父の妄想シリーズ〜碧ちゃんと相棒のトラさん
今回は父の完全なる妄想です。
でも、もしこんな世界があったら…という気持ちで書きました。
碧ちゃんとぬいぐるみのトラさんが織りなす、ちょっと不思議なお話です。
病室の窓から差し込む月明かり。
その夜、碧ちゃんは眠れず、枕元のトラのぬいぐるみをギュッと抱きしめていた。
「……トラさん、もっとお外で遊びたいな」
そう思った瞬間――。
トラのぬいぐるみが、動いた。
ふさふさの尻尾がゆらりと揺れ、金色の瞳がまっすぐ碧ちゃんを見つめる。
「碧杜、行くぞ」
低く響く声。
気づけば、白い病室は消え、碧ちゃんはやわらかな草原の上に立っていた。
痛みと痺れで歩けなかったが、自由に歩ける。
見上げれば空はどこまでも青く、風は甘い花の香りを運んでくる。
「ここはね、“勇者の森”。お前には使命がある」
トラはそう言い、背中を差し出した。
碧ちゃんはためらわず喜んで飛び乗る。
虎の背はあたたかくて、どこか懐かしい匂いがした。
森を駆け抜けるたび、木々がきらきら光り、遠くから小さな妖精たちが手を振ってくれる。
「ねえ、トラさん。なんでぼくなの?」
「お前の心は、どんな痛みも乗り越える強さを持っている。それが、この世界に必要なんだ」
トラさんの言葉に、碧ちゃんは胸を張った。
「じゃあ、やる!」
ふたりは森を抜け、光の階段を登っていく。
階段はどこまでも続き、登るたびに碧ちゃんの足は少しずつ強くなっていった。
やがて階段の先に、“闇の病魔”が待ち構えていた。
トラさんと碧ちゃんは力を合わせ、光の矢を放つ。
――まぶしい光が世界を包み、病魔は消えた。
気づけば、碧ちゃんは病室のベッドに戻っていた。
トラさんのぬいぐるみは、碧ちゃんの枕元。
でも、その手には、小さな光る花が握られていた。
「ありがとう、トラさん」
その声に応えるように、ぬいぐるみの瞳がほんのりと輝いた気がした。
ゆっくりとドアが開き、父と母が入ってくる。
「碧ちゃん、まだ起きてたの?」
「うん!トラさんと一緒に戦った」
父と母は顔を見合わせ、笑いながら碧ちゃんの頭をなでた。
「さすが碧ちゃん!」
その夜、碧ちゃんはトラさんだけではなく、父と母のあたたかな手の中で眠りについた。
窓の外では、金色の瞳が一瞬だけ光ったように見えた。
