【映画】「ARCO/アルコ」未来は希望に満ちている
今年アカデミー賞長編アニメーション賞にノミネートされたフランスの映画「ARCO/アルコ」を観てきたので感想など綴りたいと思います。
映画について(ネタバレなし)
気候変動により荒廃が進んだ2075年の地球。
10歳の少女イリスはある日、空から虹色の光を放ちながら降って来た不思議な少年を助ける。
その少年アルコは、虹色マントの力によりタイムトラベルが可能となった遥か未来から不時着したのだった。
その不思議なマントを手に入れようと、謎の3人組が迫ってくる。
イリスとアルコは、追っ手を振り切りながら元の時代に戻る方法を旅に出る。
冒険の果て、二人が目撃にする衝撃の未来とは ― 。
この映画は監督のウーゴ・ビアンヴニュさんの初の長編アニメーション映画であり、5年の歳月をかけて制作されたフランスの作品です。
ビアンヴニュさんが長らく温めてきたストーリーを2年半かけて絵コンテにしフィリックス・ドゥ・ジブリさん(今作のプロデューサー)がストーリーに仕立て、その後作品制作の資金を調達するために長編のアニマティック(ラフ映像)を制作し出資者へプレゼンして無事に「ARCO/アルコ」を作品にすることが出来ました。資金調達の際はアニマティックを観て気に入ったというナタリー・ポートマンがバックアップしてくれたそうです。
3名でアニマティックを作った後は、130名規模の大プロジェクトとなり無事に作品が完成。
いやはや、やっぱりそのぐらいの規模感じゃないと各映画賞エントリーやノミネーションを獲得したり、はたまたフランスから日本の劇場に届くような作品はなかなか出来ませんよね。
もちろん規模だけでなく作品のクオリティも大切で、優しくて美しくて希望あるお話の「ARCO/アルコ」はビアンヴニュ監督の思いが沢山詰まった深みのある映画なんですよね。
そして、彼がインタビューで「2Dアニメーションこそ最も美しい真実を描き出せる」と答えているように、本作は2Dキャラクターと写実的な背景画との組み合わせからなる伝統的なセルアニメーションの手法を取っています。それは私たちが生まれ育ってからずっと慣れ親しんできた映像であり、懐かしさと温かさを感じます。
私はやっぱり2Dアニメーションが好きですね。
「ARCO/アルコ」のパンフレットにはビアンヴニュ監督のインタビューが6ページ掲載されていますので非常に読み応えがありました。インタビュー内容は次の「感想など(ネタバレあり)」でも少し触れていきたいと思います。
日本での劇場公開、シネコンではほとんど日本語吹き替え版が上映されていました。
私は断然字幕派ですし、フランス語は過去かなり勉強してきたので今回の作品もどうしても字幕版が観たかったです。幸い行きつけのミニシアターで字幕版が上映されたので良かったです!
フランス語に馴染みのある方は是非字幕版での鑑賞をお勧めします。
さて、次にネタバレありで感想などを綴っていきたいと思います。
感想など(ネタバレあり)
ストーリーについての感想
ビアンヴニュ監督がインタビューの中で「SFというジャンルではまるで預言者のごとくディストピアを描いた作品がたくさんあります。(略)悪い未来像は想像しやすいのです。私はその逆で『希望』を与えてくれる物語を求めたのです。」と語っているように、「ARCO/アルコ」に出てくるキャラクターたちは全員良心的でとてもよい人たちです。
謎の3人組も、最初こそ悪人に見えますが実はそんなことなく拾ったダイヤモンドをちゃんとアルコに返してあげています。
ナニーロボットのミッキでさえ、まるで心が通っているようにイリスとアルコを献身的に火災から救助します。
敢えていえば、イリスが未来に連れて行って欲しくてアルコに自分のわがままを通すのがちょっとあれなんですが、そのぐらい夢見る子供は普通ですよね。
そしてそんなイリスに想いを寄せるクリフォードが彼女をドームの外へ一生懸命押し上げてあげるシーンに胸がきゅんとしました。だって、アルコと一緒に行ってしまったら、クリフォードはイリスに会えなくなるかもしれないのに。
いや~、本当に皆いいキャラクターなんですよ。
家族連れでも安心して子供に見せられる映画になっていると思いました。
そして私は後半2度号泣しました。
一つ目は、ミッキが破損し自分の記憶が消えていく中で洞窟でこれまでの思い出を壁画に残すシーン。
アルコとイリスの二人の友情物語がメインのお話かと思いきや、人間味あふれるロボットに泣かされるなんて思っても見ませんでした。
ミッキ~。泣。泣。
