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英語フレーズの記録No.6         カズオ・イシグロ『わたしたちが孤児だったころ』

数あるnoteの中から、こちらをご覧いただきありがとうございます。

カズオ・イシグロさんの『わたしたちが孤児だったころ(When We Were Orphans)』を読み進めながら、気になった英語フレーズを紹介していきたいと思います。

※物語の一部に触れていますので、未読の方はご注意ください。


今日は、この作品で気になった英語フレーズ2つと、この場面で使われていた他の英語フレーズも3つ合わせてご紹介したいと思います。

At this point, I quickly recovered my wits and made a show of pretending the whole thing had been an amusing jest.
「そこで僕はすぐに気を取り直し、全てがただの冗談だったかのように振舞って見せた。」

the whole thing:「全てのこと」=バンクスが誕生日プレゼントに夢中になっていた一連の様子。
jest:軽い冗談。joke よりも少し文学的で古風な語感。

— When We Were Orphans, Part One, Chapter 1, p. 9


《場面説明》
主人公クリストファー・バンクスの回想シーンが続きます。
昔の学友ジェームズ・オズボーンに将来の計画について聞かれてもはっきりと答えませんでしたが、学校時代に少なくとも二度、 隠していた野心をうっかり見せてしまったことを思い出しています。

その出来事の一つは、バンクスの14歳の誕生日に、当時仲が良かった二人の友だちが喫茶店へ連れて行ってくれた時に起こりました。

バンクスと友だちはスコーンやクリームケーキをお腹一杯食べた後、友だちの一人が誕生日プレゼントを肩掛けバッグから取り出します。
そのプレゼントは何重もの包装紙で包まれていて、バンクスが開けても開けてもプレゼントが出てこない様子を見て友だち二人は笑います。

しかし、バンクスは夢中になってプレゼントを開け続けます。
包装紙を全て取り除いて見つけたのは、古めかしい革のケースでした。
小さな留め金を外して蓋を持ち上げると、中には拡大鏡(a magnifying glass)が入っていました。

このプレゼントを見た瞬間、バンクスは大興奮でした。

さっと拡大鏡をつかみ、テーブルの上に積まれた包装紙の束を押しのけました――興奮のあまり、包装紙が何枚かはひらひらと床に落ちてしまうくらいに。そしてすぐに、テーブルクロスにこすりつけられたバターの細かいしみに拡大鏡を向けて試し始めます。

バンクスが我に返って顔を上げると、友だち二人はどこか気まずい沈黙に包まれていました。そのとき、友だちのひとりが気の抜けたように笑って言いました。
「探偵になるんだろ?だから、こういうのが必要かと思ってさ。」
このセリフの後に今回の引用文が続きます。

さらにこの後、バンクスは誕生日プレゼントでもらった拡大鏡を「まだ大事に持っていて、いつも持ち歩いている(carry about with ~)」と話しています。


🌀英語フレーズ

① recover one's witsは、「冷静さを取り戻す」「我に返る」という意味です。recover は「回復する・取り戻す」という意味で、wits は「判断力・思考力・機転」といった意味の複数名詞です。

例文:
He needed a moment to recover her wits.
(彼は気持ちを立て直すのに少し時間が必要だった。)


② make a show of doing ~は、「わざと見せる、芝居がかった態度を取る」という意味になります。本心ではなく、周囲に見せるための行動を指すことが多い表現です。

例文:
They made a show of apologizing.
(彼らは謝っているふりをした(形だけの謝罪)。)


この場面で使われていた他の英語フレーズも3つご紹介します。

一つ目は、バンクスが「隠していた野心をうっかり見せてしまったことを思い出す」というくだりで使われていた表現です。

・bring+目的語+to mind「思い起こさせる、心に浮かべる」

  1. bring は「持ってくる」、mind は「心・記憶」という意味です。
    bring+目的語+to mindで「心の中に(記憶やイメージを)持ってくる」「何かを思い出す、連想する」という意味になります。

目的語が長い場合、目的語はmindの後ろに移動します。
※日常的な英語では rememberやrecall の方がよく使われ、bring to mind は少し文学的・書き言葉寄りの響きになります。

例文:
I bring to mind the days we spent together.
(あの頃一緒に過ごした日々を思い出す。)


次に、「バンクスと友だちはお腹一杯食べた後」という場面で使われた表現です。

eat one's fill「お腹いっぱい食べる」

ここでの fill は「満たされる分量」という名詞の意味になり、 動詞の fill(満たす)から派生しています。
食べ物でも経験でも、「必要・満足・限界」の量を表します。
eat one's fillは「満腹になるまで食べる」という意味で、こちらも少し文学的・丁寧な響きがあります。

例文:
They ate their fill of grilled fish at the seaside stall.
(海辺の屋台で、彼らは焼き魚を好きなだけ食べた。)

He had his fill of adventure.
(彼は冒険を十分に味わった。=満足するだけの量の冒険を経験した)


最後は、「プレゼントを見た瞬間、バンクスは大興奮の状態で、さっと拡大鏡をつかみ…」という場面の表現です。

・snatch+目的語+up「さっとつかみ上げる」

snatchは「ひったくる・奪い取る」という意味で、“up” が付くことで “下にあるものを素早く上に引き上げる” イメージが加わります。
snatch+目的語+upで「〜を素早くひったくる」という意味になります。

例文:
He snatched the book up from the table.
(彼はテーブルから本をさっとつかみ上げた。)


この場面の少し前で、バンクスは「上海では犯罪や捜査の話を隠さず楽しんでいたが、寄宿学校ではそうはいかない」と回想しています。ここで初めて、バンクスが“探偵ごっこ”に興味を持っていたことが示されています。

そのうえで今回の場面を見ると、野心を隠していたつもりのバンクスも、拡大鏡を手にしたときの抑えきれない興奮ぶりから、友だちにはもう気づかれていたんだろうな、と感じさせる描写になっています。

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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