斎藤幸平さん「10~20年後、社会主義者がアメリカ大統領になる」
12月21日に行われたLIN-Net(ローカルイニシアティブネットワーク)発足3周年ミーティング「分断から包摂へ 地域から民主主義を修復しよう」の第1部「『民主主義の危機』を超え自治とコモンの力を」における経済思想家・斎藤幸平さんの講演をレジュメ風に書き起こしてみました。
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*分断の広がり、民主主義の危機、排外主義の台頭。
*日本は円安、インフレ。ドイツでもインフレが進み、旧東ドイツで「AfD=ドイツのための選択肢」が第一党になる地域も。国会でも第二党。4人に1人が排外主義の政党に投票。背景に将来への不安、「EUの下で見捨てられている」という不満、「外国人が自分たちの仕事を奪っている」という陰謀論的なものも含む憎悪。同じ状況がアメリカ、フランス、イギリスにも。日本でもこの1年、急速に広がった。
*円安は簡単に解決せず。経済が成長し、再分配していけば問題が解決できるという楽観的な考え方はもはや通用せず。戦争、気候変動-未来はますます悪くなる。これは妄想ではなく客観的な現実。
*「それはあいつらのせい」とする言説に呑み込まれると、ポピュリズムの下で社会は行き詰まり、分断される。
*アントニオ・グラムシは100年前、「危機はまさしく古いものが死んで新しいものが生まれることができないという事実にある」と。中間的な時代には様々な病的現象。今、新自由主義は行き詰まっているが、それに代わる新しい社会をどの政党も示していない。その不満を吸収するポピュリズムが台頭。当時のイタリアではムソリーニらのファシズムが20年代に台頭。グラムシは逮捕され、獄中で健康を害し、亡くなる。病的現象はまさにファシズムに。
*病的現象として右派ポピュリズムが台頭する中での皮肉な事態-こういう状況なら左派的なアイデア、リベラルな思想が力を持つはずなのに、むしろ弱体化。われわれは人気がない。
*10~11月、ニューヨークのニュー・スクール・フォー・ソーシャル・リサーチからナンシー・フレイザーさん(マルクス・社会主義・ジェンダー研究者)を東大に招いた。彼女の問題意識の一つは、冷戦後30年間のリベラル左派の政治が「階級」から「アイデンティティ」に、「再分配」の政治から「承認」をめぐる政治に、移っていったこと。例えば、金持ちに税金をかけ再分配して社会保障を手厚くすることから、LGBTQ・人種・女性の社会進出といったアイデンティティの「平等」に力点が移っていった。それ自体は大事な問題。だが、今「行き過ぎた平等はよくない」というバックラッシュが。
*アファーマティブ・アクションや多様性は大事だが、「その上でみんな競争を」「チャンスを与えるからあとは自己責任で頑張って」という社会になる可能性。アメリカの民主党を見ると分かりやすい。民主党支持者はニューヨークなど東海岸やカリフォルニアなど西海岸に住む、お金に余裕のあるエリートたち。銀行員、大学教員、ジャーナリスト、弁護士、医者、アイビーリーグと呼ばれるエリート大学を出た人たち。自分はゲイであると公言しながら、シリコンバレーでCEOを務める人たち。
*多様性を言いながら、経済的には減税・規制緩和など新自由主義的な考え方。これを"Progressive Neoliberalism=進歩的新自由主義"とフレイザーは呼ぶ。それによって周縁化され、「自分たちは代表されていない」と感じるようになったのが労働者たち。ラストベルトや中西部の人たちは「沿岸部のエリートたちに見捨てられた」という不満がたまる。その不満を吸収したのがトランプ政権。
*地元が廃れていき、日々の生活にも困り、将来に不安を抱え、若者たちは都市部に行き、自分たちは仕事がない。都市部に行っても、大学ローンを背負い、高い家賃を払い、生活はかつかつ。アメリカが極端だが、ドイツでも日本でも同じ構造。
*こうした不満を前に、左派も労働者や若者、経済的困難を抱えた人たちに訴えかける政策が必要だったが、エリートたちの考えにばかり目が向いた。そこに生まれた分断を救ったのがトランプ、MAGA派。「行き過ぎたアファーマティブ・アクションが移民やLGBTQ、女性といった一部の者たちに有利な社会をつくった」とし、伝統的な家族観・宗教観、ナショナリズムを打ち出した。これが右派ポピュリズム。
