幸福な室内を満たす光 -『オルセー美術館所蔵 印象派-室内をめぐる物語』展の面白さ
上野の国立西洋美術館で開催中の『オルセー美術館所蔵 印象派-室内をめぐる物語』展に行ってきました(2026年2月15日まで)。
印象派の中でも室内の絵画に焦点を当てた展覧会。印象派に限らない「室内画」が持つ意味について思考を誘われる、面白い展覧会でした。
タイトル通り、出品作の多くは室内画。終わりの方には、装飾画としてモネの睡蓮の絵もあり、総合して当時の室内を巡る絵画というくくりになっていました。
夭逝の画家フレデリック・バジールが描いたルノワールの肖像画とか、マネが描いた小説家エミール・ゾラの肖像画(浮世絵も入っている)とか、今まで画集でしか見たことのなかった絵画を見られたのは嬉しかったです。特にマネの方は改めてその筆致の艶やかさに感心しました。

多かったのは、ドガとルノワール、モネの作品。これは、それぞれの作風の傾向を考えれば納得でもあります(シスレーの室内画とかはかなり限られるでしょうし)。
ただ、この展覧会で私が興味を惹かれたのは、ジェイムス・ティソ、ポール・マテといった、印象派と同時代のマイナーな画家達の作品でした。
印象派とは言い難いくっきりとした筆致であり、アカデミー派っぽくもあるけれど、題材としてはアカデミー的な神話画ではなく、同時代の風俗を描く。

実のところ、技量だけ見れば彼らの方が本家印象派より上という箇所も、なきにしもあらずであり、寧ろ両者は驚くほど似通っている、という感覚を受けました。
それはつまり、当時の1870年代~90年代の人々がいる近代生活の室内を描くことが、そのまま「モダン=近代的な絵画」になるということでもあります。そこには案外、作風の違いが入り込む余地がないのかもしれない。
考えてみると、印象派でスキャンダラスな話題を呼んだ絵画は、モネの『印象、日の出』をはじめとして、屋外の光溢れる自然に満ちた風景画ばかりです。
もしかすると、古代から変わっていない自然の景色の方が、印象派の過激さが良く分かる題材だったのかもしれない。印象派と彼らの同時代の室内画をこれだけ集めて鑑賞すると、そんな思いも湧きあがってきます。

画家の亡くなった妻がモデル
会場にはこのドレスの展示もあった
印象派は第一回展覧会を1874年に開催し、世紀末の1890年代までにはそれぞれの名声を確立しています。そして、これはそのままフランスの第三共和政の歴史に沿うものでした。
1870年フランスはプロイセンとの普仏戦争に敗北し、ナポレオン三世による第二帝政が崩壊。
世界初の市民による政権パリ・コミューンの樹立と崩壊等の混乱を経て、大臣経験が豊富だったティエールを大統領に選出。第二帝政の残滓の王党派と共和政派がいがみ合う中、何とか再出発していくことになります。

実質的な第三共和政の初代大統領
そんな第三共和政は、市民たちに着実に力がついてきた時代でした。
パリ・コミューンの崩壊以降、市民が革命という手段で自分たちの主張を大規模に押し通すことは無くなります。革命の記憶は、国歌や革命記念日の制定、教育の非宗教化等、ナショナリズムに取り込む形で、民衆と国家の両軸を繋ぐことになります。

1880年代にグレヴィ大統領の下で首相を二度務め、
政教分離原則(ライシテ)等の
教育改革を推進した
政治体制としては、ブーランジェ将軍によるクーデター未遂事件があったりするも、戦争がなく、民主化政策により民衆は安定。工業化と近代化政策の推進により、豊かさが生まれてきた年月でもある。
日本の高度経済成長期と同じく、人類の歴史において国家の安定期とは、イデオロギーを豊かさが上回る季節でもあります。
この展覧会の絵画にある、憩いに満ちた庭を持つ家や、優雅でありつつ決して貴族的な悪趣味な贅沢さに陥らない家具調度品に、そんな安定した豊かさが反響しているように思えました。

奇しくもかけがえのない仲間だったバジールを普仏戦争で亡くし、共和国を安定させる新しい憲法ができる一年前に第一回印象派展を開いた印象派は、まさに第三共和政の市民に求められた作品を創造できる画家達でもありました。
それは、家族や友人がリラックスして憩う室内を描く、柔らかい筆致の親密な絵画であり、印象派とは言えない同時代の画家の室内画と並べた時に共通で見えてくる、安らぎと幸福に満ちた表現でもあるのでしょう。是非この展覧会でそんな親密さを感じていただければと思います。

今回はここまで。
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またお会いしましょう。
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