「拾った小石」⑧(#創作大賞2025#恋愛小説部門)
続きです
(589文字)
「これにあなたの荷物を入れるといいわ。」
彼に大きめの紙袋を渡して、私はコンビニに向かった。夜空を見上げると月が光っていた。不覚にも彼の前では泣かなかったのに、涙が滲んだ。
私は一体何をしているんだろう。彼を傷付けただけだった。彼を拾って、捨てるのだ。飽きて捨てるのだったらどんなに気が楽だろう。彼が何者かわからない不安に押し潰されそうで、破滅しそうな自分が怖くて捨てるのだ。自分勝手な人間だと、つくづく、自分に嫌悪する。
そろそろかなと思い部屋に戻った。
彼は荷造りを終えたところだった。
相変わらず、ビーフシチューの匂いが漂っている。
「これ、持っていって。」
二十万円渡した。何ともならない金額かもしれないけれど、元々、何も持っていない人だった。ネットカフェでも住み込みでも何でも探したらいい。
「ごめんね、麻美ちゃん。麻美ちゃんに甘えてた。わかっていたけれど、居心地が良すぎて......ずっといたかった......」
泣き止んだ彼が初めて口にした。
「じゃあ、行くね。麻美ちゃん、お世話になりました。」
彼は真一文字に口を結び、一度目の時と同じように頭を下げた。
私も真一文字に口を結び、自分の両腕をかかえ、彼に背中を向けた。もう彼を見ない。
ゴソゴソと彼が靴を履く音がする。
パタン。
静かにドアが閉まる。静かなさよならだ。
続く
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