『迷探偵 沖田』第26話:アスファルトの三つの影
地下道のコンクリート壁に反射する、三人の「久世」の足音。 彼らは完璧な同期を見せ、一歩、また一歩と沖田たちを追い詰めていく。 志乃はバトンを構え、どの「久世」に飛びかかるべきか、その筋肉を極限まで硬直させていた。だが、彼女の研ぎ澄まされた感覚でさえ、三人の間に物理的な差を見出すことはできなかった。
「志乃、動くな。……彼らは『像』ではない。……空間そのものを三分割して投影された、一つの『事実』だ」
沖田は、手の中で繋ぎ合わせた三つの鍵を、不規則なリズムで床に叩きつけた。 ガラン、ガラン、と。 金属音が壁に反響し、地下道の音響特性を暴き出す。
「真実、その一。……この地下道には、超音波によるホログラム投影装置が仕込まれている。……三人の久世は、本物の久世さんが失踪直前に記録した『三つの異なる感情の残像』だ。……怒り、焦燥、そして……絶望」
一番左の久世が、銃口を沖田の眉間に向けた。 真ん中の久世は、顔を覆い、何かに謝罪するように震えている。 右の久世は、冷徹な殺人マシンのような無表情で前進してくる。
「真実、その二。……本物の久世警部補は、今、この地下道の真下……記憶の墓場の入り口で、自分自身の『裏切り』を石像として固められている最中だ」
その言葉が放たれた瞬間、三人の久世が同時に引き金を引いた。 しかし、銃声は響かなかった。 放たれたのは、弾丸ではなく、人間の意識を瞬時に石灰化させる、特殊な「音響弾」だった。
沖田は、真鍮の鍵を自身の耳の穴へと突き刺した。 鼓膜を自ら破壊し、物理的な音を遮断することで、音響弾の効果を無効化したのだ。 視界が激しく揺れ、激痛が脳を突き抜ける。 しかし、その激痛の果てに、沖田は「四つ目の影」を捉えた。
「真実、その三。……志乃! 2時の方向、天井の排気口だ! ……そこに、この影を操る『観測者の指先』がいる!」
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