あの子はもういない
高校生のときのこと。
放課後、友達とドラックストアへ行った。
友達が「化粧品を見てくる」と言うので
わたしは香水の売り場へ行くことにする。
一通り見たが 特に欲しい香水は無かったので
友達の元へ戻ることにした。
しかし 化粧品の売り場に彼女の姿はない。
どこへ行ったのかな..
店内をウロウロすると、
彼女はヘアカラー売場にいた。
彼女の髪は金髪に近い茶色。
黒髪だったことはほとんどなくて、
学校でも問題児扱いされていた。
しゃがんで カラーリング剤を見ている彼女の隣にわたしも腰をおろすと
若い男の店員さんがやってきて、
彼女の横にしゃがみ 静かにこう言った。
「見てたよ」
それに対し、彼女はギョッとしたように
「え...」 と一言。
そして 彼女だけバックヤードに連れて行かれた。
わたしは 追いかけた。
「ちょっと待って!」
すると 店員さんから冷たく言い放たれる。
「君はここで待ってて」
わたしは ぽつんとバックヤードの扉の前にいる。
しかし すぐに扉が開いて
わたしもバックヤードに入れられた。
「君もやったのか?」
と 店長と思われるおじさんから睨まれた。
わたしは状況が理解出来なかった。
君も、って.. なんのこと?
このおっさん なんの話してるの?
わたしは呆然としていた。
するとおっさんはわたしの目を見つめて
何かに納得した顔をした。
「君は店の外にいて」
そして 気付くとわたしは店の前にいた。
辺りはもう暗い。
すると 体格の良い女の人がわたしのところへやって来た。
私服警官だろう。
「あなたの友達、化粧品を盗んだの」
そう告げられた。
その言葉を聞いた瞬間、涙が出てきた。
わたしの友達。
彼女は複雑な家庭環境で育ち、
母親から虐待を受けていた。
なのに彼女は 母親のことが大好きだった。
そんな彼女を わたしはいつもそばにいることで、守っているつもりだった。
彼女の心を。
でも、
少しも守れていなかったのだと
痛感した 絶望的な涙だった。
警察官の女は 泣いているわたしに対し
「優しいわね」
と言った。
優しいって.. この女、なに言ってやがる。
なにも知らないくせに..
わたしは彼女を 守れなかったのに..
彼女は 前から盗みをやっていたとのことだった。バレたのは今回が初めてだと。
後に本人の口から聞いたことだ。
「もう二度とやらないから離れていかないで」
と、その日の夜にメールがきた。
「離れていかないよ、大丈夫」と返信。
後日、彼女と再度お店に行き
二人で頭を下げ、
彼女は盗んだ商品の代金を支払った。
わたしは高校を卒業するまで
彼女とずっと一緒にいた。
大人になったいまでも
彼女とは大の仲良しだ。
と 言いたいところだが、
現実はそうはならなかった。
高校を卒業し、進学したわたしと
進学はせず
夜働き始めた彼女は 次第に疎遠になっていった。
大人になっても
ずっとずっと 一緒だと思っていた。
彼女の連絡先も もう知らない。
きっと 二度と彼女に会うことはないのだろう。
それでも 時々こんなふうに思い出す。
彼女との日々が 楽しくて、
だけど いつだって少し 悲しかったこと。
30歳。
わたしの隣に あの子はもういない。

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