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「拾った小石」⑬(#創作大賞2025#恋愛小説部門)


続きです       
                (1190文字)

矢上様の話しは衝撃的だったけれど、一語一句、聞き漏らしたくはなかった。矢上様は私を責めるでもなく、ただ、事実をお話しされる。えいとの事を私は知るべきだと思った。

「えいとが母親と別れる事になったのは、母親にいい人が出来たから。えいとは遠慮したのね。母親はえいとのその後に手を尽くしたんだと思う。えいとは、老夫婦の小料理屋に住み込みで働かせてもらえることになって順調だったようだけれど、ある日、えいとが外出してお店に戻ると、火事で、もう既に火の手が回ってたって。その後警察が来たりして、怖くなって逃げてしまったそうよ。悪い事に母親は、一年前に病気で他界していたらしくて、相談も出来ずに。とても怖かったのね。泣きながら私に、僕、捕まりますか。って聞くから、大丈夫よ。って、言ってあげたの。その後は、親切な人に助けられたって言ってたわ。親切な人って、麻美ちゃん、貴方の事じゃないかしら?」

矢上様はチラッと私を上目遣いで見て、私の返事を待っていた。

「親切だなんて.....そんなこと......」

私は消え入りそうな声しか出せなかった。

「えいとはね、とても優しかった母親と、お店の老夫婦。それに助けてくれた親切な人にとても感謝しているのよ。ちゃんとお礼を言いたかったのに、誰にもちゃんとお礼を言えずに逃げた事をとても後悔しているって。それがとても心残りだって。」

矢上様は、二杯目のホットを口にした。

「私も、大変な事を聞いちゃったって思ったけれど、何故かな。えいとだからかな。力になりたいと思ってね。時間はかかると思うけれど、その道に詳しい知り合いの弁護士に今後の彼のことをお願いしているの。その内落ち着いたら、美容関係の専門学校にでも行かせたいと思っているわ。勿体無いでしょ。あんなに美的感覚が優れているんだから。勿論、出世払いでね。」

ここで山上様は軽くウィンクをして、初めて微笑まれた。

「それと名前の呼び方なんだけれど、私が決めたの。麻美ちゃんは聡明な人だから勘違いすることは無いと思うけれどね。」

っと、付け加えられた。

「大抵は運命に逆らえないわ。彼の場合は本当に、稀なことね......」

矢上様はしみじみと言って、肩の荷を下ろされたようだった。

私は今、矢上様の車の後部座席に矢上様と座っている。
「こんなに遅くなっちゃって、ごめんね。ただ、麻美ちゃんに伝えたかったの。えいとの事は安心してね。」

私の手を自分の膝に乗せ、幼子の手をヨシヨシする様に、軽くポンポンっとされ、そっと、優しく握られた。矢上様の優しさがじわじわと心に染み込んでくる。

車を降りた私は、

「えいと......さんの事、よろしくお願いします。」

っと、深々と頭を下げ、車が走り去った後もしばらくは顔を上げることが出来ず、大粒の涙をポタポタと落としていた。

続く

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