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「拾った小石」⑩(#創作大賞2025#恋愛小説部門)


続きです             
                (647文字)


矢上様に深く頭を下げた私は、足早に玄関フロアに向かった。

「待って。麻美ちゃん。大丈夫?」

彼が私の腕を引っ張る。

「麻美ちゃん。会いたかった。話しを聞いてほしい。」

「私はもう何も。ごめん。」

彼の腕を振り解き、その日の為に新調した白のカットソーと黒パンツに嫌な汗が張り付こうとも、パンプスのヒールが傾きそうになろうとも、とにかくその場を早く離れることしか考えれなかった。
玄関アプローチを通り抜け、坂道を少し下った所で、やっとのことで息を整えた。

その夜はぐったりして何も考えれなかった。
何も考えたくなかった。

一人で暗い海の底に横たわる。
海面に顔を出したい。
息がしたい。

ぐったりしたまま、夢を見たようだ。矢上様と、えいとが顔を見合わせ微笑んでいる。二人でチラッと私に視線を送る。息が詰まりそうになる。苦しくて気がつくと、私は真っ暗な海の底にいるようだ。底は冷たくてまともに歩けず、足が痛い。私は寒くてガタガタ震える。嫌だ。海面に出たい。アップアップしそうになりながら、プハーッっと、息を吐き出しやっとのことで、目を覚ます。
「寒っ。」
嫌な汗をかいて体が冷え切っていた。

私は何も考えずシャワーを浴びる。外はまだほの暗い。
温かいコーヒーを淹れ、ベランダを少し開け空気を吸ってみる。雨の匂い。
(いつから降っていたんだろう)
まるで、私の代わりに涙雨のようだ。
昨日と変わり、今日は春の雨になりそうだ。

私は今日も変わらず仕事に向かう。

続く

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