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「拾った小石」⑱(#創作大賞2025#恋愛小説部門)


続きです         
                                                            (1519文字)


なぜさっき、バスを降りた時、周りをよく見なかったんだろうと焦りと後悔で足が絡まりそうになりながら、公園に向かって駆けて行った。


(いて。お願い。えいと、いて。会いたい。会いたい。えいとに会いたい。)

手を落とし肩で息をしながら素早く公園を見渡した。若葉が微かに揺れている木の下のベンチにくせ毛の男性が座っている。一瞬で涙が滲む。

(えいとだ。良かった......)

深く安堵し息を整える。

初めて出会った夜とは違い、くせ毛の頭は相変わらずだったけれど、清潔そうな真っ白のシャツを着て背筋を真っ直ぐに伸ばし座っている。
汗ばんでいる私は急に恥ずかしくなり汗を拭きたいと思ったが、ハンカチも持っていない事に気がついた。

少しずつ、えいとに歩み寄る。
えいとが顔をゆっくりと私の方に向け、優しい眼差しで真っ直ぐに私を見つめている。

「えいと。」

「麻美ちゃん......今日もきっと僕を見つけてくれると思っていた。」

「うそ。もし私が来なかったらどうしてたの?私は貴方を捨てたのに......」

「僕は麻美ちゃんに言わなければいけない事があったからどうしても会いたかった。会えるまで帰らないつもりだった。いけない事だと思ったけれど、栄子さんに無理やり麻美ちゃんの実家を教えてもらえるよう頼んだんだ。ごめんなさい。」

えいとは立ち上がって頭を下げた。

そよそよと、若葉の香りが辺りを包み込む。

頭を下げるえいとを見て胸が詰まる思いがする。私は滲んだ涙を人差し指でそっと拭い、私から促しベンチに座る。

「えいと、大人っぽくなったね。」

「麻美ちゃんは何だか、柔らかくなった?」

私はより目頭が熱くなり、少し口角を上げ目尻を下げ、座っているえいとと反対側に首を傾げた。

「麻美ちゃんは本当の僕をもう知っていると思うけど、あの頃の僕は何者でもなくて、生きているだけで不安で、宙に浮いているような感覚だったんだ。麻美ちゃんとの生活の中でだけ、僕は息が出来ていた。本当に今まで生きてきた中で、あんなにも幸せな日々は初めてで......今でも唯一の宝物なんだ。でも全て、麻美ちゃんの優しさに甘えてた。本当にごめんなさい。」

えいとはもう一度立ち上がって、丁寧にお辞儀をした。もう、あの頃の哀しさを纏ったえいととは違う。陽射しは柔らかく、暖かな心地良さだ。

思わずえいとの手を取り、ベンチに引き戻した。

「違うの。えいと。謝るのは私の方。私もずっと謝りたかった。私は自分の居心地のいいように自分の事しか考えていない人間だったの。えいとの事も最初から話しをちゃんと聞こうとしなかった。面倒な事に巻き込まれるのが嫌だったの。えいとはいつも優しくしてくれていたのに、私は全然優しくなかった。えいとをすごく傷つけてしまった。本当にごめんなさい。」

「麻美ちゃん......麻美ちゃんがそんな風に思っていたなんて......思いもしなかった。麻美ちゃんはいつだって優しかったよ。僕の命の恩人だからね。ありがとう。」

「ううん。本当の命の恩人は私じゃないことはわかってる......でも......えいととの日々は、私にとっても生きてきた中で一番色濃く幸せだった。えいとが本当の私を見つけてくれたから、私が私でいれたの。ありがとう。」


遠くで子供達の声や車の音がする。
夕方になり、より陽射しは柔らかくなってきたが、空はまたまだ青く澄み渡り、鳥のさえずりが聞こえる。

見ている同じ風景に溶け込んで、私達はベンチの上でどちらからともなく、手を重ね合わせていた。


続く










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