【古賀コン7応募作品】「ダンスをご覧ください」
① 著者名:谷 亜里砂(たに ありさ)
② タイトル「ダンスをご覧ください」
西暦二三〇四年、秋。
猟銃を背負った魔物ハンターの一行が、木の葉が地面を覆いつくすハトバン山に入った。
「おい、あれを見てみろよ」
仲間の一人が指すので見てみると、宙から一隻の船が落ちてくるところだった。銀色のそれは、卵型の殻に傷ひとつないまま、あたりの木々をなぎ倒し、尾根にクレーター状の穴を開けた。
そのあたりは、姿こそ大型の兎に似て愛くるしいが、人語を解する好戦的な魔物の縄張りだった。突如として住みかを潰された彼らは銀色の船を取り囲み、フンフンと鼻を鳴らす。
「おい、やばいぞあいつら、あれを刺激しちまう」
人間の一行は騒いだが、どうすることもできない。
とりわけ若い一匹の魔物が勇んで、船に回し蹴りを食らわせた。
――カチン。
魔物の爪と船体がぶつかって、高い音が鳴る。
すると次の瞬間、卵型の頂点からブシュッと蒸気のような煙がもくもくと立ち上り、アナウンスが流れだした。
「それでは、ウイルスのダンスをご覧ください!」
「それでは、ウイルスのダンスをご覧ください!」
「それでは、ウイルスのダンスをご覧ください!」
このような事例はこの数日間、いくつも報告されていた。いずれも卵型の船体が場所を問わず降ってきて、衝撃を加えるとただちにウイルスをばら撒くアナウンスが流れるという仕様だ。どこの星の誰の仕業なのか、人間同士の紛争や魔物との大戦続きで、宇宙進出計画も頓挫している人類には、分かるはずもなかった。
ウイルスと聞かされて、あたりの人間たちはパニックに陥った。鼻と口を覆って家に籠っているのがいいという者もいれば、清廉な滝に打たれて身を清めるのがいいという言説もあるし、体に塗る怪しげな紫色の油も売買された。
ところが翌日になっても、一週間経っても、ウイルスが原因とみられる集団での体調不良者はちっとも現れなかった。人々の緊張感はだんだんほぐれていき、半年経つ頃にはすっかり元の生活に戻っていた。
ハトバン山に入った一行は目の前でアナウンスを聞いたため、しばらくは青い顔をしていたが、時間が経つにつれて落ち着きを取り戻していた。
しかしそれから一年も経った頃、世界中にある疫病が流行った。風邪によく似ているが熱は高く咳は深く、長引く傾向のある病だった。
「これはあの船のせいにちがいない」
「いや、これは偶然に流行ったもので、あれとは関係がない」
憶測や噂は流れ続けたが、あの銀色の卵型の船体の目的は、ついぞ分からずじまいである。
(了)
