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軽井沢2泊3日,女の一人旅

*)気まぐれな日誌より再編集

 あまりに楽しかった軽井沢旅行。
 2泊3日と短い旅でしたが,とても充実していました。これはその記録です。間違えなく私にとって一生の思い出となるでしょう。
 印象に残ったお店も簡単に紹介しています。


プロローグ:私にとっての一人旅。2026年3月20日(金)

 いよいよ週末から一人旅に出ます。

 普通の人にとっては何でもない話ですよね。
 でも私の場合,初めての経験なのです。

 今までは,家族旅行しかしたことがありませんでした。修学旅行にも行っていません。30歳になったというのに,みっともないですよね。

 家族と離れて旅をしなかったのには二つ理由があります。一つは心臓に持病があること,そしてもう一つは臆病だということです。

 もし一人で旅行に出て,旅先の見知らぬ土地で具合が悪くなったらどうしようと怖がっていたのです。

 薬をもって過度な運動さえしなければ大丈夫と言われているのですが。

 今は両親が数年前に他界し,姉はとっくに(私を見捨てて)嫁ついでいます。だから一人旅をしないと,私はこれから先,自宅と勤務先,そしてその近所しか見られないことになります。

 それで,30になったら,どこかに旅行しようと決意していました。

 いよいよ週末,それを決行するときが来ました。
 有休もとり,指定席と宿も予約し,車中と夜に宿で読む本は Kindle にて購入。荷造りは勤めから帰ったらする予定です。

 旅先は信州方面です。本当は黒部峡谷に行きたかったのですが,最初は無理せず,身体にやさしい旅を計画しました。

 この旅が人生を良い方向に転換できるきっかけになると嬉しいのですが。
 でも,多分,旅から帰ってきても,何も変わらず,これまで通りのような気がします。

 まあ,人生なんてそんなものですよ。


軽井沢1日目。2026年3月22日(日)

昼過ぎ軽井沢駅に到着!

 新幹線を降りると,一瞬にしてひんやりとした空気に包まれました。 
 到着早々,無意識のうちに,思いっ切り深呼吸。
 (ああ,冷たくて気持ちがいい)

 ついに軽井沢,そう文学少女(いまは少女ではない(*^_^*))にとっての憧れの地。
 今,私はそこに立っているのです。

 大気は冷たく,しかも限りなく澄んでいます。東京の美味しくない空気とは大違い。不純物が何一つ混ざっていません。

 私は東北出身ですが,東北の寒さとは明らかに違っています。東北の寒さが日本古来のそれだとすると,ここのはエレガンスな冷涼さと言えるでしょう。

 ホームから上階の改札に向かうエスカレータの前には,新幹線から降りてきた人たちで長い行列ができていました。列に並ぶと,周囲から聞こえてくるのは中国語ばかり。噂には聞いていましたが,インバウンドで賑わっているようです。

軽井沢駅前にて

 とにかく宿へ直行。荷物を置いて身軽になります。


どうしても行きたいところ

 軽井沢で行きたいところと言えば,まずは軽井沢銀座界隈。
 芥川龍之介など多くの文豪が逗留したつるや旅館は外せません。それから,万平ホテル。ハッピーバレー。いずれも文学の聖地です。
 あとはジョン・レノンがフランスパンを買いに来てきていたというフランスベーカリーさん。少し足を伸ばして堀辰雄文学記念館も行ってみたい。


まずは軽井沢駅前散策

 暗い話になってしまったので,話を元に戻します。

 行きたいところは数多(あまた)ありますが,お楽しみは明日にして,今日はとりあえず,軽井沢駅周辺を散策しました。

 職場の同僚に軽井沢に行くと話したら,

 『駅前に T-SITE という新しい商業施設が3月にオープンしたから,どんなものか見てきてね

と宿題を出されてしまいました。
 行先なんか言わなければよかった,と思いましたが後の祭りです。

 とりあえず,気になる宿題を最初に片づけておこうと思い,T-SITE に。


できたてのほやほや,T-SITEを散策

 T-SITE は,面白そうなお店がいっぱい並ぶエリアでした。その中でひときわ凄い行列のできている店がありました。何だろうと思って店を覗き込むと,「I'm donut ?」とあります。「ドーナッツ屋さん?」と思いきや,案の定,ドーナッツ屋さんでした。

