比較をやめても、なぜか満たされない理由
はじめに
幸福について考えるとき、「比べないことが大事だ」と言われることがあります。
たしかに、それは半分ほど本当だと思います。
ただ、比べることそのものが悪いのかというと、そうとも言い切れません。
人は比較の中で、自分が何に揺れるか、何を欲しているか、何を手放せないかを知るからです。
そう考えると、幸福とは単に比較をやめた状態ではなく、比較によってあぶり出された自分を、どこまで引き受けられるかということなのかもしれません。
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1. 比較が苦しいのは、負けるからではない
比較がつらいのは、誰かに負けるからだけではありません。
もっと厄介なのは、比べた瞬間に「本当は自分が欲しかったもの」が見えてしまうことです。
あの人の自由さが気になる
あの人の表現にざわつく
あの人の生き方が妙に残る
そのとき苦しいのは、劣っているからというより、自分の中にまだ名前のついていない欲求があるからです。
比較は、心を乱す鏡でもありますが、同時に、隠していた願いを映す鏡でもあります。
だから簡単に否定しきれません。
2. 比較を止めても、心が静かにならないことがある
「比べるのをやめよう」と思っても、なぜか楽にならないことがあります。
それは、比較が止まっていないのではなく、未処理のまま沈んでいるだけだからだと思います。
表面では納得したつもりでも、心の底ではまだ、
本当は羨ましい
本当は悔しい
本当はそちらを選ばなかったことに迷いがある
そういうものが残っている。
この状態では、比較を手放したのではなく、比較に蓋をしただけです。
静けさに見えて、実はただの抑圧であることもあります。
3. 比較の完成とは、勝つことではなく、残るものを知ること
では、比較の完成とは何か。
それは優劣が決まることではなく、比べたあとにもなお残るものが見えることだと思います。
あれもよく見える。これも魅力的に見える。
それでも最後に、「やはり自分はこれに戻ってくる」と感じるものがある。
その感覚は、理屈より深いところにあります。
得だからでも、正しいからでもなく、そこを離れると自分が薄くなる。
そういう感覚です。
幸福は、選択肢を知らない幼さではなく、いくつかを見たあとでなお残る偏りの中に宿るのかもしれません。
4. 人が求めているのは、満足よりも整合なのかもしれない
幸福を「満たされること」と考えると、どうしても足し算の発想になります。
もっと評価、もっと安心、もっと自由、もっと美しさ。
けれど実際には、かなり満たされていても苦しいことがある。
逆に、十分ではなくても、妙に納得している瞬間もある。
この差は大きいと思います。
人が本当に欲しいのは満足そのものではなく、自分の内側と生き方の形がずれていないことなのかもしれません。
つまり幸福とは、「十分に持っている状態」よりも、「この在り方なら引き受けられると思える状態」に近い。
そこでは比較は消えませんが、支配力を失います。
5. 幸福は、比較の停止でも完成でもなく、その後の静けさかもしれない
比べることは止められません。
人は生きている限り、他者にも可能性にも反応します。
ただ、比べたあとに何が残るかは少しずつ変わっていきます。
羨望だけが残るのか。
空虚さが残るのか。
それとも、自分の輪郭が少しだけはっきりするのか。
幸福とは、比較のない無菌室のような場所ではなく、比較を通ったあとに、それでもなお自分の呼吸が戻ってくる状態なのだと思います。
比べないことが答えなのではない。
比べきることが答えなのでもない。
比べた自分を見捨てずに、その先でなお残るものに、そっと重心を置けること。
その静けさのほうが、幸福という言葉には近い気がします。
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