ホラー映画『口に関するアンケート』感想
こんばんは。
新木静治です。
先日、背筋さんの短編ホラー小説を原作とする、清水崇監督による実写映画『口に関するアンケート』を拝見してきました。
私がホラー映画を見るようになったのは比較的最近で、『変な家』や『8番出口』といった作品から、少しずつ見るようになりました。
『口に関するアンケート』は、私からすれば頭の先から爪先までホラーたっぷりのめちゃめちゃ怖い作品でした。他の方の感想もちらりと見たのですが、あまり怖くなかったという感想もあって驚きます。
映画館の帰り道、事故を起こしてしまいそうでヒヤヒヤしていました。
今回は、映画『口に関するアンケート』について、私が考えたことを話していこうと思います。
あらすじ
ある大学生グループが心霊スポットとして有名な墓地と「呪われた木」を訪れました。しかし、その翌日にはそのうちの一人が行方不明になり、他のメンバーはビラを配るなどして、その行方を追います。周囲では不可解なことが起こり続けました。別日にその墓地を訪れた二人組の大学生と合わせた五人の証言により、奇妙な出来事の全貌が露わになっていきます。
感想(ネタバレなし)
構造としては、事件を追う刑事が五人の証言をボイスレコーダーで聞いており、観客はその証言から奇妙な出来事を追体験していくというものになっています。
ホラーとしての恐怖の体験も素晴らしいですが、ミステリのように謎が謎を呼び、段々とその真相が明らかになっていくのもこの作品の面白さであると思います。
見た後の余韻が大きく、特に言葉で何かを発信しようとする私たちにとっては「口は災いの元だと思いますか?」という質問は重いものとなります。
作品を見てから既に数日が経っており、その間もこの映画について考え続けていたため、恐怖が後引く作品でした。
私がただホラーに弱いだけかもしれませんが。
考察(ネタバレあり)
ここからは、ぜひ作品をご視聴の上、お聞きください。
呪いに巻き込まれたのはなぜか
「口は災いの元」というように、この作品の結末を口にした時点で、というよりも、もしかしたら、最後のアンケートに回答した時点で、呪いに巻き込まれてしまうのかもしれません。
まさに、タイトルにある『口に関するアンケート』は観客を呪いに巻き込むためのギミックであると考えられます。呪いに巻き込まれたという明確なサインは「セミの鳴き声」と「首の長い女(杏)の認知」です。
非常に強力で大きな影響力を持つ呪いであると考えることができます。しかし、作中でこの呪いの犠牲になった人たちを見ると、いくつか疑問点が浮かび上がってきます。
どうして、登場人物は呪いに巻き込まれたのでしょうか。
まず、時系列順に堀田と川瀬の二人組について考えたいと思います。この二人がしたことは呪われた木の根元に行ったこと、そして、首の長い女を見たことです。堀田はその女に声をかけ、川瀬は動画に収めました。
次に、翔太と竜也、美玲は同じように呪われた木の根元に行きました。翔太はその際、呪いの言葉を口にしました。そして、木に登る杏を見て、車に無理やり乗せて帰りました。
最後に、刑事の草壁と記者の西も同じく木の根元に行きました。草壁は西が帰った後に呪いの言葉を口にして、翔太が杏を探すために配っていたビラの中に杏の姿を認識します。
草壁は「呪われた木の根元で呪いの言葉を口にする」ことで杏を認識しているため、このことが呪いに巻き込まれる確実な条件でしょう。一方で、作中では呪われた木の根元に行き、そこで首の長い女(杏)を目撃した人間が全員被害にあっているため、それも呪いに巻き込まれる十分条件だと考えられます。
つまり、呪われた木の根元に行かずに首の長い女(杏)を認識しなければ、呪いの対象から外れるかもしれない、ということです。
ところで、作品を見た我々は、既に首の長い女(杏)を認識していて、大学生はおそらく自分の意思で呪われた木に戻ったわけでもなさそうなので……
呪われた木について
作中で西が説明しているように、路傍の石とお地蔵様の石は元は同じなのに、お地蔵様の方には人によって意味が与えられて、それが力を持つようになります。
美玲が調べたように元々、この木はパワースポットとして認知されていましたが、あるとき、女性がその木で首吊り自殺をして、人々からの認識が変わり、心霊スポットに変わっていったとのことです。
