"問い"を立てる力は「プロンプト」よりずっと大事 | "問いの誤謬"を防ぐには
昨今AIの使い方で1番注目されることといえば、もっぱらプロンプトエンジニアリングだと思っています。 (APIとかRAGとかは一部のAIオタクが使っていれば良い)
さて、みんな「どのようにプロンプトを書けばいいか」に躍起になっていますが、実はその視点でAIに取り組んでも成功することはあまりありません。
なぜかというと、AIへの指示においてプロンプトは最後の言葉作りにすぎず、本当はそれより前にもっと大事なことがあるにも関わらず、(おそらく)多くの人はそれを見過ごしているからです。

というわけで、今日は「どのように伝えればいいか」ではなく「何を指示すればよいか?」について考えていきましょう。
「問いの立て方」ともいえますし、ロジカル・シンキングの話ともいえます。
0.AIが思い通り動かない2つの理由
まず、AIが思い通りに動かない理由は大きく2つあります。
それは
1.やりたいことがAIに伝わってない
2.AIにその指示を処理できるスペックがない
です。
1.やりたいことがAIに伝わってない

「やりたいことがAIに伝わってない」はAI側に処理できるスペックはあるのに、指示の含意がしっかりAIに伝わってないことを意味し、これを解決するためにプロンプトエンジニアリングがよく取り上げられます。
2.AIにその指示を処理できるスペックがない

「AIにその指示を処理できるスペックがない」は単に機能的限界の話で、AIに料理をして、犬を散歩に連れてって、時空を超えて、などといってもこなせないよという話です。
これらは、明確にどちらか片方に落ち込むこともあれば、複合の場合もあります。
このうちの2.AIにその指示を処理できるスペックがないについては基本的にモデル開発の話になり、私たちがどうできる問題でもないので今回は割愛します。
1.「AIにやりたいことが伝わらない時」の改善方法はプロンプトじゃないかもしれない
さて、そもそもAIにやりたいことを伝えるとはどのようなことでしょうか。
これもさらに、目的(達成したいこと)とアプローチ(達成したいことをこなすための道行)とプロンプト(指示)に分けることができます。

例えばあなたは世界征服したいと考えてみましょう。
あなたがAIに仕事を頼む目的は「世界征服したい(手伝ってほしい)」からです。そのためあなたは「世界征服のために、まずは世界経済を掌握してください。」と言いました。まぁそうですね。AIのスペック的に可能かどうかはおいおいて、目的に資するという意味では妥当なアプローチの一つだと思います。
その後、AIが着実にことを運び、あなたは無事世界を征服することができました。
めでたしめでたし。
1.アプローチが正しくないと目的に寄与しない

さて、目的に対してアプローチが正しくないと目的の達成も何もありません。
あなたは今回「世界征服のために、まずはかわいい猫を飼ってください」と言いました。猫は可愛いですが、目的に資するという意味ではあまり妥当だと思いません。
その後、AIは着実にことを運び、あなたは無事たくさんの可愛い猫に囲まれることができました。めでたしめでたし。
いや、世界は征服できてないのでめでたしではありませんね?
2.目的が曖昧だと、アプローチも曖昧になる

あるいは目的が曖昧な場合もあります。
あなたは今回世界をふわふわしたく、「ふわふわのために、まずは美味しいものを作ってください」と言いました。
これは妥当ですか?いやいやそもそも目的はなんですか?
その後、AIは着実にことを運び、あなたは美味しいものを食べることができました。
これは成功なのか?失敗なのか…?それすら分かりません
目的の明確化と、ロジカルなアプローチ決定が重要

