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海と空と、旅人と海鳥と【焼尻島】

 ほんの1時間。たった25km。なんてことない時間と距離。それでも十分に、旅を感じさせてくれる。だから、海は偉大だ。

 いつもぼんやり眺めているだけの海を渡る。それだけで特別だ。穏やかに見えていた海は、少し沖に出るだけで、平然と裏切ってくれる。海面は波模様をうねらせ、水しぶきとなり、潮風となる。そして、小さな船体を大きく揺らす。

 これぐらい、がっつりと揺れた方が逆に船酔いしないかも。しばらくデッキで海を眺めていたら、徐々に島が近付いて来るのが見えてきた。でも寒くて、やっぱり客室でゴロゴロ。ちょっとウトウトしていたら、もう良い時間。ボーっと汽笛を響かせ、あっという間に着岸だった。

 焼尻島。原生林が残る島。

 今は曇り空だけど、これから晴れる予定。フェリーターミナルより、まずはキャンプ地を目指す。キャンプ道具一式を背負い、10インチのミニベロに跨った。ウキウキとペダルを漕ぎ出すも、登り坂と向い風。辛い。やっぱり歩いた。それでもたったの十数分で到着。島の一番南側。時計で言うと、3時から6時に移動した感じだ。東西に細長い島ではあるけれど、それだけ小さな焼尻島。

 焼尻島で唯一のキャンプ地、白浜野営場。南からの海風が強く吹き抜ける。時折、波の音が爆ぜる。海も空も、広くて青い。電波は大体圏外。トイレはちゃんとある。それ以外は何もない。ただ、階段を降りればすぐに海岸だ。

 サクッとお昼を食べて、サイクリングへ。

 焼尻島は一周約12km。天売島に近い西側が、やや標高が高くなっている。それでも標高差70メートルくらい。のんびり走っても、1時間くらいで1周できちゃう。ほど良いアップタウン、眼下に広がる草原と海。気持ちが良い。

 何にもない。それが良かった。海と空に包まれて、時間も空間も守られている気がした。その輪郭を認識して、初めて自由だと思った。限られているのではなく、限られている中で、本当の自由だ。だから、島は良い。一周を終える頃、良い感じに日差しが強くなってきた。やっぱり島には、青い海と空が良く似合う。

 暑寒別天売焼尻国定公園にも指定されている天売島と焼尻島。海鳥の楽園とも呼ばれ、約100万羽を超える鳥たちが集うのだそう。どこからか飛んできては、岩場に留まり、また羽ばたいていく。羽を休める彼らも、また旅人なのだろう。

 夕方、もう一度サイクリングへ。17時を回ったけど、まだまだ日が高い。吸い込まれそうなくらい眩しかった。

 いつまでも、空が明るい夕暮れだった。星もきっと、綺麗だったんだろう。寝る時も起きた時も、星より空が明るかった。

 翌朝は、島の中心部をお散歩。中心部はオンコの原生林となっていて、地を這うように枝葉を伸ばし「オンコの荘」を織り成す。島の3分の1が原生林だ。

 鳥のさえずり。揺れる木漏れ日。遊歩道になっていて、お散歩にもぴったり。

 ハートの坂で、地元のお婆ちゃんに出会った。「どこから来たの?焼尻島はどう?」と声を掛けられた。

 50年程前、島へ嫁いで来たらしい。その頃は、もっと島民も多かったし、漁業で賑わっていたそう。今の人口は百数十名。少しずつ、人は減っていく。その時代の流れと、物寂しさには抗えない。「こうなると思っていなかった」と、静かに溢した。

 そうかもしれない。夏はフェリーターミナルの食堂を営むそのお婆ちゃんは、島を訪れる人々をたくさん見て来ただろうし、何よりも島の生活も、そこで生きる人々も、その変化も、ずっと見て来たのだろう。嘘か誠か、「結婚なんてするもんじゃないわよ」と笑う顔は、少し寂しくもあり、優しかった。

 島の朝は、静かに目覚める。ジリジリと気温が上がってくる。

 旅人は、なぜ島へ訪れるのか。

 昨日のキャンプ場では、愛知からやって来た人に声を掛けられた。羽幌で2泊し、天売島と焼尻島を満喫しているみたい。ツアーにも参加したとか。
 帰りの港で会った人は、神戸から北海道へ、3週間の旅をしていると語っていた。ふらっと島を訪れて、1時間半だけサイクリングを楽しんだようだ。昨日は朱鞠内湖で車中泊、明日は旭岳へ登る予定らしい。

 旅人たちが訪れ、羽を休めて、去っていく。何もなくて、それでも何かがあって。ほんの一瞬。

 やっぱり島には、海と空の"青さ"がよく似合う。

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