巡業カメラマン構想

巡業でカメラマンする方法を考察してみる。

 伯父が写真店を営んでいた影響もあってか、写真館に勤めていたことがあります。高校卒業してすぐの頃です。
 写真館は営業写真と言われ、カタログやパンフレットなど出版物への印刷を目的とした商業写真とは区別されます。商業写真の現場も少しだけ経験していますが、フィルム時代には主に使用するフィルムの種類も営業写真はネガフィルム、商業写真はポジフィルムと分かれているようでした。
 営業写真では、証明写真や記念写真、学校行事、婚礼等の撮影業務がメインになります。証明写真や婚礼写真などストロボを調光したりしてセッティングするスタジオでは、ストロボの光源に合わせた仕上がりを調整します。業務用専門の現像所もあり、写真館の指定する色合いを再現するため高度な技術を要したようです。時々師匠が営業マン相手に「色が違うっ!」と怒ってましたから。また、ネガフィルムの状態ですと修正が可能でした。鋭利に先を尖らせた専用の修正鉛筆を使い、バックライトで照らしたネガフィルムを高倍率の虫眼鏡で拡大して修正するスタイルでした。
 たとえば、撮影当日にニキビが出来てしまっていたらネガの段階で目立たないようにすることが出来ます。シワなども修正出来るためやり過ぎると別人のようになってしまうのでした。心得たお客さんになると撮影後に「きっちり修正しといてね」なんて笑って言うこともありました。ネガからプリントを起こすことで調整出来るため、露出は1/2段ステップで良いとされ、勤務先のスタジオ撮影では1/60sec, f8半でほぼ固定していたと思います。

 商業写真では印刷物が目的であるため、より厳密な露出が求められました。1/3段ステップです。ポジフィルムは色の再現性が正確ですが、フィルムメーカーの特性なども関係します。ストロボセットの組み方次第で意図通りの色にならないこともあり、ピリピリと緊張する現場でした。たとえば、タイルの見本カタログを制作する際、淡いグリーンと淡いブルーの違いがなかなか再現出来なかったりします。止むなくカラーフィルターを使用して色を再現しても印刷工程のインクの発色によってまた色が狂ったりするのでした。またポジフィルムはネガフィルムのように修正ができません。それで空気中を舞っているような小さなホコリが写り込んでも撮影のやり直しになります。そのホコリが写り込まないように掃除するのはアシスタントの仕事です。眠い目をこすりながら深夜遅くまで撮影のサポートをしていました。

 現在、デジタル時代になって営業写真と商業写真のフィルムによる違いは無くなったかと思います。アシスタントの仕事だった暗室でのフィルムの装填や現像作業もなくなり、ポジでは出来なかった修正作業もパソコンで出来ます。しかし、カメラは重くなったのではないかと思うのです。数年前に幼稚園の運動会の撮影をお手伝いしましたが、数時間の間に800枚超の撮影を終える頃にはヘトヘトになってしまい、情けない話ですが、最後の記念写真も画面の水平が維持出来ていない状態でした。フィルム時代の写真館では、如何に無駄なシャッターを切らないかと言うことも教育されていました。運動会ならカメラマン2人くらいでそれぞれが36枚撮りフィルムを3本程度ではなかったかと思います。36×3=108枚程度と言うことになります。2人分合わせても216枚程度ですよね。現在では2人で1600枚程度の撮影をしていることになります。もっとも写真館によってやり方も考え方も違うので、ボクが以前に勤めていた写真館はやっぱりやり方を変えていないかも知れません。以前はカメラもシンプルで軽かったですし、体力を消耗するレベルが違いました。

 デジタル化したお陰で、失敗率が下がっているのは確かです。以前は、ポラロイドでテスト撮影していましたが、やっぱりポラロイドは別物です。間違いなく撮影出来ているかどうか、撮影直後に確認出来るのはかなりのリスクを軽減出来ます。
 写真館に勤めていた頃、ある時、小学校入学記念の集合写真を撮影にいきました。初めて一人で入学記念の集合写真撮影に行ったのではなかったかと思います。体育館でひな壇の準備とかストロボのセッティングとか、一人でやるのはなかなか大変です。そして光量の計測をしていざ撮影になりました。1〜2クラス程撮影したでしょうか。ふと気がつくとスローシャッターになっていることに気がつきました。ストロボを使用していた筈なので暗い体育館ならブレてもほとんど解らないかも知れませんが、何と言っても入学記念の集合写真です。正装した父兄も参加しているわけですから改めて撮り直すことは出来ません。すーっと血の気が引くのを感じました。取りあえず、露出を正しく設定し残りのクラスを撮影すると慌てて先に撮ったクラスへ走り、お詫びして撮影し直しました。あの時、デジタルだったらそんなことにはなっていなかったかも知れません。

 さて、実はここまでが前置きです。
 デジタル化の波によって現場の仕事が軽減された反面、多くの人が手軽に写真を撮れるようになりました。今や現像やプリントする機会も激減していると思います。街の写真館の存在意義も薄くなり、同時に技術も失われようとしています。
 ところが、改めて家族の記念写真を撮る機会までもが減っているのではないでしょうか。ボクが独身だからそう感じるのでしょうか。たとえば、田舎のおじいちゃん、おばあちゃんの写真はどうでしょう?
 時折、過疎の村で村民の写真を撮っている方の活動が報じられることがありました。きっと無償だったでしょう。家族や知り合いの笑顔の写真を撮り歩く…これはなかなか出来ることではないと思うのです。
 それで、デジカメ片手に写真を撮り歩いたらどうだろうと考えたことがありました。必要になるのは、デジカメと交通手段。撮影とプリントでいくらの価格設定をすれば仕事として成立するでしょう。1回の基本撮影料3,000円+プリント料金くらいの設定ではどうでしょうか?
 時に世間話をしながら近隣3〜5軒くらいを巡回する。次の予定も組めれば、プリントしたものを改めてお届けする負担も軽減されます。

 問題と考えたのは、突然訪問して撮影までさせていただけるだろうかと言うことでした。新手の詐欺か悪徳商法と受け取られたら撮影どころではありません。心配になったので仮に作ってみたチラシ片手に近所の交番へ行って相談してみました。するとお巡りさんが言うには「うちも通報受けたら動くしかないからねぇ」とのこと。ごもっともです。そして帰り際に言われました。「あ。チラシあるなら1枚置いてって。」その後、ボクはこの活動をしたことがありません。

 でも、ふと思いついたのです。町や村の公民館で「巡業写真展」を開催し、その会場で「家庭で撮る記念写真」のチラシを配ったらどうだろうと。そうすれば、突然訪問して怪しまれるようなことはなくなるでしょう。自宅のお気に入りの庭や慣れ親しんだ茶の間で記念写真。自然な笑顔が撮影出来れば言うことありません。

「どうかな?いけるかな?」と妄想は続くのでした。


〜おしまい〜

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 ありがとうございました。

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