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タヌキと春はあけぼの


春はあけぼの、そういうものだとおもっている。

夏は夜で、秋は夕暮れ。たしかにそうかも知れない。

が、それは風邪引いてない人たちの話だ。

無理して会社に行った。今日は大事な会議があった。

役員すごく機嫌悪かった。へこへこする部長は部下のせいにばかりした。ああ、、社畜っ。


なんとか1日が終わり、這うようにして家まで帰って来た。

と玄関先にタヌキがいた。背中に袋をしょってた。

わたしを認め、彼の顔がぱっーと輝いた。

ヤバイっ!災難が降りかかって来る例のパターンだ。

「先日は、楽しかったですねっ!」

人なっこく、むさくるしい毛皮がぐいぐい寄って来た。

「いやいや、この前は壮絶ひどい目に会ったんだ。もう、ぜったいキミとはどこにも行かないっ。」

追い返そうとすると、

「そんな、まだ要件も言ってないです。ああ、、わたし嫌われちゃってるんですね。ぐすん」

見る間に目に涙が。。

もうほんとそういうの止めて欲しいっ、ずるい。


お誘いではなく、相談だという。

「わたし、もうあなたにおすがりするしかありませんほろほろ」

「そんなことないっ!無理っ!さよならっ」

「いや、未だなんにも言ってません」

「そおぉ?!」

「ああ、、あなたはわたしがやっぱりお嫌いなんですね?

あっ、そうかっ。わたしまだ恩返しが十分ではなかったですね!!

すみません!じぶんの心配ばっかりして気が付かなかったです。

わかりましたっ。今夜も大きな夢をっ」

「だめ!、もう絶対に、完全に、夢は要らないっ!!

二度と!、金輪際!、未来永劫!、気にしないでくれっ!!

ほらほら、きみの心配事の方が先だ。話してくれ。」

「ああ、、あなたはなんて優しいんだろう。ぐすん、ぐすん」。

タヌキはモリモリ元気になった。


最近は円安で、ベトナムやインドネシアから働きに来るタヌキが減り、ブータンとかミャンマーから来る。

ホッキョクグマにしつこく虐められてるウクライナのみんなも徐々に増えている。

で、やっぱり言葉が分からなくて、辛いのだそうだ。

子タヌキが虐められても助けてやれない。自分だって、困ることばっかり。

トイレで流そうと思う。

が、「ビデ」と「おしり」の文字の違いが分からない。むむむ・・。

スーパーのチラシもらっても、「お肉お得日」と「5倍デ―」の意味が分からない。いつ行ったらいいん?

で、これが村議会でも取り上げられ、たまたまそこに居あわせたこのタヌキにみなの視線が揃った。


「ごくつぶしがって、みんな、言うんですよ。お前が頑張れって。

ええ”-、わたしですかぁ??

そんな、、わたし、どうしていいのやら、ほろほろ。

とつぜん、あなたのことが閃いたんです。ピカッ―って。

任してください!ってこの口が言ってました。

誠実なこころ優しい人間をひとり知っておりますと。

というわけで、どうぞどうぞ、世界平和のためです、ご協力くださいっ。ぺこっ」


ぜんぜん、納得できない!!

風邪引いて死にそうなわたしが、何で日本語講師なんかしないといけないんだっ!

ぜったい、わたしはタマゴ酒飲んで早めに寝るんだっ。

前回でこりごりだ。もう、わたしを巻き込むことは絶対やめて欲しいっ。

だいいち、わたしは春はあけぼの以外、ろくに日本語をしらないっ。


タヌキがいった。

「講師はボランティアで無償ですが、そんなの、はした金ですよねっ。

前回、お話した徳川埋蔵金のありか。あれ、分かるかもしれません。

わたしたち、掘り当てついにお金持ちになるんですっ!」

おおーい、おい!おい!

その「わたしたち」って言う言い方、辞めてくんないか!

聞くたびに、ひどい悪寒が走る。

それに埋蔵金なんていうたわごと、もう二度と付き合わんっ。

なんだか、からだがフラフラ、ぞくぞくする。

熱が出て来ているんだ。断じて、行くもんかっ!!!!!


「公民館で今頃、みんな、おいなり食べてます。

無償です。これがすごくおいしんです。わたしお薦めする、絶品です。

さぁさぁ、みんな待っております。

参りましょう。世界平和だーっ!」

腹がぐぅーとなった。



公民館は意外に近かった。

3軒隣の家と、さらにその隣との間の細い路地に入る。

と、「タヌキの公民館」と書かれたりっぱな3階建ての建屋が現れた。

な~んだ、、こんなところにあったのか。

なぜ、今まで気が付かなかったんだろう?

