「拾った小石」③(#創作大賞2025#恋愛小説部門)
続きです。
(823文字)
私は今、拾ってきたクマのぬいぐるみを見下ろしている。
私のベッドにもたれかかったまま倒れ込み、グレーのカーペットの上で丸まって眠ってしまっている彼を。
私の貸した一番ゆったりとしたスエットの上下。寸法が足りず、少しは血色の戻った白くて骨ぼねとした手足が、縮こまったまま飛び出していた。
よほど、疲れていたんだ......
下向き加減の横顔を覗き見た。
「綺麗な顔......」
思わず口から声が漏れた。
シャワーが、覆っていた顔の汚れを取り除き、少し赤みがかった、それでも真っ白な頬と、ほっそりとした鼻梁、長く少しカールしたまつ毛を見せてくれた。茶色の髪はやはりくせ毛のようだ。彼の側にしゃがみ込み、静かな寝息を確認する。ドライヤーしたてのその髪にふれてみた。彼を見つけた時から手を突っ込みたくなった頭。髪はとても細くて柔らかくシャンプーのいい匂いがする。自分の指先に少しクルクル絡めてみた。
(かわいい......)
シャワーだけ浴びさせて出て行ってもらうつもりだったけれど、薄汚れた服を、もう一度着てもらうのが忍びなかった。
「服が乾くまでここに居ていいよ。」
っと、言ってしまった。
彼には何も聞かないことにした。聞いてしまったら責任の一端を担うことになる。もし彼が、犯罪者で逃げている途中だったら......私は何も知らないで通す。事実、何も知らない。もしここに、警察や怖い人や、奥さんや恋人が押しかけてきたら、彼を引き渡すまでだ。そこまで考えて、ホッと一息ついた。
彼はもう今夜、目が覚めることはないだろう。
彼に一枚の毛布をかけ、私は安心してシャワーを浴びた。
大人になってから、家の中にものを取り込むことに抵抗を覚えるようになった。小さい頃の自分に反発しているのかもしれない。今は持ち物も少ない。盗られて困るものは、普段持ち歩いている鞄の中に全て入っている。
鞄を抱きしめて、その夜は眠った。
続く
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