『テンシンシエン!』第4話
◆「タイショクセツメイカイ?」
面談から1か月ほど経った2月中旬頃、総務から「退職説明会」なる案内が届いた。この3月末で退職する人数は、全社で約2000名に上るらしい。今回の転進支援制度では、40歳以上を対象に全世界で5000名の希望退職者を募るということだ。退職説明会だけでなく、退職金の計算や、その他もろもろの資料の準備など、年度末に向けてただでさえ忙しいのに総務の連中は気の毒だ。特に我々希望退職者に対しては、いたるところに気を使い、まるで腫れ物に触るかのような対応だ。実際、何回か前の転進支援の際、総務の対応に問題があり、訴訟に発展するトラブルがあったと聞いている。というか、いったい何回、転進支援を行っているんだこの会社は・・・
2月中旬から、ほぼ毎日のように退職説明会が開催されてる。私は2月26日金曜日の15:00から17:00の枠を選択した。もちろん、このご時世のためウェブでの説明会。私の選んだ枠では、あの大谷が説明するようだった。
「え、えっと。今回の転進支援説明会では・・・」
「部長、退職説明会です・・・」
「あっ、退職説明会ですね。えぇ・・・先日郵送させていただきました資料にあります通り、退職金に関する項目、社会保険に関する項目、その他としまして3月給与、2月3月分の保険料控除?、住民税?などについて説明させていただきます。ここからそれぞれの担当者より説明をしてもらいます。それでは退職金関係は、総務の金村より説明してもらいます。」
大谷は挨拶だけかいっ!しかも台本を読んでるような、ナイツ塙もびっくりの棒読み。
退職所得の控除額は勤続20年を境にして計算方法が変わる。当然、長く勤めたほうが控除額は大きい。私のように何回か転職をしていると、自ずとその納税額は大きくなる。さらに転職組は勤続年数が少ないため、企業年金の受給資格がないことも多く、これも退職時に一時金として受け取ることとなり退職所得の課税対象となってしまう。今回は退職特別加算金によって退職時に受け取る金額はさらに大きくなるので、自動的に課税対象額もまたまた大きくなり、結局、住民税などを合わせると、額面に対し15%程度を税金として支払うことになる。税金だけでも中堅サラリーマンの年収に相当するなんて・・・なんだか複雑な気分だ。
ただ、税法や年金などの制度を考えると、日本では一つの会社に長く勤める方が良いということがよく理解できる。
一通り、各制度の説明や会社に提出する書類の説明を受けた。このあと、10日ほどを目途に、書類の作成と会社への郵送をしてしまえば、退職に向けた各種手続きが粛々と進められる。退職時に受け取るお金は、3月末に今回指定した口座へ振り込まれることになっている。
ざっくりではあるが、沢村家は今回4000万円程度の現金を手にする。2000万円は住宅ローンに充ててローンを完済してしてしまおう、残りの2000万円は妻と山分けして、それぞれの老後のためのお金にしようと思った。
私はとりあえず、4月からは住民税や国民健康保険、国民年金など、いままで自分で意識していなかったお金を自分で支払うこととなる。生命保険とか自動車保険とかも給与天引きにしていたが、これも4月からは自分の口座から引き落とされることになるだろう。他にも普段意識していなかった支払いがあって、4月からはそれらを目の当たりにするはずだ。失業手当もあてにしたいが、それでも1回目が支払われるには、20日程度必要と聞いている。いずれにせよ、私には当座の資金は必要。あるに越したことはない。
まぁそんな心配や不安も、早々に再就職してしまえば良いのだろうが。
総務から言われた書類は、一時間もあれば完成した。早めに会社へ郵送して、あとは退職に向けたカウントダウンの日々をじっくりと味わおう。
退職前に貯まった有休を嵐のように消化する者もいるが、私は今までと同じ生活を今まで通り、まだこの先も永遠に続くかのように、普通に普段通り過ごそう。
そして静かにいなくなろう。こんなご時世なのだから・・・
