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岩手県盛岡市~高松の池

【吾輩は虎猫である】
 吾輩の飼い主がその彼氏となにやら相談している。ここは1Kのマンション。深刻そうであるが吾輩には関係ない。畳一帖あるかないかのキッチンに置かれたご飯を食べに行く。その後、いい具合に彼女のベッドに丸まって寝ているところを起こされて車に乗せられた。初めての外出かもしれない。なんたって吾輩にはこのマンションに来る前の記憶がないのだ。おそらくは生まれて間もないところを拾われたか貰らわれたかされたのであろう。

 時間的には夜の八時ごろだろうか、どこに行くのだろう。ちょっと不安になって、助手席に座る彼女の膝から立ち上がり、窓に手をかけて外を見てみた。池が左手に見える。ずぅっと左手に見えている。要はこの池の周りを回っているのだ。公園がある人通りのわりと多いところから、全くもって人の気配がないところもある。三周目に入り、さすがに飽きてきた。また彼女の膝の上で寝ることにする。

 夕食の片づけを終えた妻が、洗濯物を取り込むためにバルコニーに出た。
「おとうちゃん、すっごい綺麗な月。見てみ」。籠を持ちながら半身をひねらせて促した。私もその隣にある出窓から覗いてみる。
「へぇっ、本当だ、明るいねぇ」。
そこへ、宿題を終えた子供達やってきた。同様にその月を見て感動している。「高松の池に散歩に行くか」僕の提案に即座に末娘が乗ってきた。妻も「しょうがないわね。九時から見たいドラマがあるからそれまでには帰るからね」なんて言いながら満更でもなさそうである。
毛無森山の配水場から高松の池に下りてゆき、昔苦楽園があった広場でのお月見。
「ねぇ、帰りに食パン買うから、コンビニに寄るね」。上田小学校の子供たちが“便所公園”と呼ぶ高松公園側から帰ることになった。
車が止まった。彼女はここしかないとか言っている。彼はもっと人の気配がないところなんて言っている。よく分からないが、彼が押し切られたようだ。彼女は吾輩を抱きかかえると、元気でねって。助手席の窓が開いてゆく。
 何がどうなったのかわからない。気がつくと道路に放り出されていた。車の窓からポンッと。吾輩が乗ってきた車はオレンジ色のウインカーを点滅させてNHK交差点へ向けて左折して去った。
もうわけがわからない。しょうがにゃい。公衆トイレの明かりに向って歩いてゆく。
 すると、私が車から投げ出されたところを見ていたと思われる家族が近寄ってきた。我が身に何が起きたのか?聞いてみることにした。
「吾輩はどうしてこうなったの」。
「おとうさん見た。子猫っ!車の窓から放り出されたっ!」娘が叫ぶ。
猫があまり好きでない妻もこれには驚いたようで、僕も含めてその子猫に駆け寄った。
「みゃ」。
「ねぇ、この子、何か言ってるわよ」
「うん、僕はどうなったの?って聞いてるんじゃないかい」。
「おとうさん、この子猫どうするの」。
吾輩は今、特別にあつらえてもらったベッドから、この家族を見ている。吾輩を人通りの多いところで『降ろした』彼女の作戦は成功したのだ。

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