座ってはいけないベンチ
この街にはベンチがたくさんある。通常バス待ちのために置かれているのだろうと思うけれど、バスとは関係の無いところに置かれているのもある。もしかしたら、この地は、山を削って作っており、坂が多いからかもしれない。坂を登りきれないときに少し腰掛けて休憩してからまた登るのかもしれない。
そんな中、『座ってはいけないベンチ』というものが存在すると聞いた。噂は世間話として聞くから、どだい信じていないけれど、その座ってはいけないベンチに座ると動けなくなるそうだ。そして、具合が悪くなるそうだ。
私は勤め先まで徒歩で行っている。夏の間は熱中症で倒れたことがあるためバスを使うが、それ以外は徒歩だ。交通費がもったいないし、私はなにより歩くのが好きなのだ。
しかし、この間、体調が悪い時があった。ふらふらするし、手足の感覚はないし、頭はぼーっとして動かないし、身体も動かしにくい。歩くスピードは早いほうだけど、そのときは二分の一くらいの早さでしか歩けず、タクシーを呼びたいくらいだった。だが、お金をそんなに持っていないし、バスも一時間に一本という狂気のシティ。私は歩いて帰ることを決意した。
数分後、私はバテた。暑いし、その場でしゃがみこんだ。人が歩くところではいけないと思い、建物の壁側にしゃがむ。ちらほら、通行人に見られる。だめだ、せめて立って歩かないと。しかし、起立性低血圧もあって、ふらついて、またしゃがみこんだ。そのとき、バス停のベンチが目についた。あそこまで頑張って歩いて、少し休ませてもらおう。
私は錆び付いたベンチに座った。ひといき。身体が軋む。なんでこんなにしんどいんだろう。別段、メンタルがやられているわけではない。熱もないのに。面倒な身体だ。
常備しているペットボトルのお茶を飲む。うーん。座っているけれどふわふわする。勤め先で休ませてもらった方が良かっただろうか。でも、少し勤め先から離れてしまったのでもう一度戻りづらい。何とかして帰ろう。だが、私は動けなかった。えっ、これはまさか。件の、ベンチなのではないか? 脳裏によぎる噂話。いや、面白い人達だけれど信じ切ってしまったものがアホをみるのだ。うん、違うと思いたい。でも、既にベンチに座ってから三十分が経過していた。なぜ? 全然体調が復活しないからスマホをいじっていたからだと思うけれど。いや、しかし、もしかして。体調が復活しない……? 確かに先程まではなかった吐き気も催してきた。えっ、これがまさか、例の? 私は恐怖を覚え、おそらく退勤しつつあるだろう恋人にLINEをしてみた。
『ねぇ、お兄さん 私、座っては行けないベンチに座っちゃったかも』
『は、はい?』
ちなみに恋人は変なところはあるが、たいてい常識人である。
『勤め先で噂になってた 座ると動けなくなって、具合悪くなるって』
『???』
『あなた体調悪いの?』
『うん、ちょっと』
『それ、体調が悪い人がベンチに座って、風邪のひきはじめみたいに具合悪くなっただけの話では?』
私はめちゃくちゃに納得して思わず声を出してしまった。
「ああー!」
そのまま、LINEに『なるほど、納得』と返して、『うん、じゃあ、多分迷信だから頑張って帰るわー』と打つと『はいな!』『気をつけてー』と来た。
私はベンチから立てた。
あっ、やっぱり、迷信だったか。信じ込みやすいし騙されやすいんだよなー。立ったらことのほか体調悪くない気もした。
そして、数十分後普通に帰宅できて、恋人に電話で笑われまくり、私はまた伝説を作ったのであった。
