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「医療のお世話になる」という選択


ネグレクト状態だった

幸運にも私はもともとかなりの健康体でした。
持病もないし、滅多に風邪を引くこともなく、またインフルエンザやコロナにも罹ったことがなかったため、健診を除いて病院を訪れることはほぼありませんでした。

社会人になり、かつて経験したことのないストレスに晒されると、その吐口を食べることによって解消することが習慣化してしまい、30歳をすぎた頃から太り始め、それからは随分長い間重度の肥満状態となってしまいました。太る、それも極度に太るということは以前のような健康状態でいられるわけがなく、毎年の健診ではBMI、血糖値、コレステロールなど諸々指摘が入ることになります。

もちろん、自分自身でも太っているという認識はあり、なんとかして生活習慣を改善しなければならないという意識は常にありました。
しかしながら、糖尿病や脂質異常症を疑われながらも、これといった自覚症状がなかったということ、また診察を受けた際に医師から「痩せたほうがいい」などと口頭で指摘されることが嫌だったことから、医療にかかることはなく、結果として長期間医療から遠ざかることになってしまったのです。

「がん」と診断される

生活習慣を変えなければいけないと認識はしていても、当時は知識がなく、何から始めれば良いかもわからず、また耳の痛い話でもあったため半ば現実逃避するかの如く医療にかからないまま放置していました。
とはいえ、40代も後半になるといくら自覚症状がなくとも、流石に健康に対する不安も出てきます。私の場合思い当たる節がいくらでもあるのですから。その頃ちょうど自治体から無料の婦人科健診の案内が届いており、「せっかくだから受けてみようか」とふと思ったことが人生を変えるきっかけとなりました。

40代後半にして初めての婦人科健診はものすごく緊張しました。
受診したのは近所の婦人科クリニック。血液検査と内診を受けた結果、まず筋腫があるので取ったほうが良いとの指摘。そして炎症反応の数値から「大学病院で精密検査をしたほうがいい」といわれ、その日のうちに大学病院の予約を取ることになったのです。

後日、大学病院で諸々検査を受け、「グレーではあるが確定診断は結果を待ってから」と言われました。グレーということは全くのシロではないということなので、結果を聞きに行った時はドキドキもしたけれど、ある程度覚悟もできていました。
結果は「子宮体がん」でした。
私にとっては最悪の文字列でしたが、幸い初期状態のため開腹手術で筋腫と共に切除すれば予後は良いだろうという見立てでした。

医療のお世話にならざるを得ない状態

がんという現実を突きつけたれたことにより、医療ネグレクトともいう状況から否が応にも医療にお世話にならざるを得ない状態になりました。

手術のため、入院の日程が組まれます。
本来であれば手術日の前日から入院するらしいのですが、私の場合肥満体のため手術前に少しでも体重を減らさなければならないということ、またがんと同時に重度の糖尿病との診断も受けたことから、これも手術前にある程度血糖値を下げておかなければならないため、手術日の二週間前から入院することになりました。肥満と血糖値が高いことは開腹手術における大きなリスクとなりうるためだそうです。

入院生活において提供される病院食によって、どれくらいが適切な食事量なのかということを実際に食べて・見て学びます。当初はその量の少なさと内容の清貧さからこのような食事を続けるのは無理だと思いましたが、意外にも順応が早く、院内のコンビニで隠れて買い食いしたり、甘い飲み物を別途購入したりすることは皆無でした。
病院食くらいの内容がちょうどいいということを知ることになったこの経験はその後の生活習慣の改善において、今日も大きく役立っています。

通常の人よりも二週間のアディショナルな入院期間の甲斐あって、手術前にそれなりに体重も落ち、血糖値も改善を見せました。
そうして手術を受け、筋腫とがんの患部を取ってもらい、抗がん剤を使用することなくその後も良い経過で回復していきました。
自治体の婦人科健診を受けてみようとふと思ったあの日から4ヶ月の間の出来事です。

手厚い日本の標準治療

退院後は3ヶ月に一度の外来にて内診と血液検査を受けに行くことになっています。がんの診断がついた場合は、標準治療のパッケージとして、術後5年間は経過観察をしてもらえるとのことで大変安心しました。また年一回は造影CTで他臓器への転移などがないかもチェックしてもらえるので、手厚くありがたいものです。

