『光る君へ』総評・三文字の力
大河ドラマ『光る君へ』が最終回を迎えました。なかなかの良作であったと思います。中学生の娘は大河ドラマの視聴を初完走しました。それだけ飽きさせない、退屈させない全48回だったと思います。
源平合戦でも平将門の乱でもない、文字通りの平安時代に女性主人公でどういった内容にするのか興味津々でしたが、主軸は紫式部と藤原道長の秘めたる恋の物語と言ってしまって良いと思います。勿論フィクションですが、よくここまで堂々と筋の通ったストーリーを書いたなと感心しております。
脚本の大石静先生は『功名が辻』が私はハマれなかったのですが、こちらは司馬遼太郎先生の原作があったので、かえって難しかったのだろうと思います。オリジナルでこそ力を発揮されるタイプでしょう。自由に人間模様を描けた今作はキャラクターが光っていました。
作風としては次から次へと難題が降り掛かって次回への「引き」が強く意識されており、これは民放の恋愛ドラマに近かったと思います。ただ、歴史モノですから、各人が置かれている立場(身分や役職)が凄く重いのですよね。そこを最大限に利用した葛藤の描き方が見事だったと思います。
特に強調しておきたいのが、式部(まひろ)と道長、両人に設定された演技のハードルがめちゃくちゃ高いことです。主役の式部は賢い設定なので、好き勝手なことをべらべら喋らせてはいけない。けれども、降りかかることは感情を出さずにいられない困難ばかり。吉高由里子さんは知性と情熱を併せ持つ人物を見事に演じきっていたと思います。
ある意味もっと難しいのは道長です。なにしろどんどん出世していくので、立場上「言えない」ことが増えていく。けれども一貫して「まひろ好き好き男」なのは変わらないので、少ない言葉と素振りで、貫禄を維持しながら心が揺さぶられる様を出さねばならない。
代表的な台詞が
「そうか…」
大体これで道長の台詞は終わるのです。「そうか」の三文字で心情をはっきりと視聴者に伝えねばならない。このあまりにも高いハードルを柄本佑さんは毎週のように飛び越えていました。天晴です。三文字でも、心は伝わる。
言葉をギリギリまで削って書くのは、脚本家が俳優や視聴者を信頼しているからだと思います。そうでなければ、やたら説明が増えてしまう。「恋愛」という主題からブレずにオリジナルストーリーで描ききったからこそ、これが可能だったのではないかと思います。
恋愛中心だからといって個人的なことばかり描いているのではなく、ちゃんと歴史的な事象を織り交ぜてましたよね。特に最終回のラストカットは「道長の治世を平和であったと評価する」ことできちんと歴史物語としても見事に着地させていました。
大河ドラマはあくまで歴史を題材にしたドラマですから、まず物語として面白いことが第一である。脚本家は自分の思いっきり得意な分野で攻めれば良い。そういうことをあらためて感じさせる一年間だったと思います。皆さんお疲れ様でした。
地元出身の超有名人・平賀源内が登場する来年の『べらぼう』にも期待したいと思います。
