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本記事には、短編「影を吸われた男」を掲載します。

これは何年か前に、ある本屋へ挨拶に行った時に書いて持っていったものです。現在とは作風が違い、あまり見せたくはないのですが、また、こういった小説風のものはもう書かないのですが、最終段落に笑芸的に重要なギャグがあるので、そこだけ見てもらいたく、発表することにしました。
そのギャグは新造語ネオロギズム的なものであり、いつかロシア未来派の唱えた 超意味ザーウミ として解説します。また、子供向けの言葉遊び集《だだぁ・ぐぅす》でもこのギャグを使いますので、ぜひ覚えておいてください。
それでは、紙本で数ページの短編「影を吸われた男」をどうぞ――





影を吸われた男


 ある日、男は、悪魔に影を吸われた。急に。何の前触れもなく。男が、町内の夏祭りに出ていた屋台で金魚すくいをしているところに突然悪魔が現れて、男の影を吸い始めた。そして、すべて吸い終わると、どこかへ消えた。
 しかし、男も含めその場にいた者達の誰も、男が悪魔に影を吸われたことには気付かなかった。皆、金魚すくいに夢中になっていたのだ。ただ一人、金魚すくい屋の店主だけが、悪魔が現れて男の影を吸っていったところを目撃していた。店主は皆にそのことを話したが、信用する者はいなかった。が、店主のあまりの怯えようと、男の影が全く無くなっているという事実――真夏の真昼の屋外だというのに、あるべきものが全く無い!――を目の当たりにし、皆、恐怖に震え上がった。
 その中の一人が勇気を出して、店主に、その悪魔はどのような悪魔だったのか、と訊いた。しかし、その姿はあまりに異形だったため、店主の持っている言葉では全然言い表すことができなかった。彼はただ、「悪魔……」と言うことしかできなかった。また、別の勇気ある者が、「影を吸う」とは一体どういうことなのか、と訊いた。すると、店主は失神した。「影を吸う」ということを考えるのは一般常識人である彼にとって、脳への負荷が大きすぎたのかもしれない。或いは、〈影を〉〈吸われる〉という言葉の組み合わせだけでもう十分なのであり、それ以上の言及の拒絶であったかもしれない。
 疑問は、影を吸われた男にも向けられた。ある者が男に――
 
  「お前、影をすべて吸われて、なんともないのか……?」と訊くと、男は
  「う~ん、まぁ、いまのところは……」と答えた。
 
また別の者が――
 
  「影を吸われている時、何か感じなかったのか……?」と訊くと、
  「う~ん……」
  「……痛かったりはしなかったのか……?」
  「う~ん……、う~ん……」
  「……お前は影をすべて吸いきられてしまったんだ。そんなに吸われたのだから、何か少しくらい感じただろう……?」
  「そ、そうだ、蚊や虫に刺されたって何か感じるだろうに……」
  「二人の言う通りだ。影を吸われて、何か違和感があっただろう?」
  「う~ん……、まぁ……、たしかに……。すこし、もぞっ、としたかもしれない……」
 
男がそう答えると、場は騒然となった。皆、この事態をどう受けとめるべきか決めかねた。皆が中、ある者がこう切り出した――
 
  「お前、影が無くなって、これからどうするんだ……?」
  「う~ん……」
  「……影が無くて、いいのかよ……?」
  「まぁ、これはこれで、だろう。」
 
どっと笑いが起きた。恐怖と不安からの解放のためもあり、拍手さえ起きた。その拍手が拍手を呼び、拍手喝采となった。指笛や言葉によって称賛する者も現れた。影を吸われた男は、町内の人気者になった。
 影を吸われた男は、また、見知らぬ者に対しても調子が良かった。隣町でも歩いていると、通りを行き交う人々に――
 