 帰りに買っていこう,とミーハーな私は考え,とりあえずスルー。

 他の店をつらつら眺めていると,「わざマート軽井沢店」が目に入りました。なかなか面白そうです。全国のめずらしいものがいろいろと陳列されているようです。そこで,店に入り,夜ちょっとつまめそうな菓子「薪窯ラスク」を購入。

 さらにいろいろな店を探索しました。

 しかし,ずっと頭に引っかかっているのが同僚からの宿題です。

 (うーん。同僚には何てレポートしよう。)

 頭の中でレポート文を作成しつつ,さっきのドーナツ屋さんに向かいました。

(あれ行列がなくなっている)

 今がチャンスとばかり,早足で店先に急ぎました。しかし,何という事でしょう。売り切れで閉店です!

 帰りに買おうとしたのが判断ミスでした。ちょっと後悔しつつも

(まあ,ドーナッツだからいいか)

と自分を慰めて,T-SITE を後にしました。


軽井沢1日目の夜。「風立ちぬ」の思い出話

 その後,駅の反対側の軽井沢・プリンスショッピングプラザを散策。帰りにその中の「デリフランス」というパン屋さんで夕食にするサンドイッチを調達して,宿に帰りました。

 そのパンで夕食を済ませてしまうと暇になったので,『風立ちぬ』を開きました(電子書籍ですが)。
  風立ちぬの主人公が軽井沢の宿で,リルケの鎮魂歌を読んだように,私は『風立ちぬ』を読み始めました。

 そもそも軽井沢にあこがれたのは,堀辰雄の数々の小説がきっかけです。
 特に『風立ちぬ』。

【風立ちぬのあらすじ】
 
どういう小説かというと,有名なのでご存じの方も多いと思いますが,簡単に言えば,主人公の「私」が「節子」という女性とK村(モデルは軽井沢)で知り合い,婚約。しかし節子は肺病を患い,F(じつは信州富士見高原)のサナトリウムで療養生活をします.その間も「私」と節子は愛を深めていきますが,節子はこの世を去ってしまいます.その後,主人公は節子と出会ったK村に滞在し,節子を追想しつつ,自らを見つめる,といったものです。精確なことは原作をご覧ください。
  

『風立ちぬ』にまつわる思い出

 思い出話になりますが,この小説を読んだときは,丁度,私自身高校2年生で,遺伝性の心臓病が発症し,相当なショックを受けていたときでした。節子と自分が重なり合ってしまい,涙まみれになって,ぐしゅぐしゅ鼻をすすらせながら本を読み進めました。

 不安と悲しみで,いてもたってもいられなくなり,我慢ができず,東京にいる姉に電話をしました。当時,私は東北の実家にいて,姉は東京の大学の学生でした。
 こう言っても到底理解されないでしょうが,妹なのに私は3歳年上の姉に密かなる片思いの恋心をもっていたのです(過去形).

 姉にも私の病のことは知らされていて,電話口で鼻水をすすって話している私に,

 『冬ちゃん,今,そんなもの読んじゃダメ。あんたはそうでなくともネガティブ指向なんだから。お医者さんの言うとおりにしていれば,全然問題ないんだよ。心配ないよ。お姉ちゃんが保証する。』

 姉は医学の専門家ではありません。しかし姉の根拠のない「お姉ちゃんが保証する」という言葉で,それまで胸を圧迫していた重石が消えたかのように,急に気持ちが軽やかになりました。