*横軸で左(Progressive=「承認・包摂」重視)か右(Reactionary=排外主義)かを示し、縦軸で上(Neoliberalism=「競争」重視、エリート目線)か下(Populism=「再分配」重視、労働者階級目線)かを示すと、民主党主流派は左上=Progressive Neoliberalism(進歩的新自由主義)。それに反発するのがかつてのティー・パーティーのような右上=Reactionary Neoliberalism(排外主義的新自由主義)だが、アメリカでは力を失う。今の共和党で力を持っているのは右下=Reactionary Populism(反動的[排外主義的]ポピュリズム)。
*これら3つに対し、より包摂的で同時に労働者の利益を重視する=「承認」と「再分配」のどちらも重視する道が左下=「左派ポピュリズム」「Progressive Populism」。
*今までの民主党は「再分配」をやめて「承認」重視。トランプたちは「承認」をやめて排外主義だが、「再分配」重視(さほど「再分配」していないが)。
*「承認」と「再分配」のどちらも重視する道は困難な道だが、経済・ジェンダー・環境・人種の問題を包括的に扱う。分断を乗り超えて包摂的な社会をつくる唯一の道。
*日本でこの左下(左派ポピュリズム)に来るのは誰か。しかし今、トランプと同じ排外主義的ポピュリズム・減税ポピュリズムが主流。立憲民主党の弱さは都会のエリートと思われているところ。「自分たちのほうを向いていない」と感じる若者や現役世代を向いた「Progressive Populism」を。日本ではまだ存在しないが、海外ではついに現れた。
*それが「Democratic Socialism=民主主義的社会主義」、ニューヨーク市長になったマムダニ。34歳、インド系、ムスリム、アフリカ出身、元ラッパー。人種のるつぼニューヨーク市で、多様性に重きを置いた選挙戦。夜中にゲイバーに行き、ヒップホップのDJをやり、みんなで踊る。その後JFK空港に行き、ずらりと並ぶタクシーの運転手(移民が圧倒的に多く、夜中に働いているので選挙活動に触れる機会がない)に「あなたたちが苦しんでいる問題は?」と聞く。
*キイワードは"Affordability"。4つあって、(1)家賃の凍結 (2)バスの無料化 (3)保育の無償化 (4)便乗値上げしない、庶民のための公営スーパー。ニューヨークは家賃が上がり過ぎ、住めない。住民の4分の1が貧困レベル。半地下のような部屋。これを「階級」問題と言うと、古臭くて人気が出ない。"Affordability[支払える=生活のしやすさ]の政治"とブランディングすることで、階級と経済と再分配の次元を左派リベラルの政治の中心に据えた。人種やジェンダーの問題も合わせて、「再分配」と「承認」のどちらも扱う領域を切り開いた。
*最初は1%以下の支持率。1年でアメリカで最も有名な政治家の一人に。「社会主義」を掲げる政治家がアメリカの資本主義のど真ん中であるニューヨークの市長になった。
*プログレッシブな考え方は時代遅れになっていない。訴え方、運動の仕方次第で力を持つ。若い人たち、9万人がボランティアとして活動。大富豪たちがクオモに寄付する中、大富豪の支援のない候補者がここまで飛躍。大きな希望。
*シアトルでも社会主義を掲げるケイティ・ウィルソンが市長に。各地でDSAメンバーが躍進。
*アメリカでは社会主義をポジティブな言葉として使うように時代が変化。2025年の調査で、アメリカの若者の62%が社会主義に肯定的。民主党支持者に限れば、3分の2が社会主義に好意的。オバマやヒラリーよりもっとプログレッシブな考え方、バーニー・サンダースやアレクサンドリア・オカシオコルテスらが代表しているのが「社会主義」。これを支持する人がアメリカでは半数超え。
*これは大きな希望。10~20年後を見据えれば、アメリカでは社会主義を名乗る人が大統領になるのはほぼ間違いない。アメリカは社会主義になる。その時は私もアメリカに移住しようと思っている。