というわけで、AIに仕事を頼むときに、ちゃんと何を達成したいかと、それがどのように達成できるかを考え、その後プロンプトを考えましょうということです。
さて、本日はこれを考えるために"問い"について考えてみましょうという話になります。
2.目的-アプローチと"問い"の関係について
さて、"問い"とは何かということから始まりますが、本記事における"問い"とはほぼ「質問」と「答え」のことを指しています。
よくある"問い"として例えば下記のようなものがあります。
中身はなんでも良いです。
今日の天気を教えてください。 → 晴れです
この資料で書かれていることは根拠あるんですか? → はい、添付資料のP.32をご覧ください
ばあさんや、昼ごはんはまだかのう → おじいさん、昨日もう食べましたよ
目的-アプローチと"問い"についての関係
さて、なぜ急に"問い"が出てきたかというと、目的とアプローチ(指示)の関係は"問い"に変換が可能だからです。
問いを全て指示とアプローチにすることはできませんが、全ての指示とアプローチは問いに変換することができます。
というか、それを満たしてないものは指示ではありません。
例えば、Aという目的を達成するために「Bをやってください」と指示する行為は、
「問い.どのようにAを達成することが出来るか? 答え.B」を変換したものとなります。
つまり先ほどの例を言い換えると…
目的-アプローチ
(世界征服するために)経済を掌握してください。
問い
問い.どのように世界征服することができるか →
答え.世界経済を掌握する
"問い"を立てる能力は指示力に直結する

AIに指示を出すためにはこの問いたてをきちんと行なった後に、プロンプトとしてAIに伝えます。
つまりプロンプト・エンジニアリングはその最後の瞬間をやっているにすぎません。
3."問い"を立てる難しさ
さて、"問い"からアプローチへ分解という行為をどこかでみたことありますね。そう、ロジカル・シンキングです。
ロジカルシンキングで目的からアプローチを分解する

ロジカル・シンキングは今や常日頃から意識するべきものとして言われていますが、立てた問いに対してロジカルに精査し、答えを出す思考法です。
つまり、ロジカル・シンキングを学べば目的に対してアプローチを分解することができ、正しく指示が出せるようになるということですね!
はい。違います。
そもそも目的は正しいか?

これは今までの経験則でもありますが、大体の場合は「目的があるのに、自分の真の目的が何かわかってない」ために失敗することが多い印象です。
解くべき問いが間違っていることは非常によくあります。

誤謬した問い
問い.どのように世界征服することができるか →
答え.世界経済を掌握する
本当の問い
問い.どのように君にもう一度会えるか →
答え.タイムマシンを作って会いにいく
こうした、誤謬した問いを立てないようにしましょう。
きちんと目的を据えましょう。
世界征服をするのは、失った恋人にもう一度会う過程で必要な場合だけでいいんです。タイムマシン作らせるために必要とかね。
4."問いの誤謬"を防ぐ技術と"問い"の構造
さて、なぜこのように問いを誤謬してしまうのかですが、
一口に言えば問いを疑う-明確化するという習慣がないからだと思っています。
そのため、あいまいな問いの状態から先に答え(という名の誤謬)が生まれてしまい、そのまま突っ走る状況が多い気がします。
というわけで、問いから答えを出す技術ではなく、答えから問いを逆算し、問いを精査する技術のほうが重要ではないかと思っています。
また、問いと答えの関係を知ることも非常に重要です。
原則.1 問いに対して答えは複数ある

まず、問いに対して答えは複数あります。
つまり先ほどの例でいうなら目的に対してアプローチは沢山あります。
原則.2 答えには最適解と局所解が存在する

アプローチの中から最適なものを分解するプロセスがロジカルシンキングと言われたりします。
原則.3 答えから対応する問いが逆算できる

さて、ここが大事なところですが、問いから答えが出せるのであれば、答えから問いも導き出せるはずです。
数学の式だと答えから問いを推察することは難しいですが、問いの答えには意味が介在しているので推察が可能です
原則.4 問いに対して最適解は一つだが、最適解に対して問いは複数ある
ここは注意ポイントです。
問いと答えはある程度一致した意味を持ちます。
一つの問いに対して最適解は一つですが、一つの答えが複数の問の最適解になることはあります。
テクニック.1 一度問いに戻ることで、真の解を探すことができる

以上の4つの原則を生かした上で、テクニックです。
まず一つ目のテクニックは、見つかった答えから一度"問い"に戻ることで、最適解を探すことができるというものです。
先ほども言いましたが、あいまいな問いの状態から先に答え(という名の誤謬)が生まれてしまい、そのまま突っ走る状況の中で、改めて問いを見据えるというのは非常に大事な行為です。
問いを見据え、もう一度ロジカルに考えることで最適解が見つかります。
答えから
答え:世界経済を掌握する
問い:どのように世界征服することができるか
最適解:世界経済と軍事を掌握する
テクニック.2 問いが正しくなければ、問いを立て直すことができる

