連載恋愛小説-「秘密」⑤
続きです
(1797文字)
「あぁ〜すっきりした。和くん、ありがとうね。」
「大変だったね。いっちゃん、何か飲む?お茶でいい?」
「うん。ありがとう。麦茶でいいわ。」
シャワーを浴びてドライヤーしたての髪は少し乱れている。
いっちゃんの飲んだコップの中でカラカランと氷が遊ぶ音がした。
「いっちゃん、また、新しいCD借りたんだ。後で僕の部屋に聴きにくる?」
「わぁー、今度は何?いくいく。」
いっちゃんと僕は二人でよく音楽を聴く。
小さい頃は手を繋ぎ童謡を歌って歩いてたっけ。
小学生の頃はテレビで観たアイドルの歌を聴き、父やいっちゃんがかけるレコードから流れるシティ・ポップやフォークソングを耳にした。
「今の曲もいいよね〜。」
いっちゃんは僕のベッドに腰掛けたまに体を揺らして聴いている。
いつからだろう。たまにいっちゃんが僕の部屋でのんびり音楽を聴くようになったのは。
いっちゃんは僕の話しをよく聞いてくれる。時には僕に心を寄せ目を瞑り眉毛を寄せて困った顔をする。又違う日には目を輝かせ、それでそれでと、もっと聞きたいと手ぐすね引いて待っている。僕の友達のふざけた話しを大笑いして椅子からひっくり返ったこともあったっけ。
一緒に悩み、反省し、母の仏壇の前で手を合わす。そんな日々が愛おしいと思うようになったのも、いっちゃんと一緒にいれるのももう後わずかだとわかっているからかも知れない。
いっちゃんに何でも教えたがりの僕は、僕の好きな曲をいっちゃんに聴いてもらう。
「お父さんと聴く曲もいいけど、和くんに教えてもらわないと最近の曲、わかんないんだよね〜。すっごく好きだわ〜。愛唄なんか、とても好き。」
僕は嬉しくなって、もっともっとと、いっちゃんを喜ばせたくなる。
「ところでいっちゃんてさー、何で僕のお父さんと結婚したの?」
「そうねぇ。和くんのお父さん、優しいから。一人ぼっちだった私を見つけてくれたのよ。恩人ね。私に素敵な家族を作ってくれた。」
「あの............こんな事聞いていいのかわからないんだけど......」
僕は中々次の言葉が出なくて逡巡していた。
「なぁに。どうしたの?」
いっちゃんが慈しむような表情で僕の次の言葉を待っている。
「......うっううん。」
咳き込んだ勢いで聞いてみた。
「変な事聞くけど、写真のお母さんに嫉妬する事ないの?嫌じゃないの?いつまでも写真があるの。」
いっちゃんはキョトンとした顔を綻ばせた。
「和くんのお母さんには悪いけれど、少し年が離れているでしょ。だからかなぁ〜。自分のお母さんかお姉さんのように思っちゃって、悩んだ時もいつも心の中で相談してるの。お母さん、こんな時、どうしたらいいですか?って。そうして写真の微笑んでいるお母さんの顔を見て、大丈夫ですよね。って、安心してるの。お母さんこそ、いい迷惑よね......本当はお母さんが、ずっとお父さんや和くんのそばにいたかったはずだもの。私が代わりにお父さんや和くんのそばにいさせてもらって、幸せいただいてるの。何だか申し訳ないわ。本当に本当にありがとうございます。その気持ちしかないわ。
お父さんがね、写真片付けようとしたの。でも私が和くんや私のためにもそのままでいいって言ったのよ。」
僕は目頭が熱くなり涙を落としそうになって、慌てて椅子から立ち上がって窓辺に向かった。
いっちゃんはそっと後ろから僕の腰に手を回し抱きしめてくれた。
「和くん、ちゃんと泣いていないんじゃない?たまには一緒に泣こうか。私もお母さんいなかったから、和くんの気持ち、わかるよ。」
違うよ。僕はお母さんのことで泣いているんじゃないよ。いっちゃんの思いを感じて泣けてきたんだよ。
そう言いたかったけれど、声に出さずに胸の中にその言葉を仕舞い込んだ。
いっちゃんが養護施設で育ったことは知っている。この家に入ることをその当時、父方の叔母達が反対していたことも知っている。いっちゃんはとても大切にこの家を守ってくれた。
僕の人生はいっちゃん抜きでは語られない。
いっちゃんにとっても、僕がそうであって欲しい。
いっちゃんと僕は
僕らは
幾つ秘密を共有しただろう。
僕がいっちゃんのことをお母さんと呼ばず、いっちゃんが僕にお母さんじゃなくていっちゃんと呼んでもいいよ。っといったあの日から......
それが罪の始まりだったかもしれない......
続く
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