ウェルストーン工業 溶接競技会で日本一になった溶接士のその後 「30年後の誰かの手にも溶接技能宿したい」
20250616
日本一の溶接士のその後
日本一の溶接士を決める全国溶接技術競技会。この競技会で優勝し、最高の溶接技能を証明した溶接士についての話題は目にすることも多いが、多くの場合、翌年になると別のナンバーワンの話題が溶接業界を駆け巡る。
そこで、本記事では、日本一の溶接士となった後、その人がどのように活動しているのかについて、2023年度の「全国溶接競技会被覆アーク溶接の部」で優勝した石井智裕さんの現在を取材した。

全国の溶接課題を解決する石井さん
ウェルストーン工業設立
「溶接は一生をかけるだけの価値がある」と話す石井智裕さんは、昨年12月に11年間務めた兵庫県西宮市にあるタニキカンを退職し、2月13日に、石井さんが代表を務めるウェルストーン工業を開所した。
現在ウェルストーン工業では主に、石井さんが得意とする被覆アーク溶接(手溶接)の技能を使って、顧客の課題を解決しているという。依頼は配管・パイプの溶接が中心で板厚は3ミリ〜5・6ミリ程度。

溶接士として独立するにあたって転機になったタイミングを尋ねると、2023年度に石井さんが出場した「全国溶接技術競技会」の手溶接の部で最優秀選手になったことだという。
「溶接は仕事だけでなく様々な場面で人生を豊かにしてくれた。優勝前は、積極的に他社の溶接士からアドバイスをもらいに行っていたため、多くの繋がりや先人の知見を得ることができた。優勝後は、多くの人から声をかけていただけるようになり、事業所間を超えた人間関係をもたらした」と話す。

そんな石井さんは現在、小型軽量が魅力であるダイヘン製溶接機「BSー250М」を積んだステップワゴンで、クライアントのもとに駆け付け、フォークリフト補修や、配管溶接を行っている。

ステップワゴン
「ありがたいことに独立後すぐにお仕事をいただけました。ただ、今は営業も段取りも経理も、全て自分でやる必要があり、あらためて会社という仕組みのありがたみを実感している(石井さん)」

独立した理由について石井さんは、「優勝した手溶接以外にも、半自動溶接やティグ溶接など、まだ学びきれていない技能は数多くある。技能者として幅を広げるには、時間と実践の場が欠かせないが、企業に属する以上、『利益を最大化する従業員』という役割との間に、次第にギャップを感じるようになった」と語る。
また、将来的には講師活動などを通じて技術を次世代へ伝えていきたいという思いも強まり、「より広い活動に挑戦するには、立場の枠を超える必要がある」と感じ、会社と何度も話し合いを重ねた上で、独立を決意した。
現在、石井さんの掲げている目標は、大きく二つある。
一つ目は、半自動溶接の競技でも、手溶接と同様に全国大会での優勝を目指し、兵庫県代表の座を勝ち取ること。「技能に幅を出すために独立した以上、結果にもこだわって競技会に臨んでいきたい(石井さん)」。

二つ目は、自らの工場を持つこと。現在はファブレスでの活動により固定費を抑えられる反面、すべての業務が石井さん自身の稼働に依存しており、製造できる構造物にも大きな制約がある。
「小規模でも自分の工場を持ち、仲間や若手とともに学び、挑戦し続けられる場所をつくること。それも、この業界に貢献できることの一つだと考えています(石井さん)」

最後に、「どのように技能を磨くのかがわからなかった数年前の私が、多くの人に指導していただきながら少しずつ手に職を宿していったように、自分も誰かの手に技能を宿せるような存在になりたい」という石井さん。
積極的に習熟した溶接士に会いに行き、話を聞き、勘所を試し、一つひとつ自分のものにしてきた石井さんが、誰にどのように技能を宿していくのかには、これからも興味が尽きない。
【石井さんの気になる溶接技能者はいますか?】
「溶接で壁にぶつかった時、独立を悩んだ時、いつも相談する先輩の溶接士がいます。多くの決断のタイミングで背中を押して下さった金子大介さんを紹介してください」