 それ以来,『風立ちぬ』は読んでいないのですが,今なら大丈夫。もう読める。私には確信がありました。
 しかし,早速,小説の序曲の中の有名な言葉に出くわします。

風立ちぬ、いざ生きめやも -まだ乗り切れていない過去。

 そう,そのとおりなのです。

 すると,昔この本を読んでいた自分自身の姿が,まるで映像のように頭に思い浮かびました。過去の自分を今の自分が横で眺めているのです。

そのころの不安な自分を思い出して,もう目に涙があふれていました。

 姉の言うこと守って,私にとっての禁書を開くべきではなかったのかもしれません。でも,禁書の誘惑には勝てませんでした。

 それから少し読んでいたのですが,身体がだるくなってきたので,もうそろそろ寝ます。

 明日は早起きして,軽井沢銀座界隈を散策。たのしもう。


軽井沢滞在二日目。2026年3月23日(月)

まずは浅間山を見る 

浅間山(後方の山) 筆者撮影

 うっすらと雪化粧して静かに佇(たたず)んでいるのが浅間山です。
 空気は清涼。
 いやあ,これだけでご馳走です。
 浅間山を見ながら,思いっ切り深呼吸すると,東京で汚れ切ってしまった心が洗われます。

浅間山を堪能。右後ろは大賀ホール。

 ひととき浅間山を堪能してから,今日の目的地,旧軽井沢銀座へ。林道をゆっくりと味わいながら抜けると,大通りに出ます。そこから駅と反対方向に進んで・・・


旧軽井沢銀座到着

旧軽井沢銀座.人はAIにより消してあります.
筆者撮影

 東京や最近そこかしこにある商業施設とは全然違った雰囲気です。

 これが昔から続く高原の別荘地の繁華街!
 もちろん,まるっきり昔のままというわけではないかもしれません。でも,ここを多くの文豪やジョン・レノンが歩いていたのです。
 そして,今,そこに自分もいる。

 感動のため,思わず立ち止まって,あたりの情景を噛みしめました。

 さて,襟を正して先に進みましょう。

 あっ!教会がありました。

軽井沢教会 筆者撮影.

 旧軽井沢のこんなシックな教会で,日曜礼拝ができたらすばらしいでしょうね。


フランス・ベーカリーで買い物

 さて,教会を通り過ぎて,奥の方へ歩いて行くと,左手にフランス・ベーカリーというパン屋さんがあります。ここは,今日の散策のメインスポットの一つです。

フレンス・ベーカリー.人は黒く塗りつぶしてあります.
筆者撮影

 なぜ,ここに来たかったのかって?
 それは,かつてジョン・レノンがフランスパンを買いに来ていたパン屋さんだからです。

 私はビートルズ世代よりずっと後に生まれた者ですが,ビートルズ大好きき人間です。

  店内に入ると,いろいろなパンがきれいに並んでいました。東京でよく見かけるお洒落なパン屋さんというよりは,レトロで親しみやすい清楚な小柄なお店です.近所にこういうかわいいお店があったらうれしいのに。

 さて,店の中ほどに,あの噂のフランスパンが何本も立てかけてありました。

(これですか。ジョン・レノンも愛してフランスパンは。)

 心の中でつぶやきました。

 ただ,これ一本は旅行中に一人では食べきれません。そう思って購入を断念しかけたところ,そばに小型のフランスパンを発見!
 これはいい。これなら一人でも食べられる。

 早速,一個購入しました。

フランスベーカリーで購入の
フランスパン(小さいほう)
筆者撮影

 コンパクトで持ち運びも便利。後で,宿に戻ってから食べることにします。
 ジョン・レノンが食べていたものと同じ味を楽しめるなんて,何て幸運なことでしょう。

 それからさらに奥地へと向かいます。


ついに「つるや旅館」。新婚旅行?の候補

 ありました,ありました。お目当てのつるや旅館。

 ここは芥川龍之介など数多くの文豪が愛用し,堀辰雄の「美しい村」の舞台の一つにもなった老舗旅館です。究極の文学の聖地。

つるや旅館 筆者撮影。

 しかし,入口まで行くと,見学できませんという注意書きが…。残念。でも,当たり前か。

 旅館の中は見学できませんでしたが,芥川龍之介の滞在していた場所の前に立っている,それだけで十分感激できました。

 今が昔だったら,この正面玄関から,堀辰雄や着物姿の芥川龍之介がふらふら出てくる姿があったかもしれません。

 今の作家さんもここに宿泊して執筆を進めているのでしょうか。

 私は作家ではありませんが,いつの日かつるや旅館に泊まってみたいものです。木のぬくもりのある,いかにも大正・昭和の旅館といった佇まいですが,ただ,旅館の中はかなりモダンなようです。⇊