部屋に入り、挨拶するために前に出た。

うん?小さなタヌキがいっぱいいるぞ。

目がくりくりしてる。かっ、かわいいぃ。

いや、しかし、ここは心鬼にして言った。

「僕、日本人ですがいまいち勉強不足で、日本語文法しりません。

やる気、ぜんぜんありません。務まらないと思います」

1つだけ、はっきり分かったことがあった。

みんなは、とにかく何んにも理解できないのだ。

きっと、先生はがんばろーって言ってると思って、エイエイオーってな感じで大喜び。ありゃりゃりゃ。


おいなりがやけにうまかった。きっと専属のキツネのおばさんが作ってる。

「ええと、」と始めるも、ぜんぜん聞いてない。

ほんとにみんなは勉強したいのか疑問だ。すぐに騒ぎ出す。

「おおい、こんなんじゃ、とてもダメだよ。それに引いた風邪が辛い。もう帰らせてくれれぇよろよろ」

意外なことに、タヌキはそうですね、ではお見送りいたしますと素直。うん??


公民館を後にした。

歩きながら、実はとタヌキが言う。

先日、月から帰る際、お姫様からお二人にと、手渡されたものがございます、と。

背中にしょってた袋から、小箱を取り出した。

「姫様が、これは帰るまで絶対に開けてはなりません、と言ってくださったんです。

たった1晩お仕えしただけなのに。。ほんと、お優しい。ぐすん。

わたし、開けたいのですが、これはわたしたちにくださったもの。

今夜、ようやく開けることができます。さあ、開けますよ」


実に嫌な予感がした。たしかこれはどこかで読んだことがあるぞ。

ベェルヌの海底2万マイルだったか。SFしか読まないので、ちょっと外してるかもしれない。

タヌキは小箱のフタを開けた。

と、盛大なモクモク煙とともに、巨大な魔人がどどーんって現れた。

真っ黒なやつで、頭にターバン巻いてる。

そうだ、これは鉄腕アトム?いや、ぜんぜん違う気もする。


目前に飛び出て来た魔人が上からわたしたちを睨みつけながら言う。

自分は2万年も箱に閉じ込められていたのだと。

「油断してたぜ、まったく。あっという間だった。

セーラー服着た娘っ子に、お、し、お、き、よぉーって封印されたのだ。くそっ。

今度出たら、力の限り、暴れるぞって誓ったさ。

ああ、、どんなにこの日を待ちわびたか分かるか?腕がむきむきするっ。

が、その前にだいぶ腹が減っている。

毛むくじゃらのお前、お前を鍋にして食べよう。

いや、しょぼくれたサラリーマン風のお前からサシミにして食べよう。」


タヌキは震え上がり、「家にはかわいい七つの子がおります、ご勘弁くださいほろほろ」と泣き叫ぶ。

わたしは、「風邪を引いておりコロナかもしれませんこほこほ。

あなた様が感染いたしますげほげほ」と、じんせい最大の演技を。

姫様、ひどい。

その2枚舌の行政手腕、都知事がりっぱに務まるかもしれない。

月に置いてはやっかいだからと、文字通り地球にお払い箱したのだった。

で、わたしは、タヌキを介してそれを見事、引き当てた。

何度宝くじ買っても当たらず、年賀はがき末等でも当たらないわたしが。

今夜無事に家に帰れそうにない。

いや、明日だってどうなるか分からない。

ああ、、あしたは、ほんとにほんと、大事な社畜会議があるんだっ。

オレのサラリーマン人生がこんどこそ、終わる・・・。

ヘロヘロした部長の顔が浮かんだ。なんだか、とっても懐かしかった。



魔人はふむと言うと、魔法の絨毯を取り出し、わたしたちを載せてあっという間に空へ。

タヌキが、恐る恐る聞く。

「あのぉ、どこまで」

「うん、思い出したのだ。お前たちなんかより、ずっとうまいモノがあるってな。」

「さようでございますか。良かったです。

では、わたくしたちはそろそろ帰らせていただこうかと」

魔人はタヌキをギォロと睨みつけた。

「バカ言っちゃいけない。2万年越しに、やっと手下が出来たんだ。

お前たちは死ぬまでオレのものだ。こき使うっ。嫌になったら、食う。がははははっーーーーー。」

進撃の大魔神だった。あれぇ~。

不運にも程がある。絨毯の隅っこでわたしたちは身を縮め、泣いた。

粗い毛皮が身を寄せて来た。

風がビュービュー流れ去る。うっ、妙な同志愛が芽生えそうっ。

しかし、なんでこうも悲劇ばかりが最近襲って来るようになったのか、釈然としない。


魔人が着いたのは、今でいう六本木三丁目だった。

なんでこんなハイカラな所を知っていたのかと不信に思ったが、黙っていると、

巨大なビル見上げながら、「このへんに寿司屋があったはずなんだが」と言う。

2万年前に寿司屋があったんかいっ!