  「おい、お前! 影が無いぞ!?」と言われ、
  「シャレてるだろ?」
 
と答えたり、別の時には――
 
  「まぁ! あなた、影が無いゎ! どうしたの!?」
  「へへ。ちょいとね。」
 
「へへ。ちょいとね。」! なんて伊達男なのだろう! また、ある時には――
 
  「あら、あなた、今日は影があるわね。どうしたの?」
  「影さ。」
  「影!?」
  「ツケひげとかツケ睫毛まつげとかあるだろ? それの影ヴァージョンさ。」
  「影ヴァージョン!? それに、その影、青いわね。白くキラキラ輝いているところもあるゎ。」
  「あぁ、フェルメールの使っていた青金石ラピスラズリをベースに真珠パールとダイヤモンドの粉をて作った影さ。」
 
ますます伊達男っぷりを発揮するのである。また、ある時には――
 
  「今日は影が赤いゎ! 真っ赤だゎ! 英雄を喰らう黒竜の眼のように赤い! 一体どうしたの!?」
  「勝負影さ。」
 
伊達男にも程がある。
 そうして日常を取り戻した男は、野生のバイソンの角でブーメランを作ろうと思い立ち、バイソンを狩るために草原へ旅立った。バイソンを追って草原を駆け巡っていると、男の影を吸った悪魔に出喰でくわした。
 悪魔は、草原の真ん中でぽつんと、うずくまっていた。蹲って、あの時に吸った男の影を吐き出していた。そして、吐き出した影を、再び吸っていた。悪魔は、男の影を吸いながら、すすり泣いていた。哀しげに、すすり泣いていた。悪魔の吸っている影が自分のものであり、その悪魔がであることは直感的に判ったが、そんなところを見せつけられては、男はどうすることもできなかった。黙ってその場を立ち去るしかなかった。
 後日、男は、モンゴリアン・デスワームという、体長1・5~2mほどのミミズ型の、その強力な毒と電撃によって触れた者を死に至らしめると言われている未確認生物Unidentified Mysterious Animalを捕まえに、砂漠へ向かった。
 太陽がギラつく灼熱の砂漠で、男がモンゴリアン・デスワームを探し出すため地中に生命探知機アクティブ・ソナーを当てているところに、砂漠の国の王女が通りかかった。王女は男を見つけると、叫んでしまった!
 
  「まぁ、大変! あの御方、影がありませんゎ!」
 
王女は急いで男のもとに駆け寄り、尋ねた――
 
  「あなた、影がありませんゎッ! 一体どうしたのですッ!?」
  「影なんて要らねぇから捨てたのさ。」
  「カッコイイッ! アタシと結婚してっ!」
 
 男は王女と結婚した。男は、砂漠の国の王となった。砂漠の国の王となり、権力、地位、財産、女、子孫、名誉、名声……すべてを手に入れた。男は、影を吸われて、すべてを手に入れた。モンゴリアン・デスワームも83匹捕まえた。
 隣の敵国の王達でさえ、男に従った。いや、許しを請うた。砂漠の世界において「影が無い」ということは最も恐ろしいことであった。あるべきものが無い、のだから。それを理解するためには、人智を超えた、「こちら」とは別の世界を想定するしかなかった。即ち、男は、「神」と畏れられた。敵国の王達は国土と人民を差し出すことによって、許しを請うた。男は、砂漠の世界の王となった。
 そうして、この世のすべてを手に入れた男は、お金がありすぎて困っていた。そのため男は、お金を捨てる遊びを開発した(!)。例によってお金を捨てて遊んでいたある日、男のもとに影が戻ってきた。理由は分からない。男は全知全能の神に訊いたが、「知らない。」と言われた。影が戻ってきたが、男には何の変化もなかった。王女は元気なままだったし、子供もたくさん産まれたし、国土も拡がり続けた。砂漠だけでなく海や氷河も手に入れた。お金も増え続け、預金残高は無限になった(!)。影が戻ってきても、何も失わなかった。影などあろうが無かろうが、全然関係無いのである。
 それからも変わらずに過ごしていた、或る満月の真夜中。男は砂漠の王宮のバルコニーで、モンゴリアン・デスワームをにして闇夜を飛び交う蝙蝠こうもりを撃ち落とす遊びをしていた。そこへ、悪魔が現れた――
 
