皿を洗いはじめた。
「じゃ、いってくるねー、あ、ごちそうさま」
わたしがいうと、クリスは、こっちを見ないで、手をかるくあげた。
「ふんふーんと・・・・」
わたしは、小道を進んでいくと、えだにとまった小鳥たちが、しゃべっていた。
いつもの、朝の光景だ。
わたしは、魔法を、おぼえたい。
もちろん、魔女になりたいからだ。
<魔女のきまり>に目をとおしたが、やはり実践してみないと、ピンとこない。
セーラお姉ちゃんのまえで、はっきり宣言しちゃったし。
「あれ?」
とつぜん、木にとまった小鳥たちが、森と反対側にとんでいった。
「・・・・?」
いつもは、ずっと、しゃべってるのに?
わたしは、人も小鳥もいない道をそのまま進んでいくと、おおきな森が姿をあらわした。
「ああ、いい香り・・・・」
森のなかは、光と風がつくる静けさが、たたずんでいた。
「えっと、やっぱり、空をとぶ魔法からかな..」
セーラお姉ちゃんは、高くとんでたな。
きっと、魔力をもってたんだね。
じゃ、妹の、わたしだって・・・・。
ーがさっ。
「え?」
大きな木のそばで、なにか声がした。
「あれ、なにかいる?」
わたしは、草をかきわけてすすむと、きりかぶを見つけた。
「・・・・?」
すると、きりかぶのうえで、小さなふくろうが、こっちを見ていた。
「あら、子どもの、ふくろう?」
ぱたぱたと、羽をひろげている。
「・・・・?」
でも、よく見ると、右の羽だけをうごかして、左の羽は、ぴくりともしない。
「もしかして・・・・」
わたしは、かかんで、ふくろうの子の左の羽を、じっと見た。
「あ、羽に、けがをして・・・・」
この子、どことなく、ココと、にている気がした。
「かわいそうに。あたしが、魔法をつかえればいいんだけど・・・・」
ふくろうの子が、小さな瞳を、わたしにむけた。
わたしは、うなずいた。
「ようし、うちにきなさい。クリスが、治してくれるから」
わたしは、ふくろうの子を、だきあげた。
きっと、動物も、だいじょうぶだろう。
これも、けいけん、経験。
わたしは、そう思いながら森のなかをすすんでいくと、なにか大きなものが、空をよこぎった。
「?」
わたしは、ぱちぱちと、まばたきをした。
高い木の先が、ゆれていた。
「いまのって、人・・・、いや、見まちがいだよね」
小鳥たちが、なんだか落ち着かないようすで、森から、とんでいく。
「さ、いそごっかな・・・・」
わたしは、あしばやに家にもどった。
「いま、かえったよー」
わたしは、玄関のドアを開けると、おおきな声をだした。
「お、はやかったね。え、その子って?」
クリスが、わたしを見て、おどろく。
「はい、ふくろうの子です」
わたしがいっても、クリスは、ぽかんとしている。
「えへへ・・・・」
それは、そうでしょうね。
いきなり、ふくろうは。
「この子、なおしといてね。じゃ、行ってくるから」
わたしが、ふくろうの子を、クリスにわたす。
「え?」
わたしは、きょとんとしているクリスにウインクすると、かばんを手にして、学校にはしった。
☆
「やった、なんとかセーフ」
わたしは、チャイムが鳴る直前に、学校の教室にすべりこんだ。
「アリス、めずらしいわね。こんなギリギリなんて」
となりのマナちゃんが、わたしを見る。
おおきなツインテールが、まだ、あどけない。
すかさず、チャイムがなった。
「ほら、試験、はじまるよ」
マナちゃんが、窓ぎわに座っている先生に聞こえないくらいの小声で、わたしに話しかける。
「きょうのって、星のうごきと位置を、計算する試験だよね」
わたしは、バッグから、ペンをだす。
「うん。あたし、これ、ニガテなんだよね・・」
マナちゃんが、こまった顔をした。
デスクに、解答用紙が、おかれる。
よーし、集中力マックスで、一気に終わらせてしまおう。
わたしは、ペンを、にぎった。
「うーん・・・・」
すこしすると、かくんと、あたまがさがる。
朝、早かったからなあ。
ああ、眠くなってくる・・・・。
わたしは、ささっとペンをうごかすと、夢のなかへと、はいっていった・・・。
夜空に、お星さまが、くるくるとまわっている。
あ、とおくで、手が、とどかないよ。
もうちょっと、もうすこし・・・・。
わたしは、なんとか手をのばすと、声がしたので、目をさました。
「アリス、おきて」
ーあれ?