タヌキが、では近くにウマイ、つけ汁のラーメン屋がございますと。

六本木の交差点まで案内する。

巨大な体がのれんをくぐったのはいいがとんと出て来ない。従業員まで食っちゃってる?

ま、なにせ、2万年ぶりだものな。溢れる食欲なんだろう。

食われないで、よかった。。

外でじっと待っているのもおバカだと気が付いた。

ふたりでこれ幸いと全力逃げた。

電車が地下鉄のホームに入って来る。乗り込む。ドアがぴたり閉まる。

あああ、、、助かった。ドキドキが収まらない。


「なぜ、キミが現れるといつもこうもとんでもない災難が起こるんだっ」

「いえ、わたしのせいでは、たぶん、ございませんほろほろ」

「じゃ、誰のせいなんだっ!」

「・・・・・ほろほろ」

ほろほろじゃないだろ!

タヌキを責めても無駄なので目を閉じた。

男には黙って踏ん張らねばならない時があるのだ。

ふと横を向くと、毛むくじゃらの手足短いタヌキがこっくりこっくり寝始めた。

ひたすら地下の漆黒のトンネルを電車が疾走して行く。

疲れたんだろうなぁ・・。

こういうシーン、弱いなぁ。

不器用で一生懸命な者を見ると、つい同情してるうちに、なんだか愛おしくなる。

いけないっ!わたしの悪いクセだっ。

冷徹なサラリーマンに成ろうと心鬼にしたっ。

と、疲れと風邪とで疲弊していたわたしは、寝てしまった。

ごとんごとん、ごとん・・。

こっくりこっくり、こっくり・・。

長い一日が、、、終わらない。


気が付くと、終点らしい。電車はぴたりと動かなくなった。

乗降する客もぜんぜんいない。車内に誰もいない。

放送もない、車掌も駅員も人っ子ひとりいない。

とっぷり暮れている。ここはどこだろう?

「タヌキくん、タヌキくん」

タヌキは、「あっ」と言った。「ここは一度来たことがあります」。

駅を出ると、すぐに洞窟があり、そこに大きな扉がありますという。

誰も居ない改札を出る。

いきなり、開かずの扉がある洞窟が目の前に現れた。

タヌキが呪文をお願いしますという。

おお、、わたしもなぜか知っているぞっ。「開けー、胡麻っ」

ぎいぎぃと扉が開き始めた。

扉の奥まで洞窟が口を開け、おお、、ひどくぴかぴか。

ご幼少のみぎりの頃、ならった通りだった。

首飾り、腕輪、なんちゃら、、金銀財宝がいっぱいだ。

タヌキが言った。

「徳川の隠し財産より、すごいですっ。

ああ、、ついにお金持ちになれます、わたしたちぃ!」

タヌキは大喜びだけど、この手のうまい話はそうは問屋さんが降ろさないのが定めだ。


ごぉーーというすんごい音と風とともに、なにやら黒くオッキイものが洞窟に入り込んで来た。

「がははははっーーーーー。」

響き渡る声。。ああ、、魔人だっ。

たらふく食って上機嫌の魔人はいった。

「触るなっ、俺のもんだ、あっち行け、食うぞぉ!」

ひえぇー。タヌキとおれは外に転がり出た。

ひとりじめしようというのだ。イーロンくんも驚くほどのお宝なのに。。。

そうだ、扉をすぐに閉めてくださいとタヌキがいう。

「閉じろー、胡麻」とわたしっ。

気が付いた魔人が騒ぐが時既に遅し。ぎぃー、ばたんと扉は閉まった。

わたしたちは、腰が抜けてへたりこんだ。

せっかくのお宝が。。




春は、あけぼの。

駅のホームで朝の来るのをわたしたちは虚脱して待った。

やがて、一番列車が来た。

駅に着くたびに、うらぶれたサラリーマンたちを電車が拾って行く。

ああ、、これで社畜会議に間に合う。

安心したとたん寝入った。


目が醒め気が付くと、家の前だった。

わたしの顔を覗き込んでたタヌキが、嬉々としていった。

「いかがでございましたでしょう。金曜ロードショーでした。

夢の大冒険シリーズは他にもいろいろあるんですよぉ。楽しみですねっ!

わたしたちの一生の思い出になりましたねっ!」

もうほんとに、なんのはなしです火!



P.S.

シリーズ第2段です。

ぜんぜん、関係無いけど、Boeing 737も素敵。

ほら、月に行けそうでしょ?夜になるとなぜか果てしなく旅に出たくなるっ。


P.S.のP.S.

日本語教師(ボランティア)に成るべく毎週、講習会にいってます。

昨日は、フィリピン人とアメリカ人の学習者に来ていただき、わたしたち先生のタマゴ30人が模擬授業をしました。

デビューも近いが、むずかしいぃー。

オメメ、くりくりの可愛いお子たちも待ってるかな。


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