  「やぁ。お前さん、影が戻ってきたんだってなぁ?」
  「あぁ。」
  「影が戻ってきた気分はァ、どうだい?」
  「べつに。」
  「べつに、かい……。野郎だ。影の方じゃあ、よっぽど喜んでるってのによぉ……。ほらぁ、見てみろよぉ、自分の影をよぉ……。満月に煌々こうこうと照らされて出来た影だ、昼の世界じゃあ考えられないくらい深く、青くなってるだろう? これが、影の本来あるべき姿なのさ……。闇属性である、影の……。こんなクールなブルーを見たら、英雄を喰らう赤眼の黒竜のヤツぁ、火を吐いて悔しがるぜぇ……」
  「お前、何しに来たんだ?」
  「そ、それはだな……、そのぅ……、ま、なんだな、お前さんの、影を、だな……、そのぅ……、またぁ……、な、ちょいと……、あれだ……、な……、吸わせて、くれねぇかなぁ、と思って……、だな……。そのぅ……、ま、そういうこと、なんだな……。うん……。……ぉ、お願いだぁ~……、お前さんの影を、またァ、吸わせてくれねぇかぁ……?」
  「あぁ、いいょ。」
 
男は快諾した。そして、悪魔は男の影を吸い始めた――
 
  「影なんて美味いのかい?」
  「あぁ、美味いねぇ。お前さんの影なんざぁ、特に美味いねぇ……。これまで何万人もの影を吸ってきたが、お前さんの影が一番だぜぇ。それに、今夜のこの満月でキンキンに冷やされてるときてんだ、この世のものとは思えないくらい、美味いねぇ……」
  「……影って、どんな味がするんだ?」
  「影味。」
  「身も蓋もねぇことを言いやがって。」
 
 男が言い終わると、悪魔は男の影を吸うことに専念した。そして、悪魔は、男の影を吸いながら、すすり泣いた。これにはもう、男は見守っているより他はなかった。悪魔はすすり泣きながら、男の影を吸った。吸い続けた。心ゆくまで吸った。吸いに吸った。吸って、吸って、吸った。吸って、吸って、吸った。吸って、吸って、すすった。啜った! 啜った! 影を! 啜った! 悪魔は男の影を啜った! そして、さらに啜った! 啜って、啜って、啜った! 啜って、啜って、すすすった! すすすった! った! った! 影を! った! なんということだろう! 影をるなんて! 悪魔は男の影をった! 美しく、った。美しくった! あまりにも美しくった! 人間には到底考えることができないほど美しくった! 影をられた男は、激怒した。そりゃそうだ! 自分の影をられたんだもの! 誰だって激怒するに決まってる! いかに美しくであろうと、自分の影をられるなんてたまらない! 男は悪魔の影をり返した。り返した! 手に持っていたモンゴリアン・デスワームを鞭にしてり返した! 手に持っていたモンゴリアン・デスワームを鞭にして美しくり返した! それに対して悪魔もり返した! それに対してさらに男もり返した! 悪魔と男のり合いとなった! 悪魔と男は互いに互いの影をり合った! 悪魔が男の影をり、男が悪魔の影をった! りつられつの熾烈しれつな闘いとなった! 互いに互いの影をり、られ続けた……! その死闘は長時間に及び、次第に曙光が射し出した。そして、とうとう男が悪魔の影をり尽くすと、悪魔は、男の影をりながら、り泣いた……




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初代王天君【児童文学名:らつぁん・たすりと】👉ファトラジー[綺想詩]の投稿募集中✨💖 僕はチップなんて要りません!