*これが日本との違い。日本も左派ポピュリズムがないわけではない。れいわ新選組の反緊縮政策は、再分配を重視したプログレッシブな要素を含む。しかし、日本に欠けているのは「階級」という問題。アメリカでは労働運動も盛り上がっていて、インフレ下でかなりの賃上げを達成。日本が労働運動がないまま「減税しよう」という「減税ポピュリズム」になってしまっている。
*「労働運動なきポピュリズム」を支えているのが就職氷河期世代。バブルの崩壊があり、考え方としては反社会主義・経済成長路線。れいわ新選組に顕著だが、国が積極的な財政出動や減税を行うことで経済を良くし、再分配をし、好況を生むという、国や日銀がまず変えていくトップダウン的な(私は「政治主義」と呼ぶ)要素がある。
*これに対して、欧米、マムダニらの運動は世代的にはミレニアム世代、Z世代。転機はリーマンショック(私がマルクスを研究しなくてはと思うようになったのも大学3年の時のリーマンショック)。環境やジェンダー、人種がメインの関心事で、Democratic Socialismを掲げるようになり、様々なmunicipal=地方自治のレベルで参加型で(バルセロナもそうだったが)ローカルから変えていこうというもの。
*日本でもこれをつくっていくこと。それがコモンの再生、横軸×縦軸の左下=Progressive Populismの穴を埋めることにつながる。
*日本では対立軸は「財務省」vs「反緊縮」。ある種の陰謀論。「減税ポピュリズム」で、労働運動は停滞したまま。世界では対立軸は「資本主義」vs「社会主義」。99%のための政治。労働運動やDSAが草の根的に、自治体を中心に広がる。
*これを牽引しているのがジェネレーション・レフトと呼ばれる若い世代。資本主義の下での格差や環境危機、植民地支配を問題視。グレタ・トゥンベリの活動。もとは気候変動の問題だったが、今はガザのジェノサイドの問題に取り組む。両者は無関係ではなく、気候正義の根本的考え方は最も脆弱な、影響を受けやすい人たちの立場に立ってアクションを起こす。ガザの人びとは欧米の植民地支配の歴史の下で最も弱い立場に置かれ、収奪の対象になっている。それを止めるために彼女は自らの影響力を最大限使おうとしている。
*アメリカでも多くの若者が立ち上がった。トランプ政権下、処分やビザ取り消しの問題があり、下火になっているが、運動は脈々と続き、そこで培ったネットワークがマムダニの選挙運動に再動員された。急にできるわけではない。
*フライデーズ・フォー・フューチャーも下火にはなったが、ガザの問題では出てくる。それが下火になってもマムダニ選挙に出てくる。こうしたネットワークを様々な社会問題を通じてつくっていく。その成果としてガザの停戦やマムダニ市長誕生。日本でもできるのではないか、という希望。
*コモンの再生には資本主義そのものの変革、社会主義が必要。マムダニを支援する若い世代、DSAメンバーの多くも同じ考え。
*なぜ資本主義を変えなくてはならないか? 資本主義は労働者を搾取するだけではない。同時に①再生産労働=ケア労働(労働力を再生産するための家事・育児。主に女性が無償で担わされてきた)を搾取し、②自然から資源やエネルギーを奪い、③植民地支配でグローバルサウスの安い労働と資源を奪い、土地を占領し、それを人種差別で正当化する。
*③はドイツで痛感。ガザの問題で声を上げると、即座に反ユダヤ主義と批判される。アラブ差別。戦後責任をとった国として立ち直るためにイスラエルを支持。イスラエルを支持するためにパレスチナを新たなスケープゴートに。すると、皮肉なことにナチズムを再び掲げる政党が台頭。こうした人種差別も資本主義には必須。
*様々な差別・収奪の上に国内の労働者を搾取し成長するのが資本主義。問題を包括的に解決する大きなビジョンが必要。ローカルなミュニシパル=地方自治の「参加」だけでは解決できないが、包括的な視点からどんな社会をつくっていけるかが、コモンの再生のカギ。それが、分断ではなく包摂、外国人やグローバルサウスの人たち、未来の世代を含む誰もがちゃんと普通の暮らしができることにつながる。
*言うは易く行うは難し。一つのものを守るには別のものを犠牲にするトレードオフの関係。思考の方向として意識しながら、新しい自治の運動を。
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