二つ目のテクニックは、逆算した"問い"を精査し、真の問いを探すというものです。
あいまいな問いの状態からということは、問い自体をスライドすることもありえます。
問いを見据えるだけでなく、問いを精査し、真なる問いを見つけましょう。
問いから真の問いへ
問い:どのように世界征服することができるか
↓
問い:どのように君にもう一度会えるか
5.誤謬に陥りやすいパターン
問いを精査する際に気をつけるべき9つの誤謬パターンを紹介します。
「これらのパターンの場合問いが間違っている」ということではなく、「意図せず落ち込んで真なる問いが見過ごされてないか?」という疑問の持ち方です。これは私の考える一例で、きっと他にもパターンがあります。

1.誘導的な問い
特定の答えを導くように設計された質問。
例:「なぜ私たちの製品は競合他社より優れているか?」
改善:「我々の製品と競合他社の製品はどのように評価されているか?」
この問いは、自社製品が優れているという前提を含んでおり、客観的な分析や批判的思考を阻害し、確証バイアスを強化する可能性がある。
中立的に「我々の製品と競合他社の製品はどのように評価されているか?」のように、問いを立てる必要がある。誘導的な問いは、特定の答えを導くように設計された質問であり、無意識のうちに行われることもある。
2.単純化された問い
選択肢を単純化しすぎた質問。
例:「この新しいプロジェクトを今すぐ始めるべきか、それとも諦めるべきか?」
改善:「このプロジェクトに関して、どのような選択肢があるか?」
この問いは選択肢を不当に制限しており、他の可能性(例:延期、段階的導入)を考慮していない。現実の多くの状況は二者択一ではなく、この罠は創造的な解決策や妥協点を見逃す可能性がある。
「このプロジェクトに関して、どのような選択肢があるか?」とまずMECEに洗い出す。
※もちろん二者択一の場合も存在する
3.因果関係を誤認した問い
相関関係を因果関係と誤解する質問。
例:「なぜアイスクリームの売上が増えると、犯罪率が上がるのか?」
改善:「これらの事象の間にどのような関係があるか?」
この問いは、相関関係を因果関係と誤認している。
実際は、両者とも夏季の気温上昇という第三の要因に影響されている可能性がある。
二つの事象が同時に起こるからといって、必ずしも一方が他方の原因であるとは限らない。 「これらの事象の間にどのような関係があるか」を広い視点で分析する。
4.循環する問い
結論を前提として使用し、その前提を結論で正当化しようとする質問。
例:「なぜこの理論は正しいのですか?」「この理論が正しいからです。」
改善:「この理論を支持する具体的な証拠は何か?」
この問いと答えは循環論法に陥っており、実質的な説明や証拠を提供していない。循環論法は、結論を前提として使用し、その前提を結論で正当化しようとする誤りである。
「この理論を支持する具体的な証拠は何か?」と、独立した根拠を明らかにする。
実際の場合、前提がかなり複雑に言い換えられて問いとなっている場合もあるので、この問いを見つけるのは結構難しい。
5.仮定に基づく問い
検証されていない仮定を問いの中に組み込む質問。
例:「私たちの新製品がヒットしなかったのは、マーケティング予算が少なすぎたからか?」
改善:「新製品の結果に影響を与えた可能性のある要因にはどのようなものがあるか?」
この問いは、マーケティング予算が唯一の要因であると仮定しており、他の可能性(製品の品質、市場ニーズなど)を無視している。検証されていない仮定を問いの中に組み込むことで生じる。
重要な要因を見落とし、問題の本質を誤解する可能性があるため、「新製品の結果に影響を与えた可能性のある要因にはどのようなものがあるか」と、より広範な視点で問いかけるのがよい。
6.過度に一般化した問い
限られたサンプルや個別の事例から、より広い集団や状況に対して結論を導き出す質問。
例:「一人の従業員が遅刻した。どのようにすれば社員の規律遵法意識を厳しくできるか?」
改善:「遅刻の問題にはどのような要因が考えられるか?全体的な傾向はどうか?」
この問いは個別の事例を過度に一般化しており、不適切な政策や対応につながり、本当の問題を見逃す可能性がある。限られたサンプルや個別の事例から、より広い集団や状況に対して結論を導き出す誤り。統計的妥当性が担保できているかも重要。「遅刻の問題にはどのような要因が考えられるか?全体的な傾向はどうか?」と、より包括的な視点で考える。
7.結論を先取りした問い
結論を前提としてしまう質問。
例:「我が社の失敗した新製品戦略をどのように修正すべきか?」
改善:「我が社の新製品戦略の結果をどのように評価できるか?成功した面と課題がある面は何か?」
この問いは戦略が失敗したという結論を前提としており、客観的な評価を妨げ、重要な洞察や改善の機会を逃す可能性がある。
「我が社の新製品戦略の結果をどのように評価できるか?成功した面と課題がある面は何か?」を考える。
8.局所的な問い
本当の目的はより大きな文脈のものなのに、一部だけの解となる質問。
例:「どうすればこの製品の売上を10%増やせるか?」
改善:「我々のビジネス全体の成長を促進するには、この製品をどのように位置づけ、活用すべきか?」
この問いは、単一の製品の売上という局所的な視点に焦点を当てており、より大きな事業戦略や長期的な成功を見逃す可能性がある。より広い視点で「我々のビジネス全体の成長を促進するには、この製品をどのように位置づけ、活用すべきか?」と問いかけ、大きな文脈の中に位置付ける。
9.透明な問い
そこに問いが存在しているのに、まだ自分は問いがあると気づいてない問い。
状況:
ある企業が長年にわたって安定した業績を上げている。経営陣は現状に満足しており、特に新たな戦略や変革の必要性を感じていない。しかし、業界全体で大きな技術革新が起きつつあり、この企業の事業モデルが近い将来大きな挑戦に直面する可能性がある。
持つべき問いの例:
・現在の成功が将来の失敗の種になっていないか?
・業界の変化に対して、我々は十分に準備できているか?
・現在の事業モデルは、将来的にも持続可能なのか?
透明な問いの特徴は、それが存在することすら認識されていない点。
したがって、常に自分の認識の限界を意識し、「自分たちが見落としている重要な問いは何か?」と問い続けることが重要である。
これにより、潜在的なリスクや機会を早期に発見し、より適切な対応を取ることができる可能性が高まる。かなりハイレベルな問い。
6. 問いを精査するための具体的な方法と時機
個人的に、問いを精査するタイミングとして最も良いなのは、「答えが出た!と感じた瞬間」です。つまり、何か結論に達したと感じたら、すぐにその結論に至った問いを振り返り、精査することが大切です。
具体的な方法としては:
上記の9つの誤謬パターンに当てはまっていないか確認する
多角的視点を採用し、異なる立場から問いを見直す
前提を明確化し、その妥当性を検証する
因果関係と相関関係を慎重に区別する
7. まとめ

