連載恋愛小説-「秘密」④
続きです
(1620文字)
高校生になった僕は、父といっちゃんと一緒に囲む夕食でほとんど喋ることもなく、うん。とか、あぁ。とか、適当に相槌を打つことが多くなり、自分の部屋に籠ることが多くなった。
ただ、父が出掛けた気配がすると気もそぞろで落ち着いていられなくて、階下のいっちゃんを覗きに行った。
誰でも皆成長するにつれて無邪気ではいられなくなるが、僕はいっちゃんの前でだけ無邪気さを装うことをたまにする。
キッチンに立つエプロン姿のいっちゃんに、今夜の夕食のメニューを聞いたり部活の話しをしてみたり、何だかんだといっちゃんにまとわりつき、そばから離れようとしない。そのくせ息苦しさを感じ一人になりたいとも思い、自分の心を持て余していた。
一人で勝手にすれ違いの恋人のように妄想し、いっちゃんの使った洗面所、トイレ、お風呂の後............いっちゃんのシャンプーの様な残り香を感じ一瞬目を瞑り匂いを確かめる。
いっちゃんの洗ってくれた清潔な真っ白のシーツに包まれて枕に顔を埋め、いっちゃんに抱きしめてもらった幼かった頃を思い出しながら眠りにつく。夢うつつな頃、突然いっちゃんの白い肩甲骨が浮かび上がり、父の僕をじろりと睨む鋭い眼光と目が合い、ハッとして目が覚める。
ある日、ふと、脱いだパンツをそのままにポイっする事が恥ずかしくなった。その夜から肌シャツ代わりに着ているTシャツにくるみ、そっと籠に入れるようになった。いっちゃんの何気に目にしていた下着もいつしか目にすることがなくなっていた。
いっちゃんが「お買い物に行ってくるね。」っと、歩いて行ったある夏の日曜日、急に空が暗くなり、バラバラバラッと大粒の雨が窓を叩く音がする。
「夕立だ!」
僕は慌てて洗濯物を取り込んだ。
いっちゃんは大丈夫だろうかと心配になり、傘を手に玄関の扉を開けた所にいっちゃんが飛び込んできた。
「いっちゃん!!大丈夫?」
「あーっ、すっごい雨。急に降ってきちゃって。ベッタベタ。」
いっちゃんの前髪はおでこに張り付きボタボタと雫を落とし、ブラウスは身体に張り付き下着が透けて見えている。持っていた手提げ袋も雨に濡れて重たそうだ。
「そこで待ってて。タオル取ってくる。」
僕は慌ててバタバタとタオルを数枚取りに行き、その内の一枚をいっちゃんの頭に被せた。
「スカート、雫が垂れているけれどどうする?」
「ちょっと待って。」
いっちゃんは扉の外に出てスカートの裾をギュッと絞りたくし上げて入ってきた。靴下をその場で脱ぎタオルで白い足を拭きかけた。
たくし上げたスカートから覗く濡れた白い太ももと、冷たく凍えたような足先に目を留めた時、僕は呼吸が浅くなり一瞬、いっちゃんをそのまま床に押し倒した自分の姿を見た気がして、ぐわんと体が揺れた。僕は罪悪感でいたたまれない気持ちを抱えながら尚、見ることをやめれなかった。
「ちょっと、シャワー浴びてくるね。ここ、後で片付けるからそのままにしといて〜。」
そう言いながらつま先立ちで脱衣所に向かって走っていった。
「和くーーん!!ごめーーん。部屋に入ったところの籠の中に、部屋着のワンピースがあるのーー。持ってきてーーー。」
浴室からドアを開けいっちゃんが叫んでいる。
「わかったーー。」
僕は久しぶりに父といっちゃんの部屋に入った。ドアを開けたとたん、薄暗い部屋の中から二人の匂いが僕に迫ってきて息が詰まりそうになり、慌てて籠の中から黒色のワンピースを手に取り脱衣所に駆けていった。
脱衣所の足元はタオルが散らばり雨の匂いがむっとする。中ではシャワーの音がする。ガラス戸は湯けむりで曇っていていっちゃんの姿はほとんど見えない。
ただ、シャーーーッといっちゃんの体を打つ音だけがしていた。
外は相変わらず、激しい雨脚だ。
僕の心はもっと降れもっと降れもっと降って、いっちゃんと僕だけをこの世界にいつまでも閉じ込めておいてくれっと叫んでいた。
続く
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