ミッキの心臓(ライト)をイリスは持って洞窟を出たので、アルコが帰った後、その心臓に新しい体を貰っていたらいいな。。。。。
二つ目は、行方不明になったアルコを長年探し続けて歳を取ってしまったアルコの両親と姉がアルコと再会する場面。
様々な時代を時間移動する中で歳を取ってしまったなんて、とても残酷だけれどそんな代償を負いつつアルコとの再会を諦めなかった家族の愛が本当に泣けました。
そして、忘れてはならないのは「ARCO/アルコ」のストーリーが未来への「希望」と共に私たちにいくつかの「問題提起」をしている点です。
2075年の世界では気候変動が激しくガラスドームで保護された家に住んでいます。そうしないと天候が激しく荒れて人々は生きていけなくなっているんですね。そして、アルコがいる遠い未来では地球がもう限界で人々は天空に高く立つツリーハウスで生活をしています。
その生活も「地球を休ませるための『大休閑』」なのだそう。「大休閑」というのが新しい視点ですが、そうなるまで人間は結局のところ地球を酷使してしまったということなんですよね。
環境破壊については、今すぐに出来る事も多々あるので世界が国境の垣根を超えて取り組んで欲しいです。
イリスの時代ではブルーワークから子育て、家庭の仕事、学校教育に至るまで全てロボットがこなしています。病気でさえロボットがあっという間に治してしまいます。
しかし、便利である一方で厳しい監視社会になっているのでその中で人々が息苦しい生活をしていることになります。
仕事で忙しく不在がちな両親はイリスに自分たちのホログラムを通して対話しますが、寂しい思いをしているイリスの気持ちも痛いほどわかってしまいます。
なんでも機械やAIに頼り技術革新することが人間の幸福につながるのでしょうか。
AIの進歩が目覚ましい昨今で、一度立ち止まって考える時間も必要なんじゃないのかなと思ってしまいました。
アニメーションについての感想
「ARCO/アルコ」はシナリオありきではなく、アニマティックの作業が核心だったといいます。
どういうことかというと、ビアンヴニュ監督は予め完璧に用意されたシナリオ通りにアニメーション制作をするのではなく、アニマティクスを制作する中でアーティストが「未知へのゾーン」の体験(制作に没頭することによって外の世界と断絶した環境下)によって無意識の領域を自覚し、その無意識をいかにして作品に落とし込むことが出来るかが必要といいます。
また、人の手によるドローイングにはコンピューターの描く完璧な絵とは違い曖昧だったりエラーもある。しかしエラーには、質の良いエラーとそうでないエラーがあり、そうした「美しいエラー」の中から新しいアイデアが生まれてくる、とも語っています。
シナリオよりもアニマティック制作をメインとして生まれた本作は「完璧ではないこと」と「制作者が無意識の領域に踏み込んでいること」の二つが混ざり合っていることにより、人々に感動を与えることとなったのかもしれません。
これはアート制作あるあるなんじゃないかなと思いました。
実は私も今はアニメーション制作の際結末を決めずに作り始めることが多いんですよね。描いているうちにひらめきのようなものが降りてきたときは自分でも満足できる作品が仕上がることが多いです。
けれど過去クライアントワークではしっかり描き込んだ絵コンテを出さないとGOサインが出なかったので、絵コンテで燃え尽きてしまって本制作では「とにかく仕上げなきゃ」という気持ちが強すぎて自分が楽しめなくなっていたことも多々ありました。自分が楽しくなかったら、人を楽しませることなんで出来ないですよね。
私の場合、ビアンヴニュ監督のいう「良くないエラー」で終わることも多いので不完全なままの作品も多いです。
アーティストは「作品がその人となり」だと感じてしまいますね。
ビアンヴニュ監督のアニメーション制作に対する考え方が非常に興味深かったので、今後の彼の作品もとても楽しみになりました。
長編アニメーションは制作期間がどうしても長くなるので、5年先か10年先か分かりませんが、彼の描く「希望」と「未来」がまた見たいと思いました。
日本では3DCGのアニメーション受けが良いですし、日本アニメの作画とは異なるヴィジュアルの「ARCO/アルコ」なので、どのぐらい一般の日本人の観客に受け入れられるのが分かりませんが、メビウス好きな方は絶対好きだと思いますし、小さいお子さんなどはすっと受け入れてくれそうな気がします。沢山の人に観てもらえるといいな。

「ARCO/アルコ」
私的にこの映画の評価は★★★★☆でした!
