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「拾った小石」⑮(#創作大賞2025#恋愛小説部門)


続きです      
                (1768文字)

泣きすぎて腫れた目が落ちついた二日後、私は久しぶりに実家に帰る事にした。  

昨年はお盆もお正月も仕事だと言って帰らなかった。母の時折りの電話も少し鬱陶しい。母はきっとびっくりするだろう。バスの中から見えてくる地元は、私の知っている懐かしい風景の中に新興住宅が溶け込んでいる。いつの頃からかコンビニやドラッグストアが立ち並び、なんだか賑やかしい。

最寄りのバス停で降り立ち、大きく息を吸い込み吐き出す。カレンダーはもう五月に入っている。
バス停から自宅に向かう途中の公園では、ベビーカーを押している母親達が話しに興じている。公園を横目に北に向かい五分程歩いて細い通りに出る。それから又くねくねと東に五分程歩くと、私の生まれ育った家がある。家の前まできてしばらくぶりの実家を仰ぎ見る。借地借家だった家を、私が小学四年生の頃、買い取りリフォームしたと聞いている。小さい頃遊んだ池は無くなっている。まだそんなに色褪せていない実家に懐かしさと少しの安堵を覚える。庭に敷き詰めてある砂利の中から、所々草が顔を出している。玄関先にはペチュニア等の鉢植えが置いてある。明るい色を選ぶ辺りが母親らしい。私の後ろで自転車が帰ってきた音がした。

「まぁ!麻美!びっくりした。いつぶり?帰って来るんだったら、連絡くれたら良いのに。」

母は、慌てて自転車を置きに行った。

「入って、入って。おかえり。嬉しいわ〜。元気にしてた?」

「お父さんは?」

「相変わらずよ。まだ、現役で仕事に行ってるわ。」

久しぶりのリビングに入る。整理整頓が行き届き、テレビ、テーブル、全てが変わらぬまま清潔なリビングだった。

「お父さんと二人でしょ〜。あまりお買い物に行かなくなったの。大した物がなくてごめんね。」

母はインスタントコーヒーと、小さなお饅頭をお皿に乗せて出してくれた。

「ありがとう、お母さん。気をつかわないで。部屋、相変わらず片付いてるね。」

「そぉ?最近は適当よ。麻美は仕事の方はどうなの?上手くいってるの?ご飯はちゃんと食べてる?」

「あはっ、大丈夫よ、お母さん。もう、子供じゃないんだから。仕事も順調よ。」

「それなら良いんだけれど......そうだ。麻美が帰ってきたら見せたい物があったの。ちょっとこっちに来て。」

「何、何?」

母は私を二階に連れて行った。二階には、両親、兄、私、それぞれの部屋がある。四歳上の兄は一人娘だった義姉と結婚をして、義姉の実家近くに家を建てている。もう、こちらに戻ってくる事は無いだろう。兄はとても優しい人で、母のお気に入りだった。母はきっとショックだったに違いない。

小さい頃、母から面と向かって、「お兄ちゃんは優しいのに、あんたはちっとも優しくない。」っと、言われとてもショックを受けた事がある。兄の様に分かりやすい優しさとは違うけれど、私だって気がついているし、優しい心は持っている。なんでわからないの?っと、心の中で反発していたが、子供だったので言葉に上手く表せなくて諦めた。表面上にこにこと素直に話しを聞いているだけで、ある日から私は母の中で良い子になった。
「麻美はいい子ねぇ。ちゃんとお手伝いもしてくれるし。ありがとう、助かるわ。」
母の笑顔と認められた嬉しさで、本当の私を見失っていく気もしたが、生きやすくなったのも事実で、もはや、自発的に親切をする私が本物なのか、そういう人間を演じているのか自分でもわからなかった。その頃から私は私でなくなったが、何ら困ることもなく、それが私だったのかもしれない。世間から見ると、ごく普通の真っ当な人間には育ったようだ。

「ジャーン。」

母は兄の部屋のドアを勢いよく開けた。

「えっ?何これ。お兄ちゃんの部屋でしょ?もしかしてお母さんの部屋にしたの?」

「そうなの。物を片付けてね、お母さんの趣味の部屋にしたの。どう?いいでしょ?」 

「うん。いいけど......お兄ちゃんはいいの?大丈夫なの?私の部屋でも良かったんじゃない?」

「うん。お兄ちゃんには聞いたわよ。そうしたら、お母さんの好きにしたら良いよ。って。もう、お兄ちゃんには自分達の家があるものね。でも、麻美はまだ独身だし、ここは麻美の家よ。」

「......」

私は母の言葉に少し感動していた。


続く


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