また、私の場合はがんの他にも糖尿病と脂質異常症の診断もついていたため、内科も定期的に外来で受診していくことになりました。
糖尿の方は、当初はインスリン注射をするほどでしたが、すぐに改善の兆しが見られたことから飲み薬に切り替わり、半年後にはそれもなくなりました。コレステロールも後に薬の処方がなくなり、両方とも短期間で寛解状態に持っていくことができました。

医療にかかるという主体的な選択

がん、糖尿、脂質異常症という生活習慣病の総合商社とも言える診断をいっぺんに受けたことをきっかけに、敬遠していた医療から否応無しにお世話になることとなりました。
その医療の甲斐あって、短期間で全て寛解へ持っていくことができ、以来新しい人生を与えられたような気持ちで、現在も生活習慣の改善・維持に取り組んでいます。

「がん」という命を脅かしかねない病気の診断を思いがけず受けたこと、そして抗がん剤を使わず予後も良好な状態に持っていけた幸運さから、医療を受けることの必要性、とりわけ予防医療が如何に重要かを身をもって思い知りました。
また、生活習慣の改善は医療に頼るだけではなく、自分自身の意志をもって主体的に行なっていかなければならないということも学びました。生活習慣は改善できたら終わりというわけではなく、またダイエットも目標体重になったら終了ということではなく、その後も好ましい状態を維持するために生涯にわたる継続が必要です。
それはかつての私からすれば辛く厳しく果てしないもののように思えるかもしれませんが、今の私はそうしていくことを主体的に選び取っているので、むしろ新たなライフスタイルとして楽しんでいる部分が大きく、無理なく自然に馴染んでいると言えます。

日本の宝である医療保険制度を活用しつつ守っていく

最後に日本の医療保険制度と予防医療についてお話しします。

国民皆保険制度により、日本では傷病による医療を3割負担で受けられるようになっています。海外では必ずしも皆が健康保険制度に加入しているわけではなく、加入していないと医療費が莫大な金額になってしまう、それゆえ必要な医療を受けることができず、助かる命も助からないといったケースが少なくないと言われています。また日本では医療の受けやすさも大きなアドバンテージだと思います。これも海外ではクリニックの予約が何ヶ月も取れない場合が多く、タイムリーに医療を受けることができないことは、その間に病気が進行してしまう心配が常に付き纏うことになります。

また、日本においては健診制度も充実しており、職場で加入の健保組合または協会健保の健診、国民健康保険においては自治体による各種健診が年齢に応じて充実しています。健保と国保で重複する部分は集約しても良いですが、私はがんになった以降は受けられる健診は欠かさず積極的に受けることにしています。

日本の医療保険制度の大きなメリットである高額療養費制度も日本の至宝です。入院して手術すると外来の時とは桁違いの費用が必要になることは想像に難くありません。たとえば入院と手術をした場合、医療費総額が300万円になったとして、たとえ3割負担で済むといえど、100万円近くの自己負担をしなければなりません。しかしながら、高額療養費制度のおかげで1ヶ月に支払う医療費に上限が設けられ、100万円もの自己負担額が大幅に軽減されることになります。(※上限額は収入額に応じて設定されます)
私自身も高額療養費制度によって、親戚中にお金の無心をすることなく、安心して治療に専念でき大いに助けられました。

日本の医療保険制度は貴重な宝だと思っています。
昨今高齢化が進み、医療保険制度が崩壊しかかっているとの悪いニュースもしばしば耳にします。その度に無知で無責任な政治家やコメンテーターによって診療報酬体系の改悪の提言が発せられたり、あまつさえ高齢者の排除を叫ぶような恐ろしい発信さえ見られます。
元々健康な人でも年齢を重ねれば身体に不具合が生じることは必然であり、そのような発言をする人たちは医療の必要性に迫られないほど今は健康なのかもしれませんが、誰もがいずれ歳を取るし、またその人の親や家族がそうなった時はどうするというのでしょうか。

医療保険制度は社会の宝です。
財源逼迫の解決策として制度を改悪したり排他的にすることは、自らの手足を切り落としていくことと同じことです。
だからこそ、医療費削減のためには、大病や生活習慣病を未然に防ぐよう日頃から予防医療を受けることが大切と言えます。
私自身は医療によって命を助けられ、経済的負担も制度のおかげで最小限に済んだことにより、健康を取り戻し今の人生があります。今後はなるだけ大きな病気をしないよう、予防医療を積極的に受けるようにしています。
被保険者として医療保険制度の恩恵を受けつつ、同時にこれからの医療保険制度も守っていきたいと思っています。

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