人々の認識によって、姿やその性質を変化させるものがあるという怪談や都市伝説を耳にすることがあると思いますが、その類のものなのだろうと思います。人々が知ってか知らずか、勝手にものに意味を与えて、それが人を呪うというものに変質してしまったのだと考えられます。
おそらく、人によって歪められてしまった、この呪われた木ですが、私はこの呪いはまさに口に関係するものだと考えています。まず言葉としての「口」によって呪いを広め、食事としての「口」によって人を食う。
杏が繰り返した「食べられる」という発言の真意がそこにあるように思われます。
杏について
結局、杏とは何ものなのかという疑問がずっと頭の中から離れずにいました。おそらく、順当に考えれば、その木で自死した女性の霊か、呪われた木の化身だと考えられますが、彼女の発言や影響を考えると、多くの疑問が浮かんできます。
考察と言っても、私自身で答えが出ているわけではありません。
本作品では、杏は実在しない人物でした。翔太、竜也、美玲は、杏とともに心霊スポットに行ったはずですが、草壁が調査していると、コンビニの防犯カメラには杏という人物の存在が確認できませんでした。
ここで浮かぶ疑問は、この三人はいつから呪われていたのか、ということです。二通りの考え方ができると思います。
一つ目は、翔太が首の長い女の話を川瀬から聞いたとき、そして、それを竜也と美玲に話したとき、既に杏の存在が三人の間に忍び込んでいたという考え方です。しかし、この場合、防犯カメラには虚空に語り掛ける竜也が映りそうな気がします。
二つ目は、翔太が呪われた木の根元で呪いの言葉を口にしたとき、という考え方です。その時点から、三人の記憶に杏が侵入し、過去の認識が塗り替えられたのではないかということです。防犯カメラに映っていたのが竜也と杏ではなく、竜也と美玲だったということと辻褄が合います。
私は後者の可能性が高いと考えています。前者の場合、映像がいじられているか、杏の存在を隠す力が働いていると考えられるため、後者の呪いにかかった人々の認識が歪められていると解釈した方が通りがいい気がします。
それを前提に、なぜ認識改変をしたのかを考えると、杏を探させて彼らを木の根元に連れ戻すためだろうと思いましたが、その場合、堀田と川瀬の認識を改変しなかったのはなぜなのか、という疑問が浮かびます。堀田と川瀬に関しては、木の根元に戻る意味がありません。
呪われた人々を一度、元居た場所に返し、また呪われた木の根元に呼び戻して、これまでの出来事を録音させる。徹底して呪いの存在をばら撒きたいという強い思いが感じられます。彼女の「食べられる」という発言。そして、「地獄は下にありますから」や「高くしないと。高くしないと」という上に向かう思い。杏にはいくつかの側面があります。
私ははじめ、セミの幼虫が羽化するときに土の上に出てきて、その際に捕食者に狙われるから、食べられたくないという思いと、上へ上へという思いがあるのだろうか、と考えていました。しかし、最後に強調された「食べられる」には、餌となる人間を確保できたという意思を感じます。
もしかしたら、杏は単一の何かではないのかもしれません。自死した女性や呪われた木、羽化するセミの幼虫など複数の意思が混じり合った結果なのかもしれません。
最後に
ホラー初心者の私からすれば、とても刺激の強い内容でした。見終わった後もずっと脳がフル回転しているような余韻がありました。見なければ良かった、と後悔するぐらいです。
結局、全ての疑問が解決されないという状態が一番恐ろしいのかもしれません。理解できないからこそ、人は暗闇や怪異を恐れるのでしょう。
色々と考えさせられ、ここでもその内容を話してきましたが、これを発信することがこの作品、いや、杏の望んでいることなのかもしれません。思ったこと、考えたこと、身に起きた出来事、全てを吐き出した方がいいと。
本格的に夏が始まったようで、夜中でも暑い日々です。
皆様はどのように過ごされていますか。
私はセミの鳴き声とはこんなにうるさいものなのかと、その暑苦しさに若干の恐怖を覚えています。
それでは。
202607132310.m4a
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