雨宿りの図書室_帰りたくない放課後
皆様、こんにちは。
アップルティーでございます。
いよいよ、私の創作活動が幕を開けました。
これから皆様にお届けする作品は、
「雨」「風」「月」をテーマに
した三部シリーズです。
それぞれのテーマにつき三作品、
合計九作品を執筆してまいります。
シリーズごとに世界は異なりますが、
どの物語にも“雨・風・月”という
自然のモチーフが通い、
どこかでつながりを感じていただける
構成になっています。
それぞれの世界で描かれる、
儚くも温かな恋の物語をお楽しみください。
それでは、シリーズ第一作――
どうぞご覧ください。
雨宿りの図書室_帰りたくない放課後
放課後の図書室は、いつもより静かだった。
窓を叩く雨の音が、まるで心臓の鼓動みたいに
一定のリズムを刻んでいる。
僕は、この本をここで読むのが好きだ。
静かで、心が落ち着くから。
でも本当の目的は読書じゃなかった。
僕はただ――彼がカウンターの鍵を閉めるのを待っていた。
坂口は図書委員で、放課後の整理当番。
真面目で無駄話をしないタイプ。
けれど、本を扱うときの指先だけは、やさしかった。
その手の動きを、僕は今日も遠くから見ていた。
「もうすぐ閉館時間だよ」
坂口が声をかけてくる。
「うん、あと少しだけ」
そう答えながら、ページをめくるふりをする。
外では、しとしとと雨が降り出していた。
ガラス越しに見える校庭が、うっすらと白く煙っている。
坂口が近くに来た。
窓を開けて雨降る外を見上げて、
小さく息をついた。
「傘、持ってる?」
「……持ってない。降ると思わなくて」
「そっか。じゃあ、一緒に帰ろうか」
そう言って、彼は窓際に歩み寄った。
雨脚が強くなり、外は灰色に染まる。
僕も本を閉じ、立ち上がる。
けれど、彼は帰ろうとせず、
しばらく窓の外を見つめていた。
「もう少し、ここにいよ。外、冷たいから。」
その言葉に、胸の奥が温かくなった。
椅子のきしむ音。
坂口が、静かに僕の隣に座る。
距離が近い。
雨の匂いと、本の紙の匂いが混ざり合う。
「またこの本、読んでる」
指先がかすかに触れた。
冷たいのに、あたたかかった。
「……雨の日って、落ち着くね」
坂口の声は、静かな雨音に溶けていった。
「世界がゆっくりになる感じ、好きだな」
「うん……僕も」
返す声が少し震えた。
図書室の蛍光灯が、ふたりの影を淡く照らす。
時計の針の音が、妙に大きく聞こえた。
外の雨が少し弱まり、窓の外の空がうっすらと明るむ。
坂口は立ち上がり、カバンから折りたたみ傘を取り出した。
「これ、小さいけど……入る?」
「うん」
「じゃあ、駅まで一緒に行こ」

玄関を出ると、地面に溜まった水たまりが街灯を映していた。
傘を打つ音が規則的に響く。
肩が少し濡れても、どちらも傘を動かさなかった。
「ねえ」
坂口が、不意に口を開く。
「君、いつも閉館までいるけど……本当に本読んでるの?」
心臓が跳ねた。
彼は笑って、少しだけ視線を落とした。
「なんとなく、そんな気がしてさ」
言葉が出ない。
代わりに、傘の中で息を吸い込む音だけが響いた。
坂口の横顔が近い。
雨の雫が、頬を伝って落ちていく。
「……じゃあ、また明日も来る?」
「……うん」
「そっか」
彼は小さく笑って、前を向いた。
雨が止んで、傘の下にだけ残る湿った空気。
それでも、僕はこの瞬間が永遠に続けばいいと思った。
明日も会える――そのたったひとつの約束が、
胸の奥をやわらかく灯した。

最後に
いかがでしたでしょうか。
私も学生時代、本が好きで、
よく図書室に入り浸っておりました。
つまり、これは——過去の自分の夢なのです。
誰かを待ってみたかった。
誰かと、同じ傘の下で歩いてみたかった。
そして誰かと、明日の約束をしてみたかった。
そんな夢に、少しでも共感して
くださった方がいたら嬉しいです。
最後までお付き合いいただき、
ありがとうございました。
これからも、こんなふうに
小さな世界を描いてまいります。
もし「いいな」と思っていただけたら、
スキやコメントをいただけると励みになります。
また次のお話でお会いしましょう。
まったね~~~♪