マナちゃんの顔が、目のまえにあった。
のばした手が、マナちゃんの手をにぎっていた。
「あ、マナちゃん、おはよ。元気?」
わたしは、マナちゃんに、つぶやく。
「アリス、なに寝ぼけてんの。試験、おわっちゃったよ・・・・、ええ?」
マナちゃんが、わたしの解答用紙を見て、おどろく。
「ぜんぶ、解いたの?」
わたしは、マナちゃんに、うなずいた。
解答用紙が集められ、先生が、すぐにチェックをいれる。
わたしは、にこりとした先生から、解答用紙を受けとった。
「ま、満点?」
マナちゃんが、おどろきの顔。
「5分しか、解いてなかったのに?」
まわりの生徒たちが、不思議な表情で、わたしたちを見ていた。
「えへへ。このジャンル、得意だから」
わたしは、マナちゃんに、ほほえむ。
「すごい。でも、アリス、料理の授業では、ぜんぜん、めだたないよね・・・・」
「あー、それは、いいから」
わたしが、そういってさえぎると、マナちゃんが、苦笑いをする。
まあ、料理ができる魔法でも、あればいいんだけど・・・・。
☆
「ただいまー」
「お、おかえり、アリス」
クリスが、顔をだす。
「どう、あの子は?」
「うん、もう、だいじょうぶだよ」
ソファのうえで、ふくろうの子は、元気にはねていた。
「さっすがー。クリスは、いい獣医さんだね」
「まあ、医者だから、そうかもね」
クリスが、にやりとしながら、前髪をさわる。
「ふー」
ふくろうの子が、かわいくないた。
「ほーじゃなくて、ふーなのね」
わたしは、わらった。
わたしたちは、庭にでて、星が見えはじめた空を見た。
「ほら、お友だちがいるところへ、帰りなさい」
「ふくろうは、夜行性だからね。ちょうどよかったよ」
ふくろうの子は、「ふー」となくと、わたしをじっと見た。
「・・・・?」
「ああ、たぶん、お礼が、いいたいんだよ」
「え、そうなの?」
わたしは、ふくろうの子のあたまを、指さきで、そっとなでた。
ふくろうの子は、目を、ぱちぱちさせた。
「よーし、それっ、と」
ふくろうの子は、クリスの腕からとびたつと、星空のなかへと、とんでいった。
「よかった・・・・、あれ?」
満月のなかに、人のシルエットが見えた。
「え?」
さっき森で見た、大きなもの・・・・?
「なんか、いま、人みたいな、ふくろうがいなかった?」
クリスが、ひきつった笑みをうかべる。
「ま、まさか。気のせいよ。そんなのが、いるわけ・・・・」
わたしは、クリスのわきを、ひじでつついた。
「でもよかった。元気でね・・・・」
わたしとクリスは、顔を見合わせてわらった。
わたしたちは、家にもどろうとすると、クリスが、足をとめた。
「あれ、それは?」
クリスが、地面を見る。
「?」
芝生のうえに、小さなペンダントがおちていた。
いつから、あったんだろう。
ーきらり。
ペンダントが、光った。
「・・・・?」
ふくろうの声が、夜空のむこうから、きこえてきた。
<Vol2へ、つづく>
