なぜ私のロールモデルは「鬼平」なのか?――心理的安全性を江戸時代に実現した、最強リーダーの仕事術
現代は、ロールモデル不在の時代だと言われます。
あなたの周りに、心から「この人のようになりたい」と憧れる大人はいますか?
あるいは、人生の「ロールモデル」は誰かと問われた時、即答できる人物はいるでしょうか。
もし幸運にも、実在の人物で思い当たる方がいるのであれば、それは素晴らしいことです。
しかし、もしそうでなくても、何も恥じることはありません。
価値観が多様化し、かつてのような画一的な成功モデルが崩壊した今、キャリアの海で羅針盤を失っている人も少なくないでしょう。
そんな時は、小説や歴史の中に、あなたの「ロールモデル」となる人物を探してみてはいかがでしょうか。
私のロールモデル
私自身、その問いを向けられた時、頭に浮かぶ人物はただ一人です。それは、江戸時代に実在した火付盗賊改方(ひつけとうぞくあらためかた)長官、長谷川平蔵。
もっとも、私が理想とするのは、池波正太郎の小説世界で息づく「鬼平」その人です。
なぜ、現代を生きる私が、200年以上も前の人物にこれほどまでに惹きつけられるのか。
それは、彼の生き様とリーダーシップの中に、現代の組織が失いかけている「強さ」と「しなやかさ」の答えが、驚くほど詰まっているからです。
以前、徳川家重とその側近を描いた『まいまいつぶろ』の書評で、個人の「弱さ」や「いびつさ」を認め合う関係性の尊さについて触れました。鬼平の物語は、その個人間の信頼関係を、「組織」という単位でいかにして実現するかという、壮大な実践の記録なのです。
この記事では、鬼平が率いた火付盗賊改方というチームを、現代経営理論の最重要テーマである「心理的安全性」という新たな視点から分析し、その強さの本質を解き明かしていきます。
火付盗賊改方は、心理的安全性の高い「最強チーム」だった
最近、私が書評を執筆した『心理的安全性のつくりかた』では、強い組織の条件として4つの因子が挙げられています。
話しやすさ
助け合い
挑戦
新奇歓迎(新しいことや異質なものを歓迎する)
驚くべきことに、鬼平が率いたチームは、この4つの因子を完璧に満たしていました。
まず「話しやすさ」。
鬼平は、軍鶏なべ屋「五鉄」のような場所を巧みに使い、身分や立場を超えて密偵たちと対話し、生の情報を吸い上げていました。これは単なる情報収集に留まりません。リーダーが現場の声に真摯に耳を傾ける姿勢そのものが、組織の風通しを良くし、誰もが安心して報告できる土壌を作っていたのです。
そして「助け合い」。
彼の配下には、元盗賊、相撲取り、役者崩れなど、多種多様な過去と「武器」を持つ密偵たちがいました。彼らは決して完璧な人間ではありません。むしろ、社会のレールから外れた「いびつな星」ばかりです。
しかし鬼平は、彼らの凹んだ部分(弱み)を責めるのではなく、尖った部分(武器)を見抜き、互いに補い合わせることで、一人では決して成し得ない大きな成果を上げていました。まさに「“助けて”は最強の武器になる」を組織単位で実践していたのです。
「挑戦」を許容し、「異質な者」を歓迎する器
鬼平のチームが持つ強さの核心は、残りの二つ、「挑戦」と「新奇歓迎」の因子にあります。
火付盗賊改方の仕事は、常に危険と隣り合わせです。大胆なおとり捜査や、前例のない探索など、数々の「挑戦」なくして凶悪な盗賊を捕らえることはできません。なぜ部下たちは、命の危険を冒してまで挑戦できたのか。
それは、鬼平自身がその挑戦を命じ、そしてその責任のすべてを負う覚悟を持っていたからです。
このリーダーの覚悟こそが、部下が失敗を恐れずに挑戦できる、最高の心理的安全性となっていたのです。
さらに重要なのが「新奇歓迎」の精神です。
密偵たちの多くは、元盗賊です。当時の社会常識からすれば、到底受け入れられない「異質な存在」でした。しかし鬼平は、彼らの過去を問わず、その能力と人間性を信じて組織に迎え入れます。
これは、多くの日本企業が今なお苦しんでいる「減点方式」の文化とは真逆の思想です。ミスをしないこと、前例通りであることが評価される社会では、異質な才能は花開きません。鬼平は、社会のモノサシでは「減点」だらけの人間の中に眠る価値を見出し、活躍の場を与える「加点方式」の達人だったのです。
リーダーの「覚悟」が組織の熱量を決める
なぜ鬼平は、これほどまでの理想的なチームを作り上げることができたのでしょうか。
それは、彼自身が誰よりも深く人間の弱さを知り、そして誰よりも強く「江戸の町から盗賊をなくす」という大義に己を捧げていたからです。時に自ら最前線に立ち、悪と対峙する。そのブレない軸と「覚悟」が、部下たちの心を打ち、組織に熱量を生んでいたのです。
リーダーがすべきことは、部下を「管理」することではありません。
自らが示す「覚悟」によって、メンバーが安心して挑戦できる「場」を作り、彼らが最高のパフォーマンスを発揮できる環境を整えること。鬼平の生き様は、そのことを雄弁に物語っています。
おわりに
時代は変わっても、人を動かし、組織を強くする本質は変わりません。
憧れる大人がいない、と嘆く前に、一度、時代を超えて読み継がれる物語のページをめくってみてはいかがでしょうか。
そこには、時代を超えて輝きを放つ、普遍的な知恵が眠っています。
小説『鬼平犯科帳』は、単なる勧善懲悪の物語ではありません。
それは、現代のリーダーたちが直面するあらゆる課題に対する答えが詰まった、最高の「経営の教科書」であり、人生の「羅針盤」なのです。
私も、長谷川平蔵のような「人間力」溢れるリーダーを目指し、これからも思考の「武器」を磨き続けていきたいと思います。
もし、あなたも自分だけの「武器」を見つけ、磨き上げるための「壁打ち相手」が必要だと感じたなら、ぜひ一度お声がけください。

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