 このほかには,万平ホテルも見に行きました。ついでに近くの高級別荘地ものんびり散策。静寂で,少し薄暗い落ち着いたエリアです。


ちもと餅と大叔母の思い出

 じつはつるや旅館に行く途中,旧軽井沢銀座にある「ちもと総本店」という甘味処に寄りました。そこで,「ちもと餅」という和菓子を知り,自分用のお土産に二個購入しました。

ちもと餅.筆者撮影

 宿の帰ってから写したちもと餅の写真です(きれいに撮れていない)。

 この餅,江戸時代からある抹茶のお菓子だそうです。

 じつは,私は小学校1年から4年まで,大叔母の茶道教室で茶の湯のお稽古をしてもらっていました。

 よく大叔母が,お菓子を選ぶのがたいへん,と言っておりました。

 お弟子さんは,そのことを知っていたので,どこかに旅行や出張で出かけるとは,ご当地もののお菓子をお土産に持ってきました。
 大叔母も喜んでいましたが,それ以上にお稽古のときに味わえる私の方が大喜びでした。

 大叔母はだいぶ前に亡くなりましたが,大叔母の言葉が急に思い出され,ちもと餅を買ってしまいました。

 宿に戻ってからのことですが,部屋の中で,ちもと餅を机の上に置き,天国にいる大叔母に捧げました。

 どこからか

『冬ちゃん,ありがとう。これで一服立てましょうね。』

と言ってくれているようにも思えました。思い込みの錯覚です。

 でも,このお菓子で,また昔みたいに大叔母と茶の湯を楽しみたい。


軽井沢滞在最終日 2026年3月24日

2泊3日の大旅行,今日が最終日。
 あっという間の3日間でした。

 最終日はどこか目的があるわけでもなく,荷物を宿に預けて,午前中から宿のそばを気ままにめぐっていました。歩いているうちに大分遠くまで来てしまったようです。

 思わぬところに森の中の教会を発見。

矢ケ崎チャペル

 矢ヶ崎チャペル。ホテル・マロウド軽井沢というホテルに付属している教会のようで,ここで結婚式を挙げて,ホテルで披露宴。何と贅沢なことでしょう。うらやましい。

 白いウェディングドレスを着てみたい。そしてこの教会の前に立ってみたい。

 森の中の小径も素敵です。

軽井沢.筆者撮影.

 歩いていると,ところどころ森が切り開かれ,広い庭と高級別荘が現れます。
 どの別荘も凝った外観で,豪華。見ているだけでリッチな気分になってきます。
 昨日まで軽井沢の繁華街を主に観てきました。しかし,軽井沢の本当の良さは,そこだけではなくて,こういう自然の中にもあることがわかったような気がしました。

 今回のスケジュールは,心臓の持病を持っている私でも大丈夫なように,かなりゆるゆるでした。少し緩すぎたくらいです。しかし,まあ,徐々に慣らしていくつもりです。

 とはいっても,追分の堀辰雄文学館に行けなかったことは心残りです。

 これから,東京に戻ります。
 昼ご飯は少し遅めになりますが,噂に聞いていた峠の釜めしを駅で買って,新幹線で食べるつもりです。

 本当に楽しく,夢のような三日間でした。
 明日からはまたお勤めです。こう見えて本職はサラリーマン,ではなくサラリーウーマンですから。

 憧れの地,軽井沢。さようなら。



私の出てくる画像は Adobe Firefly + Gemini2.5 +Veo3.1Fast を使って作成したましたが,軽井沢駅・浅間山・大賀ホールの写真(筆者撮影, 2026/3/23)も使用。それ以外は実際の写真です。
本作品の登場人物は実在のものと関係ありません。


© Copyright 冬魅 Aequus, Mar., 26, 2026.
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