というわけ、問いたてについてでした。
このように問いた手を鍛えることで、AIへのプロンプトの前段が整うというわけです。
なお前回記事を書いたら「いつもみたいにシャープじゃないですね!」と言われたので、今回はレビューのみAIにお願いして、あとはだいぶ人力です。
問い立ての技術は、プロンプトだけでなくビジネスや日常生活のあらゆる場面で活用できます。
やはり重要なのは、答えに飛びつく前に「真の問いは何か?」を常に考える習慣を身につけることではないでしょうか。
余談.AIを使った"問い"の探索方法
AIと壁打ちしながら"問い"を明確化する方法もあるのですが、まだ言語化しきれてないので、コンセプトだけ。

実際この記事のの"問い"と答えの逆算-分解を一人でパキパキと進めるのは難しく、私たちはもう少し悩みながらやっています。
例えば、現実の相談だと「最近あんまりうまくいかなくて…」「○○ってこと?」「あー、それそれ!!!」みたいな壁打ちの中で問いが見つかることもあります。
同様に私たちは大きな目的地が曖昧なままプロンプトを打つ中で、あーそういうことね?と悟ることもあります。
最初に問の方向が見えるなら良いですが、見えない時にどのように壁打ちをすればいいか?これをそのうち言語化できたらいいな…。
その他:
参考.1
この辺りもその応用な気がします。
参考.2
文中で言及している、物事を抽象的に捉える力/明確な指示を出す力が非常に密接に関係しています。

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